第27話
あの煙が何であったのかはわからない。今わかることは、俺はあのペットボトルに入っていた爪を愛しすぎていたということだけだ。愛しても愛しきれない程の感情を、俺はあの小さなプラスチックの容器に詰め込み過ぎたのだ。そして長い間ペットボトルに封じ込められていた爪への愛情が今日とうとうパンクしてしまったのではないかと思った。それしかわからない。いや、それしか思いつかなかった。
部屋からはまだ薄く煙りが出続けている。しかしここでいつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。力が入りにくい体でベランダの手摺を頼りながら無理矢理勢いをつけて立ち上がった。その時、煙で霞んだ目の前の景色がなぜか揺れ始めたのだ。よくある立ちくらみかと思ったが、揺れはだんだん立っていられなくなるほど激しくなり、目まで回り始めた。足元がおぼつかなくなり、俺は呻きながら再びベランダに転がった。
上下左右がわからなくなるほどの強烈な眩暈に似た現象にのたうち回っていると、急に心臓がひっくり返りそうな感覚が襲いかかってきた。自分がいる部分のコンクリートが切り取られて急にベランダから抜け落ちたかのように体が地面に向かって急降下を始めたのだ。
声も出なかった。なすすべもなく、俺は全身に風を感じながらただただ落ちて行った。
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