第35話アリス 5
車から建物へ入る間、少しでも外の空気が吸えると期待していたのに、
車はそのまま建物の中へと入っていった。
「さぁ、エレベーターに乗るわよ! 着いた先が貴方の家!」
テンション高い真鍋と、冷静な私。
私の家 という割りに、エレベーターには現在、何階に居るのか?表示が出ていない。
家とは 名 ばかりの、新しい檻なんだわ。
私は、新しい私の家 を期待していなかった。
「ここが浴室で、ここが食堂・・・・それと・・・・」
まるで、事務的に説明する真鍋の前に、エプロンを着けたおばちゃんが立ちはだかった。
「あら!寮母さんこんにちは」
ニッコリ笑う真鍋とは正反対に、寮母と呼ばれたおばさんは両手を腰に当てると、
「もう!真鍋さんったら!忙しいのはわかるけれど、少しはこの子に対して、配慮って物をしてあげてもいいんじゃない?」
怒り始めた。
「配慮?してるわよ? 足がロボットだから、人目に晒されないように、ロングスカートを用意したわ!」
得意気な顔をする真鍋。
しかし、寮母さんは相変らず怒ったまま、
「そっちじゃなくて、こっちもでしょ!」
私の頭を指差した。
「こっち?何か問題でもあった?」
真鍋は私の顔を、じっくり見るが 何が悪いのか?わからないみたいで、 お手上げのポーズを取る。
「問題あるでしょ! 頭よ、あ た ま!
まだ若い女の子なのに、丸坊主じゃない!
カツラでも帽子でもかぶせてあげるって配慮はなかった訳?まったく!」
そう言うと、寮母は私の頭に、バンダナを巻き始めた。
しかし真鍋は、全く反省する様子も無く、
「あぁ、それね。 もう、髪の毛は生えてこないわ。
漆黒の翼に栄養っていう栄養全てを吸い取られてるから。
あぁ・・・なるほどね、髪の毛ね・・・・。
次の子を手術する時には、頭皮移植の事、頭に入れとくわ」
手に持っている資料に何かを書き込んだ。
真鍋にとって、私の髪の毛なんてどうでもいいのよ。
そして、私も髪の毛なんてなくてもいい。
それなのに、今日初めて会った寮母が、私の髪の毛について怒るなんて、不思議だわ。
この人は、そんなに髪の毛が大切なのかしら?
寮母と別れた後、
「あの人が寮母さん。
貴方達のお母さん代わりとして、色々世話してくれる人よ。
頼りがいはあるんだけど、ちょっとお節介でうるさいのよね~」
と、舌をペロっと出した。
「貴方達?」
私は寮母の事もよりも、真鍋の言葉が気になり、聞き返すと、
「そう貴方達。
あのね、マリアに見せたい物があるの!
私のお願いを聞いてくれた代わりに、貴方の大切な物を、作ったわ!
こっちよ!」
またハイテンションになると、廊下を走り出す。
だから、私はさっき始めて歩き始めたばかりなんだってば!
そんな事をお構いなしで走る真鍋を、私も懸命に走り、追いかけた。
すると、真鍋は1つの扉の前で止まり、
「ここがマリアの部屋。 見せたい物は、この中にあるわ」
と、私に扉を開けるよう、促す。
ほら、やっぱり。
施設に居た頃と一緒じゃない。
また、1つの部屋に押し込められる日々が始まるんだわ。
私は、何も期待する事なく、ドアノブに手を伸ばした。
ゆっくり回し、扉を開けると、そこにあったのはー・・・・・。
私の目の前で、シスターに嬲り殺された アリス だった。
「アリス・・・・!」
居ても立ってもいられなくなり、私はアリスの元へと走り手を伸ばす。
しかし、アリスは、ガラス管の中に入っており、触る事は出来ない。
「ねぇ、嬉しい?」
真鍋も部屋に入り、私の傍まで来ると、両肩に手を乗せた。
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