貳譚目其乃弍〜異魂〜

 都市伝説、と聞いて、どう思うか。


 大好きだという興味津々の人もいれば、オカルトなんて信じないという毛嫌う人もいる。伝え聞いたという人もいれば、実際に体験したという人も。もしかしたら、何か怪しげな団体にでも勧誘されるのではないかなどと勘繰るような人もいるかもしれない。


 しかし、現代の常識・技術・定義から逸脱した不思議不可思議があれば、そこに何かしらの象徴を加えて具現化し、「ねえ知ってる?」というような枕詞を付けた状態で広まっていく。世に判らぬモノあれば都市伝説あり、というわけである。


 都市伝説というのはその特異な性質ゆえ、広く知れ渡っているようなことは少ない。

 勿論、人面犬や口裂け女など有名な存在もいるが、基本的にはその殆どがマニアックに分類される。一部のコミュニティの間でのみ伝染していくのが基本形である。


 そんなまことしやかに囁かれるはずの都市伝説だが、今、急速に拡がっているモノが一つある。しかも、おかしく取り上げるはずのマスメディアが真剣に。


 それが人から人に伝わる時というのは、老若男女問わず、こんな始まり方はしないだろうか。


「ねえ、呪いの言葉・・・・って知ってる?」


 聞いたことのある人もいるだろう。だが、肝心の言葉が一体どういうものなのか、言い換えれば全容を知っている人というのは、ほぼいないのではないだろうか。


 理由は単純である。

 知った者は数日以内に狂い、失踪もしくは死亡してしまうからだ。


 失踪した者は誰一人としてその後の姿を見ていない。一方で、死んだ者は眼球を剥き、口は縦に大きく開けて息絶える。どちらに転んでも酷い末路を迎えてしまう。


 肝心の言葉が何かを知らないのは、他人に言い伝える前におかしくなるか、この世からいなくなってしまうために分からない、からであろう。


 最初は、ネットの片隅で語られていた程度であった。小さなボヤにも近い、いつ消されてもおかしくない噂だったおよそ一年前の頃は、嘘だのまやかしだのと、真剣に取り合わない人が殆どであった。

 しかし今では、実際に害を及ぼされた人を見た人が日に日に増えていったことも影響し、信じる人と信じない人の数はほぼ同等にまでなっている。


 死んだ者がいたにも関わらず、警察が大して取り合わないのは何故か。

 確かに頭部には共通して酷い引っ掻き傷があったものの、直接の死因としては皆、急性心不全であったからが影響している。


 とはいえ、あまりにも不可解な自然死が多発したことで、警察は連続殺人事件であるとし、全国的な大規模捜査に踏み切ったこともあった。およそ九ヶ月前のことである。その宣言にも似た発表を、メディアがこぞって取り上げたことは、記憶に新しいことだろう。


 警察はまず、引っ掻き傷と被害者の身辺調査から始めた。

 引っ掻き傷による皮膚片は全ての被害者を調べたが、誰もが本人の爪に残されており、争った形跡はなく、無駄に終わる。

 そして、身辺調査。揉めたりしていなかったか、恨まれるようなことはなかったか、など。しかし、これも無駄に終わる。いなかったわけではない。だが、個々に結びつくことがなかったのだ。

 無差別であるとの見解に切り替え、監視カメラや目撃証言の洗い直した。後に引けない警察は、徹底的に調べ上げた。遺体現場の半径一キロ圏内の監視カメラ、目撃証言をまさに片っ端から調べ上げた。しかし、有力な手がかりは得ることができずに終わった。


 かつてないほどの人員を割いた捜査であったが、結果、事件性無しとの見解に至り、捜査は打ち切りとなった。要するに、お手上げ、ということだ。

 日本警察が実質の白旗宣言をしたことも、マイナーをメジャーに押し上げた要因の一つでもあるだろう。


 押し上げた要員、についてはまだ幾つかある。特に印象に残っているものは以下の二つであろう。


 一つ目は、被害者の中に著名人や芸能人が多くいたこと。


 恋愛リアリティーショーで注目されて今やテレビで見ない日はない十代女性タレント、漫才の賞レースで最年少で優勝した若手お笑い芸人、最近はドラマで主演を務めた人気女性雑誌の美人モデル、歯に衣着せぬ物言いで人気に火がつきバラエティに引っ張りだこの新人の男性小説家、飛ぶ鳥落とす勢いの若手敏腕IT社長、海外トップクラブに所属が決まった弱冠二十歳のサッカー選手……ありとあらゆる職種・経歴の人間がいたために、またネットを駆使して情報を発信している若いインフルエンサー世代が中心であった事もあいまって、様々に影響を及ぼした。


 二つ目、この言葉の恐ろしさが証明された事件があったこと。


 一ヶ月ほど前の話になるだろうか。

 基本無料で利用できる、世界最大のオンライン動画共有プラットフォーム、MyTubeマイチューブ

 チャンネル登録者数五百万人超えの超人気MyTuberマイチューバーのカナリアン。彼が次回の予告動画として「呪いの言葉、ついに判明! 次回発表します!!」という動画を上げた。


 普段は都市伝説系のものを扱っていないために戸惑うユーザーもいたが、次第に注目度は当然に高まっていく。数ヶ月もの間、話題になっていたものの答えがすぐそこにまできているのだから。

 テレビで特集を組まれることになる程の人気ぶりであったのだが、次回の投稿はいつまで経ってもされない。

 普段ならば、中一日開けて動画が投稿されるのだが、昼になっても夜になっても日付を跨いでも、動画が上がる事はなかった。


 界隈では起きた異常事態に対し、確たる証拠のない憶測が独りでに、加熱した。

 呪いの言葉を知ってしまったがゆえに危険な目に遭ったのではないか、本当は分からなかったのにあんな動画を上げてしまって首が回らなくなったから逃げたのではないか。

 どれが正解かは分からないが、一度盛り上がった話題はそう醒めやらない。沈静化するにはもう本人が直接はっきりと答えるしかない状況下。そんな時でも音信は不通のままだった。

 そのうち一部熱狂的ファンの何名かは不安に思い、カナリアンが死んでいるかもしれない、と警察に通報してしまい、多少の騒ぎにもなったそう。


 そして翌日、火災報知器の定期点検のために、合鍵で入ったマンション管理人と業者がカナリアンを自宅トイレにて見つけた。頭を便器に突っ込んで、息をせず。そう、彼は既に亡くなっていたのだ。その後、警察は死後の状態から、予告動画を上げた日から数えて三日後に絶命していたことが判明した。


 恐怖に染まった表情、頭部の皮膚片が残留していた爪。これまでのと共通していることばかり。

 これがきっかけで呪いは本物ではないかという話題になった。


 そんな、都市伝説、と呼ぶには、あまりにも有名になり過ぎてしまった“呪いの言葉”。

 言葉が何なのか分からないのに、あるという存在を知らない人はもういないのではないだろうか。


 我々、51エリアズは今回、その中でもある一つの事象に焦点を絞って調べを進めた。それはnvmおfjいgjうkm

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