2. 特別な友達
14 次のステップ
次の日、百子はいつもより早く家を出て、一番乗りで教室に着いた。
自分の席で頬杖をつき、昨日の夜を思い出し感慨に耽る。
窓から朝日が差し込んで、眩しさに目をすがめた。セミの鳴き声が数匹分聞こえてくる。もうすぐ夏も本番だ。
教室の戸がガラガラと音を立てて、次の生徒が登校してきた。誰かと思うと、それは瑛里華だった。
先に来ていた百子を見るなり彼女はチ、と舌打ちした。
百子も負けじとガンを飛ばす。
急に現実に引き戻された思いがした。
早朝だと言うのにしっかり濃いメイクのされた顔。コテで巻かれた茶髪。
それが彼女のプライドなのだろう。
何も言わずそのまま席にカバンを置き、彼女は部屋を出て行った。
--めんどくさいなあ、まだなんかあるんだろうな。
百子は続々と登校してくるクラスメイトを眺めながら大きなため息をついた。これから起こるだろう嫌がらせの数々を想像して、ますますため息が深くなった。百子は考えるのをやめた。やめたかったのだが、そこに瑛里華の手下共も登校してきた。彼女らは百子を一瞥してクスクスと笑い合った。
--どうやってもこいつらがいるせいで嫌でも考えちゃうじゃんか。
百子は脳を現実から切り離すため、携帯にイヤフォンを差し、それで耳を塞ぐ。そのまま大音量で音楽を流し込んで思考を遮断した。
一曲聴き終わった頃に、明るい色のポニーテールが視界の端にちらついた。
「おはよ! 百子ちゃん」
気づくと、目の前に笑顔のヒカルが立っていた。
「お、おはよう」
堂々とクラスメイトたちの前で挨拶され、驚きつつ返した。すると周囲の空気もざわつきだした。
本格的ないじめの対象になった瞬間を目の前で見せられたのだから、周りのその反応は予想できた。
「えっ? ヒカルまじなにやってんの?」
「なに月丘に声かけてんの?」
「新手の嫌がらせなワケ?」
彼女を取り巻くギャルたちがぞろぞろと近寄って来る。その中の一人は走って教室を出て行った。多分瑛里華を呼びに行ったんだろう。
「あたし、もう我慢しながらみんなと過ごすのやめようと思って! 疲れちゃったから!」
ヒカルはニッコリ笑ってそうとだけ言った。
「は? まじ頭大丈夫?」
「ウチら裏切る気?」
「いいけどさ、月丘なんかと連んでどうなっても知らないからね」
「まあ、いつもあんただけ悪者にならないようにしてたの腹立ってたし」
「それな。ちょうどいいんじゃね?」
「確かに。瑛里華知ったらどうなるんだろね、楽しみ」
笑顔のままのヒカルに、彼女らは畳み掛けるように言葉を投げつけた。
--目の前にあんたらがいじめてる月丘本人がいるんだけどな。
そうこうしていると、瑛里華が教室に帰ってきた。彼女を呼びに行ったギャルも連れ添ってそのあとに続いた。
瑛里華は真っ直ぐにヒカルがいるところへ歩いた。
「ヒカル」
「何? 瑛里華」
鋭い眼光を浴びせる瑛里華と、それに天真爛漫な笑顔で応えるヒカル。
教室に異様な空気が流れた。
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