第34話アリス 4

「鎮静剤はないの?! 早くして頂戴!

大丈夫?マリア!」



初めて真鍋と出会ってからという物、話は急激に進んでいった。


細かい検査を終え、髪の毛を全部剃られたと思ったら、その翌日には手術。



それから、初めて目を覚ましたのだけれど、

酷い痛みと眩暈、そして吐き気に教われたのだった。



吐こうにも、指一本すら動かす事が出来ない状況だから、

口から、噴水のように汚物を吹き出させ、それを看護師さんが懸命に拭く。



その様子を見た 真鍋 は、ヒステリックに声を上げながら、指示を出していた。



こんなに、私の事を必死に看護してくれた人は、初めてだ・・・・。

それだけでも、幸せだったのに・・・




真鍋は私の両肩を掴むと、



「頑張って生きて! 今を乗り越えたら、貴方の一番大切にしている人に会わせてあげるから!

それを励みに、乗り切るのよ!」



そう言った。

どういう意味だろう?


私の一番大切にしている人は アリス ただ、一人だけ。

でも、それは、過去の話。

今じゃない。

だって、アリスは死んだのだから。



真鍋の言葉が引っかかりながらも、私はその後の、長い闘病生活を無事乗り切る事が出来た。

いいえ、私は何もしていない。


看病をし、ケアをしてくれたのは、全て、看護師さんだ。

私はただ、ベッドの上で横になっていただけ。




そして、いよいよ退院の日。

久しぶりに 真鍋 は部屋にやってきた。




「さあ、行きましょう。貴方の新しい家に」


私に拒否する理由なんて1つも無いのだけれど・・・・、

引っかかる事があり、私は起き上がる事が出来なかった。


それは、新しい足の事。



足の手術をされてから、私は1度も歩いた事が無い。

布団を捲り、新しい足を確認したのだか、それはまるでロボットの足で、人間の物とは違う。


勿論、その足に感覚なんて物はなく、どうやって歩けばいいのか?わからなかったのだ。


「足の動かし方がわからない」


私がポツリとそう囁くと、真鍋は笑いながら、



「何言ってるの?普通に歩けるじゃない。

手を動かすのと同じように、足も動かしてみて・・・・」


私はその言葉通りに、感覚のない足を動かしてみる。

すると、ロボットの足は動き始めた。


ゆっくり、床に両足を付けると、立ち上がる。

その姿を見た真鍋は、ニッコリ微笑みながら、



「まだ慣れないから、不便だと思うけれど、訓練すれば、すぐに走れるようになるわ!

大丈夫だから!さぁ、コレに着替えて」


着替えを手渡してきた。

床に引きずるくらいの、長いスカート。

これを履けば、このロボットの足を誰も見る事が出来ない。



それを履き、部屋を出ると、真鍋はすでにエレベーターの前に居た。




「マリア!早く!私ね、マリアに見せたい物があるの!

一刻も早く見せたいわ!早く!走って!」



まるで、子供のように浮かれる真鍋。

走れと言われても、さっき初めて立ったばかりなんだけど・・・・。


両手を振り、脳で走るイメージを描くと、自然と足は駆け足になり、あっという間に真鍋の間の前へと到着していた。



「上手いわ!凄いじゃない!

こんなに上手くいくとは思わなかった!

マリア、貴方凄いわよ!」



・・・・褒められた・・・。

今まで褒められた事なんて、無かったから、どういう顔をすればいいのか?わからない。


私は表情を変えないままで居ると、真鍋はさっさとエレベーターに乗り、



「行くわよ!早く乗って!」


先を急いだ。



不思議な人。

無邪気に騒いだと思ったら、褒めだし、先を急ぐ。

全然、この人がわからないわ。



でも、私、真鍋の事・・・・・大人の中で、一番好き。




エレベーターを降りると、大きな建物を出て、外に出た。

昼間の時間帯に外に出るなんて、数年ぶりだったから、ゆっくり空を眺めて居たかったのだけれど、

真鍋に急かされ、すぐに車に乗る事となった。

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