第57話晩餐 6

「私も感謝しているわ。

漆黒の翼がなければ、歩く事が出来なかったから。

それに、アリスにまた会う事も出来た。

凄く嬉しい、今とても幸せよ」


淡々と真顔でそう話す、マリア。

表情は無くても、なんとなくその気持ちが俺にも伝わってきた。


というか、アリスって誰だ?



「アタシはー・・・・」


ミカが話そうとした時。



「貴女には聞いていないわ。黙っていて」


女王は、今まで聞いたことがない、強い口調でミカが喋るのを制止した。

ミカは一瞬にして、顔が青ざめる。

この二人には、何があるのだろう?謎だ。



「漆黒の翼を装着した事を、喜んでくれる子が居るなんて、嬉しいわ。

コレはね、私と真鍋の、小さな頃からの、夢の形なの。

私達の理想の世界を、造ってくれる物。

それに共感してくれるなんて、凄く嬉しい」


両手を合わせ、喜ぶ女王に、



「その事で、言いたい事があるんです」


ハヤトは再び、鋭い視線を向けた。

こいつ、今日は女王と喧嘩をしに来たのだろうか?



「ハヤト!止めろよ!今日は、飯を食いに来たんだから!」


俺が止めると、



「いいのよ。涼君。私、今日は皆さんとじっくり話す予定だったから」


女王は俺に対して、微笑んだ。

違う!ハヤトの言葉なんて、聞かなくたって良い!

だって、こいつが、言いたい事は検討が付いているから。

この和やかな雰囲気が、壊れる事は目に見えている。


しかし、女王は、ハヤトと会話したいらしく



「ハヤト君だったわね・・・・。何かしら?」


問いかける。



「女王も検討はついているでしょう。・・・・・女王と真鍋さんが、モンスターと呼ぶ存在の事ですよ」


ほら、やっぱり。

これだから、綺麗な物しか見てきていないお坊ちゃんは。


何も判っていない。

俺達、被害者の気持ちを、何も知ろうとはしないんだ。


「モンスターに・・・何か問題でも?」


女王は、そういうと、グラスに入った水を一口飲む。



「女王様や真鍋さんが モンスター と呼ぶ存在についてですが、

彼らは・・・生きている人間です」


確かに奴らは 人間 だ。

しかし、ただの人間じゃない。

犯罪を犯した、罪人。



「そうねぇ。彼らの事を 人間 と、思う人たちも居るでしょう。

ハヤト君を含めて。

でも、私には、彼らを 人間 とは、思えないの。

規則を破り、罪を犯し、人々を苦しめる彼らは、本当に 人間 なのかしら?

私には、そう見えないわ。

荒れ果てた世の中にしようとする、 悪 としか思えない。

真鍋は、その事をハヤト君達に説明していないのかしら?」



全員が真鍋さんを見ると、いつもの通りマイペースにニコニコしながら、



「説明?してないわよ。彼らは、モンスターを狩る 戦士。

理由なんて必要ないじゃない」


平然とした口調で、自分の考えを述べる。


すると、ハヤトはテーブルを ドン っと、両手で叩き、



「僕達は、人殺しをしたい訳じゃない!

本当に、国民の生活を脅かす存在である、モンスターと魔王を倒す為に、ここまで訓練を続けてきました!

今の僕達は、ただの殺人マシーンだ」


うな垂れた。

女王は、立ち上がると、ゆっくり歩き出す。

ハヤトの後ろまで辿り着くと、両肩に手をあてて、



「貴方達は、殺人マシーンじゃないわ。 勇敢な戦士よ。

だって、教科書に載っているモンスターを、毎日何百何千と、倒しているのだから。

貴方達の行いのお陰で、国民達は、平和な日々が遅れるの。

胸を張り、誇りを持って良いのよ」


優しく諭した。



学校の授業で習ったモンスター。

それって、この事だったんだ。

やっと、気づいた。


この施設に来るまで、モンスターを見たことがないと思っていた。

でも、それは知らなかっただけ。


本当は、モンスターはすぐ傍にいた。

モンスターの正体は 人間そのもの だ。

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