第16話トレーニング開始 1

それは突然訪れた。



「涼君!おはよう!」


久しぶりに、真鍋さんが部屋に訪れた。



何か用がなければ、この人は俺には会いに来ない。

わざわざ会いに来たという事は、この人にとっての、俺の使い道が出来たのだろう。




「おはようございます」



「ナント!退院の日が決まりましたー!!」



両手を広げ、喜びを表現する真鍋さんと、

冷静にその話を聞く俺。

2人は対照的だ。






「いつですか?」



「あれ?嬉しくないの?涼君ってクールなのね。

退院の日だけど、明日よ。急に決まったの。

心の準備が出来ていなかったわよね。ごめんね」




本当は急に決まったんじゃなくて、元々退院する日は決まっていたんじゃないのか?

それを言い忘れただけなんだろう?


・・・マイナスな事ばかり考えてしまう。




「いや、いいです。そうですか。わかりました」



「んー・・・・、じゃあ、私、行くわね」



話が広がる事もなく、真鍋さんは部屋を出て行った。

会話してもツマラナイ俺なんかよりも、別の人とあの人は話す方がいい。


そうに決まってる。




あー・・・、また聞きたい事があったのに、聞くのを忘れてた。


まぁ、いいか。


退院したら、真鍋さんじゃなくて、もっと暇そうにしてる人にでも聞けばいい。



俺なんて、どうなったっていいんだ。

俺なんて・・・・。


退院するって言われたって、私物なんて、この部屋には1つもないんだ。


唯一あった私物の・・・・、真鍋さんが持ってきてくれた、

クラスメイトが書いた俺への手紙は、昔に破り捨ててしまった。




家族だって、初日に、母が1度来たくらいで、他に誰も来ていない。





俺は何も持っていない。

ただ、自分の身体1つでココに居るのに、

その身体にも、色んな変な物を勝手に埋め込まれている。




俺は、何の為に産まれ、何故生きているのだろう?








翌日、退院の日。


朝食のカツカレーを完食した。

朝から、高カロリーのこの生活も、これで最後か・・・・。



いつもの看護士さんが、俺の腕から、点滴の管を抜く。




「ずっと点滴してたから、腕、痣だらけになっちゃったね。

元気で、トレーニング頑張るのよ」




俺の腕を優しく撫でた。

その仕草にドキっとする。




産まれて初めて、人に優しくされた・・・・気がする。




「今までありがとうございました」



深々と頭を下げ、数ヶ月間過ごした部屋を後にした。





「怪我したら、また戻っておいでね」



その言葉を聞き、泣きそうになったけれど、やはり涙は流れなかった。

俺はもう、人間としての機能はなくなってしまったのだろうか?

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