第75話帰る場所 3

「じゃあ、僕はトレーを持ってくるから」


そう言うと、ハヤトは立ち去った。

入れ替わりで、マリアがトレーを持ち、こちらへやってくると、俺の隣に座る。

席についた途端、無言で食べ始めた。


喋るなら、今がチャンスかな・・・・?

黙々と食事しているマリアに声をかける。



「あのさ・・・、ごめん。負担かけちゃったよね」


苦笑いを浮かべながら、謝ると、



「どうして謝るの?そんな事より、怪我大丈夫」


マリアはこちらを見る事も、手を止める事もなく、食事を食べ続けている。

一見、俺に興味がないように見えるけれど、心配してくれた・・・・?

なんだろう。

たった一言なのに、凄く嬉しい。



「あの・・・!大丈夫!全然平気なんだ!もう歩けるし!

早く、モンスター討伐に戻りたいよ!その・・・」


必死に、元気である事をアピールすると、



「無理しなくていいのに。ゆっくり休めばいいのよ。

私達で、十分討伐は出来ているわ。


それに、トラブルの影響で、しばらくモンスター討伐は出来ないみたいだから、焦る必要なんてない」



3人で、無事に討伐出来てたんだ。

安心したような、寂しいような・・・・。

それより、さっきハヤトも言っていた トラブル って何だろう?


そのトラブルについて、聞こうとしたその時、



「アタシ、人殺しとは一緒のご飯食べたくない」


背後から不吉な声が聞こえてきた。



「そんな事言うなよ。皆で仲良く食べよう」


それをフォローするハヤトの声。


振り向かなくたってわかる。

あの不吉な声は、ミカだ。

そして人殺しとは、俺の事。


別に一緒に飯を、食わなくちゃいけない決まりなんてないのだから、個々で食えばいいのに。

ミカの挑発に応じる事はないまま、俺も昼食を食べる。


「こっちで食べよぉ~っと!人殺しと一緒にご飯食べたら、不味くなるし!」


少し離れた位置に座ると、こちらをチラチラ見ながら、ブツブツ文句を言うミカ。

なんだかんだフォローはしてくれていたみたいだけど、結局ハヤトもミカの真向かいに座り、食事をし始める。


流石、八方美人は違うな。


ミカに嫌われたら、次は自分が攻撃される事がわかっているから、俺の事をフォローしつつ、結局はミカの近くに行く。

ハヤトは、平和主義者に見えて、そういう奴だ。



ミカとハヤトのテーブルでは、俺の愚痴で盛り上がっていた。

愚痴なら、俺が聞こえない位置で言えばいいのに、それをせず、わざと聞こえる位置でギャーギャー言う。

そんな事されたって、俺は 慣れている から、怒る気さえ起こらないのに。

そんな行動をし、満足しているミカと俺は、どう考えてって合わない。

ただ、うるさいと思うだけだった。


打って変わり、静かに黙々と食事する俺とマリア。

先にマリアは食事を終え、トレーを持ち立ち上がった時、



「涼は強いわね。羨ましい」


ボソっとそう囁くと、受付にトレーを下げに行った。



「えっ?!」


驚き、マリアの方向を振り向いたが、すでに遅く、マリアは食堂を出て行った。

まさか、褒められるとは思わず・・・、というか褒められた経験がない俺は、

心臓がバクバクし、頭の中が真っ白になるという、なんとも不思議な感覚に襲われていた。




「ほら、キモッ!あいつもマリアも、行動の1つ1つがキモイのよね~」


そんな俺を指差しながら、笑うミカ。

あーーーーーー、マジであいつうるさい。



残りの食事を全て口の中に突っ込むと、



「そんな事しか言えないミカも、気持ち悪いよ」


トレーを下げると、食堂を後にした。




「なんですってーーーー!!!キモイアンタにキモイとか言われたくないんですけどー!!

傷ついたし!!絶対に許さない!!!」



キーキー怒るミカの声が聞こえる。

本当にアイツは、自分の事しか考えられない ただのバカ だ。


うるさいよ。

もう2度と声が出せないよう、喉を掻っ切ってやりたい。

まぁ、そんな事しようとしたら、また撃たれてしまうんだろうけれど。

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