第12話異物混入 5

そしてまた、月日は流れー・・・・。


相変らず、家族はお見舞いには来なかった。

来ても、気の利いた言葉の1つもかけないから、

別に来なくてもいいんだけど。




真鍋さんも、あれ以来一度も部屋には来ない。



点滴を取り替えている看護士さんに、真鍋さんの事を尋ねたら、


「今、新しい子達が何人か入院したので、そちらをサポートして忙しい」


と、言っていた。


俺の代わりになる人達が、もう補充されたらしい。






ようやく一人で起きれるようになった頃。

俺は、ベッドの横に備えてある、引き出しの一番上を開けた。

・・って言っても、一番上以外は、何も入っていない。


俺は病室を一人で出歩いたり出来ないし、

誰もお見舞いに来ないから。

何も入れる物がなかった。




数枚の紙を取り出すと、俺はそれに目を向ける。



この紙は、以前真鍋さんが持ってきた、 俺の友達が書いてくれた俺への手紙 らしい。

友達なんて、一人も居ないはずなんだけど。




そこに綴られたメッセージは、



「頑張って」

「応援してる」

「魔王に勝って!」


ありきたりな物ばかりだった。





「お前をたっぷり可愛がってやったんだから、全力で俺を守れ。 藤井」


「恩を返せよ。 石川」


「帰って来たら、何か奢れよ。 志田」



あいつらも相変らずか。



その紙を一枚一枚破り、ゴミ箱に捨てていく。

こんなのただのゴミだ。


俺にとって、何にもならない。




何が、友達だ。

皆俺の事、一度だって 友達 だなんて思って暮れたことない癖に。


「こんにちは、涼君。気分はどう?

点滴を取り替えるわね」



いつもの看護士さんがやってきて、淡々と点滴を取り替える。

腕には太い針が入っていて、その針は定期的に取り替えるけれど、基本は刺したまま。

その刺したままの針についているプラグに、新しい点滴をつけるだけだから、取替えるのは早い。


あっという間に行ってしまうので、俺は慌てて声をかけた。





「あの、久しぶりに散歩がしたいんです」



その言葉に、一瞬動きが止まったけれど、すぐに微笑んで、




「そうよね。身体が動くようになったら、久しぶりに歩きたくなるわよね。

待ってて、今、点滴をぶら下げて歩ける物持ってくるから」


そう言い、部屋を出て行ったけれど、

すぐに戻ってきて、手馴れた手付きで、点滴を補助する物にぶら下げた。




「疲れたらすぐに部屋に戻ってね。

無理しないでよ」



「ありがとうございます」



看護士さんが部屋を出て行き、しばらくしてから、俺は久しぶりに起き上がった。





右の手につけられた、外す事が出来ない腕輪を、病院着の袖を引っ張り隠した。

誰に見られるか?わからないから。




学校と家庭から開放された俺は、自由になれた。

新しい人生がココからはじまる。




もう、誰かに利用されるだけの人生なんて、ごめんだ。





久しぶりに真っ白な天井と真っ白な壁のみが広がる部屋から出られる。


そこには、どんな世界が広がっているのだろうか?




ガラガラ・・・・。


いつもは、誰かが開けていた扉を、初めて自分で開いた。

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