第15話
視線を赤ん坊のいる壁の方に向けるとその場から動けなくなりそうなので、なるべく前だけを向いて洗面所まで這って行くことにした。
息も絶え絶え辿り着いた洗面所で洗面ボウルに手をかけて立ち上がり、目の前の鏡に顔を映してみると、そこには化け物がいた。両目は腫れあがり、唇は所々裂けて出血していた。頬の辺りは肌の色が赤紫に変色していて、傷つけられた皮膚が早くも内側から腐り始めているかのような印象を与えていた。少しだけ口を開いてみると前歯が二本折れていることがわかった。
自分でも化け物だと思えるほど様変わりしてしまった顔を見てショックを受けるよりも、この顔で生きていく明日からの生活と赤ん坊の存在がフウコを焦らせた。
フウコはこの部屋で起こったことを通報して事件にするつもりはなかった。いや、できなかったのだ。男が赤ん坊を殺すに至ったのは自分が赤ん坊にばかり構っていて、男の気持ちを分かってやれなかったせいだ。それが原因で男を凶行に走らせた挙句、赤ん坊の命まで奪ってしまった。全てが自分自身の罪だった。だから男を責めたくはなかった。
それならばどうするか。フウコは血の味で満たされた口の中を水でゆすぎながら悩んだ。
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