第55話晩餐 4
真鍋さんに指定された時間より、少し前にフロアにたどり着いた。
手渡された制服と、女王様から借りたハンカチを手に持って。
フロアには、すでに、ハヤトとマリアは到着しており、二人の制服姿を見ると、
俺が着ている制服とは、デザインが微妙に違い、
それぞれの漆黒の翼に合った形になっていた。
ハヤトは、両腕に漆黒の翼があるから、半そで。
マリアは、足に漆黒の翼があるから、ロングコートにフード付き。
フードが付いてあるのは、坊主頭を隠す為だと思うのだけれど、
相変らず、頭にはバンダナを巻いたまま、フードで隠すつもりはないらしい。
「皆早いね」
二人に声をかけると、
「真鍋さんの事だから、フライングで来るって事もあるしね」
ハヤトは、ニッコリと笑った。
確かに、真鍋さんは素晴らしい人間だけど、たまに行動がつかめない事があるしな・・・。
少し遅れて、ミカがやってきた。
「お待たせ!ねぇ、ハヤト!どうかしら?!」
そう言い、ハヤトに絡みついたミカの顔は、ガッツリメイクに髪の毛は盛り盛り。
女王の晩餐を何かのパーティと勘違いしているのだろうか?
呆れたまなざしで、ミカを見ていると、
「ぶっ!ロボットちゃんってば、それで行く気?晩餐の意味知ってる?」
マリアの事を、攻撃し始めた。
「この格好の何が悪いんだよ!っていうか、ミカの格好もおかしいだろ?
パーティじゃないんだから」
俺が、マリアをかばうと、
「これだから、キモカップルは、傷の舐めあいしちゃって、マジキモイ」
ミカが嫌そうな顔をしながら、こちらを見ていた。
マリアは、相変らず無言で、気にもしていない様子。
もしかしたら、ミカの相手をしたくないだけなのかも知れないけれど。
一方のハヤトは、見て見ぬ不利だ。
「ハヤトって、ミカのこういう態度に対して、いつも見て見ぬ不利だよね。
そんなに自分の身を守るのが大事なのかよ」
日ごろの不満を、俺がポツリと呟くと、
「フォローしない方が、相手を傷つけず、事態を早く収拾する事が出来る事だってある。
フォローする事だけが、全てじゃないよ」
良い子キャラのハヤトが、珍しく言い返してきた。
嘘つけ!
ただ、自分に火の粉がかからないようにしたいだけの癖に!
「嘘つけ!本当はミカにもマリアにも、良い格好したいだけの癖に!」
俺が言い返すと、
「そういう訳じゃない!喧嘩するのが嫌いなだけだ!」
いつも、良い子キャラなハヤトが言い返してきた。
そういえば、こいつ、昼食の時から、やけに攻撃的だったな。
女王様の事を 女王 呼ばわりしていたくらいに。
そんな言い合いをしていると、真鍋さんが時間丁度にやって来た。
俺達をチラっと見ると、
「あら、似合ってるじゃない?それじゃあ、行きましょう!皆エレベーターに乗って」
手で、エレベーターを指差す。
俺達が言い合いをしていた事も、制服を着た姿も、まるで興味ないみたいだ。
まぁ、それが真鍋さんのいつもの姿だけど。
俺達は、真鍋さんの指示に従い、エレベーターに乗り込む。
そういえば、エレベーターに乗るのって、この施設に来た時以来だ。
ずっと、あのフロアでのみ、生活していたから。
エレベーターに乗ったという事は、別の場所へ移動するという事なのだろうか?
ハヤトが、
「外に出られるんですか?」
真鍋さんに尋ねると、
「いいえ、晩餐は別のフロアで行われるから、そこに移動するだけよ。外には出ないわ」
と、バッサリ外へ出る希望を切り捨てられた。
な~んだ。
外の空気が吸えると思ったのに。
生きる事が許された今、俺の次の望みはただ一つ。
澄み渡った空を、思う存分眺めることだけ。
でもまぁ、いっか。
今日見れなくても、いずれ外の世界に出られるみたいだし。
エレベーターは目的の階へと辿り着き、扉が開くと、
「さぁ降りて。私が指示するまで勝手にあるかないでね」
と、真鍋さんの指示が飛んだ。
これじゃあ、まるで俺達は囚人みたいだ。
自由にフロアを歩く事が出来ない。
真鍋さんの監視課に置かれた、籠の中の鳥。
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