第16話

 男は気持ちが落ち着いたら、きっとまたここへ何食わぬ顔をして帰って来るだろう。警察に自首するようなことはしないはずだ。そして私の体はしばらくすれば回復して普通に動けるようになる。


 今は何より赤ん坊の亡骸をどうするのかが一番の問題だった。できればちゃんと火葬して墓に入れてやりたいが、住んでいる地域の許可なくそんなことができるわけがない。では、一体どうすればいいのか・・。



 洗面所の床に座り込んでため息をついた。親も親戚も友人さえいない自分の境遇が辛かった。仮に誰かがいたとしても、こんな状況を誰かに言えるわけがないのだけれど。


 そんなことを際限なく考えていると、常に恐れている孤独の影が背後から近づき、襲いかかる隙を窺っているように思えて体をぶるりと震わせた。

 

 とりあえず今は体が傷ついていて外に出ることはできない。外に出られない間、赤ん坊の死体は可哀想だが冷凍庫に入れておくことにしよう。そして動けるようになったら、念のため家から離れた場所で赤ん坊を埋めるための道具を揃えようと思った。


 鬼の所業に手を染めようとしている自分が恐ろしかったが、恋人と自分の人生を守るためにはこうせざるを得ない。今まで我が子を愛おしいと思っていたあの感情は何だったのだろう。子を育てるという、人としての義務を義務だと感じないようにするための演技だったのだろうか。いや、もしかしたら赤ん坊は男を惹きつけておくための道具に過ぎず、母子間に元々愛など存在していなかったのかもしれない。


 

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