第24話

 恐る恐るドアノブをまわして、ゆっくりドアを3センチほど開けてみると、途端に細い隙間から煙が襲いかかってきた。このままドアを閉じて消防署に連絡しようと思ったが、部屋にはあのペットボトルがある。何が燃えても、何を手放しても、あれだけは取りにいかなければならない。その気持ちが俺を動かした。


 煙を吸い込まないように腕を口元に当てながら姿勢を低くして靴を履いたまま小走りで部屋の奥に向かった。玄関から狭い部屋の中まで煙は充満していたが不思議と熱は感じなかった。とにかく火元を探そうと部屋中を確認して回った。そして煙は唯一火を使うことができるキッチンでも湯を沸かすことのできる風呂場からでもなく、ペットボトルを仕舞っている机の引き出しの周辺から吐き出されていることに気付いた。


 引き出しの隙間からもうもうと煙が噴き出されている事実を目撃した時、理由や原因を考える間もなく頭のてっぺんからすうっと寒くなる感覚が体の中を通り抜けた。ショックで数秒立ちすくんだ後、もやがかかったかのようなぼんやりとした頭のまま、半ばやけになって引き出しの取っ手を思い切り引いた。するとずっと引き出しの中で燻っていたと思われる真っ白な煙が俺の顔面を目掛けて噴き出してきた。煙が顔面に直撃したが、やはり熱は感じなかった。


 爪の虜になってる俺は温度も匂いもない不気味な白い煙を手で払いながら霞んだ引き出しの奥に目を凝らすと、爪の入った愛しいぺットボトルが見えた。真っ白な煙は、そのペットボトルのキャップとボトルの隙間から激しく噴きだされていた。

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