第21話外れぬ首輪 1
「あぁ~すっきりした。全て話せてよかったよ。
ずっとこの事が気がかりだったから・・・・・・、受け入れてくれて良かった」
全てを話し終えた後、急に雨が降り始めた。
急いで車に乗り込んだ私達は、お腹がすいたので夕食を食べに行くことにした。
話し終えた彼は先ほどまでの難しい表情から一変、笑顔になり、饒舌に話し出す。
「もう隠し事は何もない」
「そうだ、今度僕の家を教えるよ。一軒家なんだ。だから大きなテレビを置ける」
「大西さんは思っていた通り優しい人だった。僕の過去を許してくれるなんてさ」
「やっぱりあの時声をかけてよかった。あの時僕がとった行動は正解だったんだ」
お店に着き車を降りた時、私は1つの質問を彼に投げかけた。
「蒸発した奥さんとお子さんの事を、今でも思い出しますか?」
すると彼は遠くを眺めながら、こう答える。
「もう忘れたよ」
嘘つき。
忘れてない癖に。
なんでわかるかって?
それは私が父を忘れていないからだ。
蒸発して10年以上経つのに、今でも首が絞めつけられるように苦しくなる。
貴方もそうでしょ?
きっと今も奥さんが蒸発した時にはめられた首輪が苦しくて仕方がないに違いない。
家族に捨てられた者だけにはめられる、一生外れない鋼の首輪。
私にはその嘘はバレてしまうよ。
食事中、彼はとてもご機嫌だった。
2人じゃ食べきれない量の料理を注文し、私に取り分けてくれる。
もう貴方は3人家族じゃない。
取り分けなければ食べれない、小さな子供もここにはもういない。
言えなかった。
お店を出た後、私は彼に1つ自分の事を話すことにした。
「私の父も10年以上前に蒸発しました。同じですね」
彼はとても驚いた顔をしている。
「蒸発してしまったけど、私は父の事を嫌いじゃないですよ。
もう過去を恨むのは止めました」
私は父を恨んではいない。
恨んでいるのはきっと母に対してだ。
「なんで恨まないの?普通許さないでしょ。家族を捨てる奴なんて有り得ないよ」
「父が蒸発したのにも理由はあるから。だから父だけを一方的に恨む事は出来ません」
父が蒸発した原因は、母。
なら岡野さんの嫁が蒸発した原因は・・・・・・?
「蒸発した奴に同情する価値はない。恨まないなんてオカシイよ」
オカシイ?
私と岡野さんでは少し考え方にズレがあるみたいだった。
「ご馳走様でした」
お礼を言い、待ちあわせ場所で降ろしてもらう。
「また次の休日デートしてください!」
お決まりのフレーズ。
「是非お願いします」
今回はいつもと違う。
お互いの壁が外れ、距離が縮まった気がする。
今日のデートは大きな収穫があった。
お互いの大きな秘密を知る事が出来た。
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