18 ヒカルとふたりで③
会計を済ませ、二人は美容室をあとにした。
まだ昼前で、時間はたっぷりある。
久しぶりにウキウキして、百子はときめくような気持ちだった。
「百子ちゃん本当に可愛い。天使みたい」
「もう……褒めすぎ」
もう何度目か分からない彼女の褒め言葉に、百子は飽きもせず赤面した。
「もうすぐお昼だし、どっかで食べようか?」
ニコニコしながらヒカルが問いかける。
「そうだね。あ、でも制服のままじゃまずいよなぁ……」
思い出したように百子は半袖ワイシャツを指でつまんだ。
「あっそうだね、一旦帰って出直そうか。ウチにおいでよ。服貸してあげる」
彼女はそう言うと再び百子の手を引き、家の方へと足を進めた。
ジージーと鳴くアブラゼミの声がアスファルトから跳ね返ってくる。
真っ青な空に真っ白な雲が浮かぶ、まさしく夏の昼間にふさわしい天候だった。
「あたしね、今下宿中なんだ。安い学生会館で一人暮らし」
「えっ、そうなの?」
実家暮らしの百子は、一人暮らしなんて想像がつかずちょっと驚いた。
「だからね、いつでも遊びにおいで。あたししかいないから、気使わなくていいよ」
「うん、ありがと」
二人は学生会館に着くと、一緒に中へ入った。訪問者の記名するノートがあったり、下駄箱がずらっとあったりなんかして、ちょっと学校みたいだった。
百子はスリッパを履いて、彼女についていった。二人分の足音が静かな廊下に反響した。
彼女は部屋に着くと、鍵を開けて百子を中に入れた。
その空間はとても甘くていい匂いがした。百子はすっかり『女の子の部屋に初めて訪れた男の気分』になった。
「やばい、いい匂いがする。部屋めっちゃ綺麗だし可愛い。ピンクだらけじゃん」
素直に感想を述べ、ぐるりと部屋を見回した。ピンクのカーペットにピンクのカーテン、ピンクのベッド。淡いピンクの濃淡で作り上げられた部屋はちょっとエッチな感じもした。
「えへへ、ありがと。なんか恥ずかしいな」
頭を掻いて照れながら、ヒカルはクローゼットを開けた。同時にエアコンの電源もつける。
「百子ちゃん小さいし細いから、サイズ合わないかもしれないけど」
と言って、ヒカルは紺色のキャミソールっぽいワンピースと、レース素材のゆったりしたトップスを取り出した。
「このスリップドレスの上からクロシェット合わせると……うん、イイ感じ」
二着を百子の肩に当てがってヒカルは嬉しそうに言った。
「???」
「はい、どうぞ」
何を言っているのかサッパリ分からなかったが、言われるままにそれを受け取った。
すると「着てみて着てみて」と、じっと彼女が見つめてくる。
「ちょっと待ってて……」
百子は受け取った服をベッドに寝かせ、鞄をその横に下ろした。
ヒカルに背を向け制服のボタンに手をかけると、百子は急にそこから動けなくなった。金縛りにあったみたいに手が止まり、変な汗が出る。当然だが更衣室など無いし部屋は一つだけ。六畳から七畳そこらの密室でヒカルと二人で閉じ込められている状況に、またもや緊張してしまう。
体育の授業で着替えているところなんて何度も見られているし、百子自身も他の子の着替えシーンくらい普通に見たことはあるのに。
「あれ? どしたの?」
背後からヒカルが近寄ってくる気配を感じた。
「もー、早くぅ。待ち遠しいんだから」
と言って、彼女は後ろから百子の着ているワイシャツの襟を上げ、その下にあるホック式のリボンを外した。
心臓がそのわずかな感触にドクンとうごめいた。
--まずい、まただ。
瞬く間に頬が紅潮していくのがわかる。
それに追い討ちをかけるように、ヒカルは百子を自分の方に向かせ、「ほらほら」とボタンを外し始めた。
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