13 ふたり
「あの日、百子ちゃんに言われたこと、なんにも返しようがないくらい正しかったから。実際なんにも言えなくなっちゃったんだけど」
そう言ったヒカルの声量は自信なさげにすぼんでいった。
「実はずっと前から瑛里華たちと一緒にいること自体、あたしにとって負担だったんだ。表向きはなんてことないように取り繕って、陰ではなんであたしはこんなところにいるんだろって毎日悔やんでた。百子ちゃんに嫌がらせをする人たちの仲間でいるの、やめたかったんだ」
彼女はギュ、と膝の上で拳を作り、一度唇を結んでから再び話し始めた。
「早くこの人たちから逃れたいって思いながらも、あたしはできなかったのね。意気地なしで臆病だから。自分は関係ありませんよってスタンスでその場にいて、誰の陰口も叩かないように、嫌がらせに関わらないようにって過ごしてきたんだ。ずるいよね」
何も言わず、百子はただ真剣にその話を聞いた。
「でもある時考えてるだけじゃダメだって気づいたんだ。何か行動に移さなきゃって思ったのが、あの日だったの。百子ちゃんに、下駄箱のところで声をかけた日」
百子は相槌を打ちながら、ヒカルがしてくれたように急かすことなく耳を傾ける。
「あの時は本当、順番間違えちゃってたよね。でも、百子ちゃんと友達になりたいのは本当なんだ。だからそうなれるように、これからあたしはちゃんとする」
決意を込めた表情で、ヒカルは繰り返した。
「百子ちゃんと友達になるために」
「……うん」
「ちゃんとするって約束するから、あたしと、友達になってくれる?」
百子はその言葉に、ゆっくりと頷いて見せた。ヒカルはそれを見て「よかった!」と胸をなでおろした。
彼女の仲良くしたいと言う申し出を受け入れることに、もう抵抗感は無くなっていた。
お互い正直に心の内を暴露し合ったから、二人の間のしがらみは、ついに消え去ったみたいだった。
「じゃ、じゃあもう遅いし……帰ろっか」
百子が切り出すと、すかさず
「一緒に帰ってもいい?」
と彼女が聞いた。もちろんと頷くと、二人は席を立ち、カバンを背負った。
二人きりで暗い廊下を歩く。
百子はなぜか心拍数が上がるのを感じ、胸を押さえた。
「なんかすっごい嬉しい。百子ちゃんとこうしてまた一緒に帰れるの」
そう言われて、ああ、これは嬉しいからだと気づいた。
--嬉しくても胸が苦しくなるんだ。
ドクンドクンと耳元で心臓の音が聞こえた。
「わたしも、ヒカルちゃんと帰れるの嬉しいよ」
実際に言葉にすると、鼓動が一層高鳴った。
ヒカルをチラリと横目で見ると、幸せそうにはにかんでいた。
「初めて名前呼んでくれた。嬉しい」
改めてそう言われると気恥ずかしさに顔が熱くなる。百子は両手で顔を覆った。
校舎の外に出て、二人はゆっくり足を進めた。
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