1-5. 本当にやるんだな
👉いままでのあらすじ
・白岡(10万馬力)は政府の監視下にある私(川内)の「救済」を申し出た。
・白岡の主張により、能力者による結社を
・私は日付が変わる直前に能力不使用の確認をさせられる
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求む!
現代のエドガー・ケイシー 、ユリ・ゲラー 、ハリー・フーディーニ
私たち
組織での活動を通して、私たちの能力が持つ特性やその利用法について調査・探求しています。これまでの研究の結果、多くの能力者は一日当たりある一定の時間的制約をもってその能力が発揮されることが明らかになってきました。
しかしながら、私たちは四国で活動しており、実地で会えるメンバーは限られています。このことが私たちの活動に大きな制約をもたらしています。より多くの仲間とコミュニケーションをとれればと思い、インターネットを通じて募集させていただくことにしました。
このホームページを見ている能力保持者の方、もしもあなたの周りに誰も能力者の
仲間がおらず困っているのなら、私たちで何か協力できることがあるかもしれません。思い当たるところがある方は、以下の連絡先(*1)まで!
白岡菖蒲
die_zinnsoldaten[at]gmail.com
[at]を@に変えてご送信ください
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「実在の人物を挙げて、知られていない能力者の存在を隠蔽しつつ、『一定の時間的制約』という表現を入れることでわかる人にはわかるようにしているのがポイントね」
通例通りなら惰眠をむさぼっているはずの土曜の昼、私はどういうわけか高校にいた。場所は昨日と同様、旧2年11組である。白岡からちょっと来てくれないかというラインが入り、不承不承出てきたのであった。無気力、無関心、無責任の私を突き動かしているのは一にも二にも白岡の強引さである。美人は三日で飽きるというが、白岡のこのゴリ押しは飽きたりなれたりする性質のものではないから、彼女を美人にカテゴライズするのは適切ではないだろう。
その時にいきなり見せつけられたのがこれである。どうやら、能力者を探索するフライヤーらしい。インターネット上に掲載して能力者を探索するらしい。このページ以外にもいくつかのページが既に作成されており、超能力研究サークル(?)として最低限必要なものは揃っていた。
「あれから考えたのだけれど、まずは二つの戦略をとることにしたの」
昨日の今日でこれである。内容はともかくとして、やろうというのは本気らしい。
「一つ目は新メンバーの探索よ。監視からの解放をツィンゾルの目標にするにしても、まずはメンバーがいないとと思ったの。きっと私の様に、能力を持っているけれど誰にも知られていない人がいるんじゃないかな。そう考えると、仲間を集めようという最初の目標もいいのかなって」
「まあマイナスにはならないんじゃないの」
白岡は自分以外にも未掌握の能力者がいると信じているようだ。尤も、政府が把握しているといったって、我々能力者がほかの能力者を把握しているわけではないので(憲法は私を助けてくれるとは限りませんが、個人情報保護法はいつだって私を守ってくれるのです)、政府把握済みの他の能力者を見つけるという意味では効果があるかもしれない。とは言え、このホームページがそういった目的に対して合理的な水準に達しているのかは疑わしいが。
「そういうわけで、これからガンガン活動していくから、よろしく」
「おいおい、それ、俺も入るのかい」
「何を言っているの? 川内君のためでもあるんだよ」
まあ昨日あたりのテンションと、それから今日の呼び出しから、こうなるパターンなんだろうなあというのは想像していた。それでも反論を試みる。
「なあ白岡さんよ、別に俺は現状に不満があるわけじゃないんだ、そりゃあ俺の置かれた状況は多少極端かもしれないけれど、誰だって似たり寄ったりな状況じゃないか。監視されているわけではないといったって、町中には監視カメラがあふれているし、自由に住所や学校を選べるっていったって、親やらなんやらの制約を受けるってもんだ。みんな何かしらの不満を抱えつつ、バイクを盗まず、ガラスを壊さず、折り合いをつけながら生きているんだよ。本当の自由なんて存在しないんだ。俺が特殊だというのは質的な差異じゃない、しょせん量的なもんだ」
私の長台詞を頷きながら聞いていた白岡であったが、納得したわけではないのは笑っていない目元から分かる。
「それでも超えてはいけないラインというものがあるでしょ。例えば嘘をついてでも、守らなければならないものがあるはずよ」
どうもこのお方は常識というのを分かっていらっしゃらない。そんな「お前もフリーダムにしてやろうか」 とでも言わんばかりのノリは近頃はやらないだろう。
