3-6. 強い人弱い人

👉いままでのあらすじ

・夏休み

・ヒロミの呼びかけで海に行き、蝉丸なる人に能力の話を聞いてきた

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 興居島に行った翌日の「研究室」での出来事である。昨日の収穫も含め、能力の話をするために白岡・ヒロミ・私の三人だけで集まっていた。ちょうど本節の冒頭と同じ顔ぶれだ。


「それじゃあ気を取り直して、ね、アヤメン」


 ヒロミが白岡に小声で話しかけた。


「ほ、本当にやるの」

「当ったり前じゃん、何のために時間かけて買い物したの」


 ヒロミはこちらに向き直る。


「シゲシゲ、10分くらい席を外してもらってもいい」

「はいはい、了解」


 なんだか知らないが、またしても白岡と結託しているのである。徒に抵抗したところで結果は変わらないだろうし、ダイナマイトなハニー には素直に従っておくに限るだろう。


 10分後教室に戻ってみると、何と二人は水着を着ていた。冗談に思われるかもしれないが、本当のことである。私自身、驚くべき光景に、まるで時間停止を目の前で見せつけられた人の様に、きょとんとしてしまった。


 白岡は上下ともなんかひらひらのついた水着を着ている。いつもしている髪飾りと同様に、美しさに可愛さが加わっており、彼女の魅力を引き立てている。ヒロミの方はもっと大胆なビキニスタイルである。ひときわ目につくのが胸の部分で、あ、いや何でもない、容姿については描写しないという約束だった。


 以下、こっぱずかしくて内心を描写する気になれないので、台本形式(*1)でお送りする。似たような状況についての既往文献は多く存在するので、読者の皆様におかれては、適宜それらをご参照の上、脳内で補完していただきたく思う。


【関 博美】「ほ、ほら、本当は昨日着るつもりだったんだけど、溺れた子がいて有耶無耶になっちゃったからさ」

【白岡菖蒲】「そ、そうよ、折角買った水着だから着ないと水着がかわいそうでしょ」

【川内重信】「そ、そうか。それなら仕方ないな」

【白岡菖蒲】「えっと、何か言ってよ」

【関 博美】「アヤメン、ものすごく真剣に悩んでたもんね」

【白岡菖蒲】「ちょっと、それは言わない約束でしょ?」

【川内重信】「あ、うん、すごく似合っているよ」

【関 博美】「あたしは?」

【白岡菖蒲】「ヒロミさんこそ、今年は」

【関 博美】「いや、別にそれはシゲシゲがどうとか、そういう意味じゃなくて」

【白岡菖蒲】「あら、別にそんなことは言っていないけれど」

【関 博美】「で、どうなのシゲシゲ?」

【川内重信】「うん、ヒロミもいいよ」

【関 博美】「そ、そう……じゃあサプライズ大成功ってことで」


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 さて、気を取り直して、前節で公約したように、能力について分かっていることを整理しておこう。工学的、という表現が良いかは分からないが、原理はよく分からなくても実際に活用するレベルにおいては、いくらかましな状況であるのである(最初に書いた目的を忘れたわけじゃない、構成上の都合なのだ!)。そうは言うものの、読者諸君の知的好奇心を満たすのに充分なものであるかどうかかなり不安なところではあるが、これとて体系的なまとめは昨年になってようやく回覧されたものである。


 既述の通り、「能力」、正確には特定能力には甲種と乙種の二種類がある。尤もこの区分は必ずしも客観的に定義されているわけではなく、活用する際の都合で恣意的に設定されている側面が強い。雑な言い方になるが、乙種は今後の科学の進歩で代替できそう、もしくは既に代替できる能力を指す。例えば、白岡の10万馬力なんかは大きな機械であれば実現できるし、あるいは常温核融合 かそんな感じの何かができれば、あのサイズで実現することも不可能ではないんだろう。逆に甲種は今後もどうしようもなさそうな能力を指す。四大甲種能力と言われるものがあって、一つは私の時間停止、ほかは読心術とサイコキネシス、錬金術だ。安国寺とかいう人は錬金術だと聞いたことがある(資金源なので発言力がでかいんです)。尤も、これらの能力だって科学的に不可能ではないかもしれない。やっぱり核融合でAuを作り出すことはできるのかもしれないし、相対性理論か何やかやで時間も停止できるのかもしれない。繰り返すが、両者の区分は恣意的なものである。


 甲種と乙種では統制の仕方が大きく異なる。例えば、居住地の変更に関して前者では許可制であるのに対し、後者は登録制である。尤も、ここまで読んでいただいて分かるように「許可制」といっても、運用実態はより制約が大きい。登録の方も、少し怪しいところがある。例えば、職場の人事に介入するなど、見えない圧力が存在していると言われている。


 遺伝に関しては男系でも女系でも継承される。どこの染色体に載っているんだよ、その情報、と思われるかもしれないが、そういうことを聞かれても困る。藤原不比等の子孫がそこらじゅうにいるように (*2)、まちは能力者であふれかえっているんじゃないかと思われるかもしれない。しかし、過去に戦国時代やら藩政時代の小競り合いやら第二次世界大戦やら、何回も能力者同士がぶつかり合う事態が起こって、そのたびに間引かれてきた。佐藤さん同士が殺しあう事態 が発生してきたのだ。そういう経緯もあってか戦後は近年まで、家族以外の能力者は相互に触れ合う機会がなかった。


 上のような背景から、将来能力者を増やすためにも、能力者を中心としたキャッキャウフフワールド を構築すべきであると、私などは思うのだ。しかし、政府は妙なところでまじめであり、嘆かわしいことに能力者に対し一夫一婦制の例外を認めていない(*3)。


 そういう遺伝の体系を持っているのなら、能力者同士のこどもはハイブリッドですごい存在になるんじゃないかと思われるかもしれない。しかし、ぶりっとちゃん は致命的な欠陥を抱えることが分かっている。それぞれの能力が一日30秒しか使えないのだ。ところがどっこい、冗談のような話だが、能力を三つ以上持っていると、これが3時間に伸びるという。


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〈註〉

*1 台本形式: 一部には台本形式を程度の低いものとして批判する向きがあるようだが、それは適切ではない。何となれば、人類の文学の最高傑作と評されるシェークスピアの作品も台本形式で書かれているのだ。もちろん、権威に盲従すべきではないが、私を批判するならシェークスピアを倒してからにしていただきたい。

*2 藤原不比等の……: いやまあ、〇藤さんも、地名だったり領主の名前にあやかったりで必ずしも藤原家の子孫ではないらしいけれども。

*3 一夫一婦制の例外を……: 天皇家すらあの有様なのだから、それ以外はお察しである。

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