第5話粗大ゴミ 5

「ただいまー」



「おかえりなさい!あ・・・鍵閉まってたの?ごめんね。

涼がやったんだわ!お兄ちゃんが帰って来るって知っていて、鍵を閉めるんだから!」



兄が帰宅したようだ。

出迎える母の声も聞こえる。



俺が帰ってくる時は、鍵を閉めている癖に、

兄が帰って来る時には、鍵は開けておかなくてはならない。



それがこの家での暗黙のルール。




見て解るとおり、母は、俺よりも、兄の事を大切にしている。

兄は、勉強も運動も、出来る訳ではない。

だけど、洋服を汚して帰ってこないし、手もかからないから、

俺よりも気に入っているらしい。



俺も兄も、母親にとって、何なのだろう?

たまに考える。





やっと一人になれたのに、何もする気が起こらず、ただ床に座っているだけ。

1秒でも長く一人で居たいけれど、一人の時に限って時間はあっという間に流れる。







「涼!晩御飯食べるんだから、早く来なさい!!」



母親にヒステリックな声が聞こえた。


早く行かないと、怒られる。




俺は重たい足を引きずりながら、部屋を出た。


カチャカチャ・・・。


静かな食卓。

無言でひたすら、飯を食う。



人は生きる為に飯を食うのだろうけれど、俺は特に生きたいと思っているわけでもなく、

そんなに箸が進まない。




「涼が居ると、ご飯が不味くなる」


母親のその一言に俺は、味噌汁をいっきに飲み干すと、茶碗を全て持ち、席を立った。

俺は、家族と一緒にご飯を食べたらダメなんだ。




キッチンへ行き、自分で自分の食器を洗っていると・・・



「ねぇ!涼!」


リビングから、母親に呼び出された。

もしかして、まだ俺がココに居ても良いのかな?・・・そんな期待を持ち、母親の元へ向かうと・・




「醤油持ってきて」


ただのパシリだった。

期待する、俺がバカなんだ。



無言で醤油を手渡すと・・・・



「可愛くない子」


お礼もなく、ポツリとそう、囁いたのが聞こえた。

俺の事、可愛いなんて思った事ない癖に。





またキッチンへ戻り、食器を洗う。




「涼が洗っても、汚くてまた洗い直さなくちゃいけないのよね~」


洗わなかったら、洗わなかったで、文句言う癖に、

洗ったら、洗ったで、また文句を言われる。



うちの母親はそういう人だ。



全部自分の食器を洗うと、また自分の部屋に戻る。



電気もつけずに、壁にもたれて床に座る。

その瞬間が、最高に幸せだ。

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