第56話晩餐 5
「この扉の先に女王がいらっしゃるわ。
くれぐれも、失礼な態度を、取らないように」
真鍋さんが、キツく念を押す。
俺とマリアは、女王に対して失礼な態度は取る事はない。
危険なのは、残る二人だ。
ミカなんて、どっかぶっ飛んでやがるし、ハヤトは女王に対して敵意がむき出しだ。
皆で平和に、飯食えればいいんだけど・・・・。
俺達は無言だったのだけれど、ハヤトは
「さあ?女王の返答次第です」
意味深な発言をし始めた。
そうなれば、ミカも便乗して、ワーワー騒ぐだろう!と思ったら・・・・・、珍しくダンマリ。
どうしたんだ?ミカらしくもない。
ん?そういえば、午前中。
女王と会った時も様子がおかしかった。
顔が、青ざめていたし。
女王も所有物がどうだかとか言っていたけど、弱みでも、握られているのか?
「あんまり失礼な態度ばっかり取っていると、消されちゃうかもよ」
真鍋さんは、ニッコリ笑いながらそう言うと、ゆっくり扉を開きはじめた。
・・・・なんか、その言葉が冗談に聞こえないのは気のせいだろうか?
扉の先には、女王がニッコリ微笑みながら、立っていた。
「お待ちしてました。ようこそ、いらしてくれましたね。皆さん」
やっぱり、あの人が女王だったんだ。
訓練所に、わざわざ足を運び、見に来ていたあの女性が、
今、ドレスを着て、俺達の目の前に立っている。
不思議な光景だ。
「挨拶はほどほどに、早くご飯を食べましょう。
お腹が空いちゃってるの」
真鍋さんは、女王の隣をすり抜けると、空いている席に勝手に座り始める。
「もう!真鍋ったら!私が一人ひとりお持て成ししようと思ったのに!」
そんな真鍋さんと、仲良さそうに話す女王。
やっぱり、この二人、いい関係なんだ・・・・。
俺達も、それぞれ空いている席へと座ると、
「では、皆さんと初めて食事をする事をお祝いして、乾杯」
女王の挨拶と共に、晩餐が幕を開けた。
豪勢な食事が、テーブルの上に並んでいる。
「遠慮なさらずに、どんどん食べて下さいね。
皆さん、漆黒の翼に栄養を取られてしまうでしょうから、少しくらい食べ過ぎたって、太りはしないだろうから」
・・・知っている、女王は、漆黒の翼についての知識があるんだ。
「じゃあ、遠慮なく頂きましょう、皆」
そう言うと、真鍋さんは、どんどん自分のお皿に料理を盛っていく。
「貴女は漆黒の翼をつけていないでしょ!全くもう・・・」
そんな真鍋さんの姿を見て、微笑む女王。
本当に、この二人って、仲が良いんだなぁ・・・・・。
真鍋さんを歯切りに、俺達もそれぞれ食べたい物を食い始めた。
流石女王主催の晩餐だけあり、普段食った事がない物ばかりで、俺達は黙々と食い続ける。
「それで、皆さん、もう漆黒の翼を付けての生活には、慣れたかしら?
本来なら、私も装着したかったのだけれど、真鍋がダメって言うのよ」
女王が漆黒の翼を装着したがっている?
それは、何故?
俺やマリアみたいな、影のある人間が欲しがるのは普通だろう。
しかし、女王みたく、穏やかで何不自由ない生活を送る人間がそう思うなんて、なんか意外だ。
すると、ハヤトは食べる手を止めると、
「慣れましたよ。・・・というより、強制的に慣れる必要が、僕達にはありましたから」
真顔で嫌味を言い始めた。
やっぱり・・・・こうなるんだ。
なんとなく、晩餐前のハヤトを見ていたら、こうなりそうな気はしたんだけど。
っていうか、こんなご馳走が目の前にあるんだ。
わざわざ喧嘩を売る必要も、ないだろうに・・・・。
女王も、食事する手を止めると、
「そうだったわね。貴方達は慣れなくてはいけなかった。
逆らえば、漆黒の翼に、骨の髄まで吸い取られてしまうものね。
貴方達には許可を取らず、勝手に漆黒の翼を埋め込んでしまった事は、申し訳なく思っているわ。
ごめんなさい」
俺達に頭を下げ始めた。
そんな事、しなくても良いのに!
「あの!俺は、感謝しています!漆黒の翼を埋め込んでくれたことを!
なんていうか・・・・、これが入った事で、自分に自信が持てたっていうか、
生きる道を作ってもらえたっていうか・・・・その・・・あの・・・・」
全員が全員。
ハヤトと同じ考えという、訳ではない。
少なくとも、俺はハヤトとは正反対の意見を持っていた。
漆黒の翼を、埋め込んでくれた事に、凄く感謝している。
だから、それを、素直に女王に伝えたかったんだ。
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