第77話帰る場所 5

「どうしたの?顔真っ赤だ!ごめん!・・その・・・」


再び謝ると、



「違う。お礼言われるなんて思ってなかったから・・・・」


両手で頬を押さえ、ポツリとそう囁いた。


なんだ・・・・、照れてたんだ。

お礼を言われた事が、あまりないから照れてしまったんだね。

俺と一緒だ。

その気持ちがわかる俺は、



「そっか・・・。その・・・・ごめん」


そんな気持ちにしてしまった事を、再び謝った。



「いいの。謝らないで・・あの・・・・」


それをフォローするマリア。



俺達は不器用な存在だ。

当たり前の事だけど、今まで経験する事がなかったから、

それを目の当たりにした時、どうしたらいいのか?わからなくなる。

そんな行動は、悪気があってしている訳ではないのだけれど、

それを理解しようとしない人達は、そんな俺達を見て、変人というレッテルを貼る。

例えば・・・・・、ミカとかね。


と、頭の中にミカの顔が浮かんだ途端、強制的に現実へと引き戻された俺は、



「凄いよね、マリアは。

俺、あの岩壁を登ろうと思ったんだけど、2m地点でもうギブアップだよ」


苦笑いを浮かべる。



「いいえ、全然凄くないわ。

だって私、あの岩壁を登った事ないもの」



すると、マリアもいつもの無表情へと戻った。



「え?じゃあ、どうやって訓練しているの?」


そう聞くと、マリアはその岩壁を足場にしながら、ピョンピョンと軽い足取りで、あっという間に天井へと向かっていく。

天井付近まで到着すると、そのまま真っ直ぐ床へと落ちてきた。



「ただ、足で登るだけ。だから、自分の手で登ろうとした涼の方が凄いの」


相変らず無表情だけれど、なんとなくマリアの事がわかってきた。

きっと、マリアは今、精一杯俺の事を褒めている。

だけど、表情が表に出ないから、伝わりにくいんだ。

そう思った。


その後、マリアはマリアで訓練し、俺は俺で岩壁を登ったり降りたりを繰り返していた。

特に、何かを会話した訳じゃない。

ただ、黙々と訓練をしていただけ。


フッとマリアの事が気になり、音の鳴る方向を向くと、目が合う事があった。

目が合ったからといって、何かを会話する訳ではなく、お互いにすぐに目を逸らすのだけれど。

どうして、マリアはこちらを見ていたのだろう?と気になってみたり。


もしかして、また俺が手を滑らせて岩壁から落ちてはいないか?と心配しているのだろうか?

だとしたら、俺。

マリアの訓練の邪魔をしちゃってたりする?と、後ろめたい気分になった。



それから、30分ぐらい経過した後、マリアは地上に降りてくると、



「そろそろ休憩しましょう。食事しなくちゃ、身体に悪いから」


そう言うと、スタスタ出入り口へと歩いていった。

俺もその後を、無言で付いて行く。


一人で休憩しても良いのに、わざわざ俺に声をかけてくれるなんて・・・。

マリアの無言の優しさを感じた。



出入り口に差し掛かった時、



「うっわー!キモイ同士で、仲良く訓練とか、ウケるし!」


ウォーキングマシーンの方から、耳障りな声が聞こえてきた。

声と発言で、誰が言ったのか?はわかっている。


でも、あんな挑発、無視無視。

相手するだけ、時間の無駄だから。

隣に居るハヤトは、相変らずフォローする訳でもなく、ひたすら走り続けていた。



お前等になんて、俺達の気持ち。

一生わかる事なんて、ないよ。




マリアと二人っきりの食事。

ダラダラお喋りをする訳でもなく、ただひたすら無言で食べ続ける。


それでいいんだ。

俺達は、相手の顔色を伺う必要なんてない。

だって、顔色を伺わなくても、もうお互いの事を理解しているから。

俺はそう思っている。


マリアなら、俺の気持ちを理解してくれると。

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