第36話アリス 6



「どうして、アリスが存在してるの?」


ガラス管に両手をつけたまま、私はアリスを見上げていた。



「貴方が病院に運ばれた後、施設周辺を捜索したら、この子が土の中から出てきたの。

本当は焼却処分が決まってたんだけど、施設の子がね、言ってたのよ。


アリスとマリアは姉妹みたいだったって。


だから、汚れを拭いて、壊れた箇所を修復したの。

どうしても、修復しきれない箇所は、別のパーツを繋ぎ合わせたんだけどー・・・」



その言葉を聞いて、私は気づいた。



「アリス、生きていないのね」



「えぇ、死んでいるわ。 死んだ人間は生き返らす事は、

例え女王陛下であっても、する事は出来ない。 不可能なのよ」



「そっかー・・・・」



やっぱり、アリスは死んでしまった。

だけど、目の前にアリスは居る。


もう動く事も話す事も出来ず、ただ、ガラス管の中で目を閉じているだけのアリスが・・・・。



「でも、嬉しいわ。 また、アリスの顔を見る事が出来て。

私おかしいかしら? 死んだ人間を見て、喜ぶなんて・・・」


悲しい気持ちになったけれど、私の目から涙が流れる事はなかった。

死人を愛しく思う私は、すでに 人間ではない という事なのだろうか?


すると、真鍋は私の頭を優しくなでながら、




「そんな事ないわ。 アリスはマリアの物よ。

ずっと、二人は一緒。 これからも一緒に居る為に、貴方は 漆黒の翼 を使いこなして、モンスターを倒すの、いいわね?」


そう言った。

アリスは私の物。

これからもずっと一緒よ。



「モンスターを倒せば、アリスとずっと一緒に居られるのね。

私、頑張るわ。 今度こそ、アリスを守るの」



私は誓った。

今度こそ、アリスを守ると。

アリスを守る事が出来るのなら、私は人間でなくなる事すら、恐れないと。



「辛い日々になるけれど、頑張ってね。アリスの為にも」


真鍋のその言葉は、現実の物になった。

そこから始まった、辛い日々。


何度もくじけそうになったけれど、アリスの顔を見たら、 また頑張ろう そう思えた。


私は、アリスの為に 頑張るの。

世界の為とか市民の為じゃないわ。

アリスの為に、モンスターを狩るのよ。


そしていよいよ、あの日が来た。

いつものように、片手に大量の資料を持った真鍋さんがやってきたのだ。



「今まで訓練お疲れ様。 今日から実戦訓練よ!」


いつも通り、テンションの高い彼女と、



「実戦訓練って事は、モンスターを倒すのね」


冷静な私。

実戦訓練といわれても、私は今までモンスターを見た事がない。

だから、余計にピンと来なかった。



「モンスターを殺すなんて、怖い?」


そう言うと、ニコニコ笑いながら、私の顔を覗いた。



「いいえ、怖くないわ。

モンスターを倒せば、アリスは平和に暮らせるのでしょう?」



顔色1つ変えずに、私は淡々と答える。


喋りながら、廊下を歩いていると、突き当たりの扉の前に辿り着いた。

真鍋はその前で立ち止まると、



「そう、なら良かった! じゃあ、扉を開くわよ。

この先にモンスターは居る。

一人残らず、殺しなさい・・・。

いいわね?」



そう言った。

この先にモンスターが居るってどういう事?

扉の先とはいえ、そこは、私の居住区がある施設の1部。

安全と思われている、この施設は、この国で一番の危険地帯なのかしら?



そんな疑問を持ちながら、扉が開くのを待っていた。


ゆっくり分厚い扉が開いていく。

その扉の先に居た 物 を見て、私は真鍋が言う、モンスターの謎が解けた。

これが、モンスターの正体。




「・・・シスター・・・・」


そう。

扉の先に居たのは、アリスを嬲り殺し、私から足を奪った、あのシスターだったのだ。

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