「俺はこの能力を人を救うのに使っているんだ、そのことについちゃ、一応誇りだって持っている。なんてったって『人命は地球より重い』 んだ。あんたの言うように自由はそりゃあ大事なのかもしれないが、地球よりかは優先度が低いでしょう。さらに言えば、お蔭様で経済的にはずいぶんと楽をさせてもらっている(*2)」
「それは論点のすり替えだよ。人を救出しながら個人の自由を享受するやり方だってあるはず。それに川内君をみているとその……」
「分かった、分かった、あんたの熱意は分かったよ。別に特にほかにすることもないし、協力するよ。どっちにしたって、あんたには能力者としての常識がないんだからいずれにせよいろいろ教えてやらなくちゃならないわけだし。だからこの話は終わりだ」
白岡はシュンとしてしまった。沈黙が空間を支配する。しょうがないから、話題を振ってみる。
「あんたの能力について聞きたい。10万馬力と言われてもあんまり想像がつかないんだけど、どれくらいのことができるんだい」
「ああ、10万馬力というのは八百万の神みたいなものね。キリの良い数字だから使っているだけ」
白岡はあっけらかんとしていた。
「そうすると本当はどんなものなのか分からないのか」
国に管理されていれば、いろいろと検査され能力の詳細について知ることになるのだが、野良では難しかろう。
「うん、でも、周囲の動くと思われる大半のものは動かせるよ。建物を動かすとか地球を逆回転させるとかは無理だけどね。あとは力の使い方次第で壊すとか形を変えるとかいろいろできる。まあぶっちゃけ、日常生活で役に立つことはあんまりないんだけどね。あでも、ソファーの裏にものを落としちゃったときとかは便利だよ」
なかなか柔軟性の高い力であるようだ。ソファーとか、ちょっと力のある一般人でも動かせるけど。
「それに比べると時間停止とかカッコいいよね。人を救っているのもすごいし。それにいろいろ便利そう」
「うん、まあそうだな」
随分と暗いトーンの応答になってしまった、ああ明らかに反応を間違えた。白岡が気まずそうな表情をしているよ。先ほどよりは居心地の悪さは幾分緩和されているものの、またしても沈黙だ。書いている今の私からしてもこの辺を記すのは面倒なので、早く登場人物が増えたころの話に移りたい。別の話題を探そう。
「ところで、昨日から気になっていたのだけど、この薬缶は?」
「能力を使うために湯を沸かすの」
「そりゃそうだけど、すぐ冷めるし面倒だろ。俺は持ち歩いているよ」
そういって私は愛用している象印の水筒(魔法瓶)を見せる。
「あ、それもそうね。確かに化学実験室から運んでくるのは大変だったわ。家でしか能力を使ったことがなかったから、あんまり慣れてなくて」
化学実験室って別の教棟じゃないか。本当に本当にご苦労さん 。
「それと、この
白岡の眉が動く。「良くぞ聞いてくれました」と言わんばかりだ。随分と分かりやすい反応を示すな、こいつ。
「
「聞いたことくらいは」
「スズが足りなくなって一本足しかないのだけれど、それでもしっかりと立っているの。能力者であるわたしもそういう風にしっかりと立てるようになりたいと思って」
能力があってもしっかり立てる、か。
「なかなかいい名前じゃないか」
先ほどの轍は踏むまい。つとめて明るくいった。が、ちょっと引っ掛かるとことがあった。
「しかし、アンデルセンならデンマーク語じゃ?」
後期産業革命の先頭を走ったドイツのことである、金属を使った工業製品には一日の長があったのだろうか。あるいは、ドイツ語はあの辺りで威信言語であったのだろうから、アンデルセンもドイツ語で著作をしていたのだろうか。私はいろいろな推測を巡らせていたが。
「だってカッコいいじゃん 」
簡潔な答え。なるほど、かっこいい、そりゃ大事だ。
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〈註〉
*1以下の連絡先: 規約を読み直すと、メールアドレスを掲載する行為は認められないということであったので、不本意ではあるが、実際のアドレスとは別のものに改めている。
*2 経済的には……: IRA隊員として月に1回か2回出動し、問題なく一人暮らしができる程度の給金は得ている。天下り外郭団体でもありえないようなすぐおいしい、すごくおいしい仕事に思われるかもしれないが、危険な環境での勤務であること、責任の大きさを考慮していただければ幸いである。
*3 しっかり者のスズの兵隊: 楠山正雄による翻訳版が青空文庫で読めるので、未読の方はぜひ。 http://www.aozora.gr.jp/cards/000019/card42379.html
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