第26話

 白煙に襲われて動転した俺は、体勢を崩した拍子に近くのガラス窓に思い切りぶつかってしまった。かなりの衝撃だったが、その衝撃で少し冷静になった。そこから窓という存在に気付き、充満している煙を窓の外に出してしまえばいいのだという、ごく当たり前なことを閃くことができた。


 煙で視界を遮られながらもカーテンを毟るように開けて、慣れない左手で必死にガタガタと激しい音を立てながらガラス窓を開けた。あっさり見つかった脱出口から勢い余って煙と一緒に俺もベランダへ転がり出た。煙にまみれた俺は冷たいベランダのコンクリートから慌てて立ち上がり、右手に固定されていたかのように握り締めていたペットボトルを思い切り外に向かって放り投げた。ペットボトルは白い放物線を空中に描きながらマンションの敷地外へと消えた。手元からペットボトルが無くなってもまだ体のまわりにはしつこく白い煙がまとわりついていた。


 煙が出た原因はわからないが、とりあえず煙の元を排除できたことで心は一旦落ち着いたが、体は脱力してしまい、コンクリートの上にへたり込んでしまった。


 不思議なことに、あれほど大事にしていたペットボトルを投げ捨ててしまった今、さっきまでのペットボトルへの執着はなくなっていた。不気味な煙を出している状況を見てパニックになってしまったせいか、爪が不気味な存在に思えたからなのか、理由はよくわからないが魔法が解けたかのように頭の中が妙にすっきりとしていた。

 

 

 


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