第11話
数秒のことだったが、異常な光景を目の当たりにして呆気に取られていたフウコは我に返り、叫びながら男を突き飛ばして赤ん坊を取り上げた。しかし無表情だった顔が鬼の形相へと変わった男に足首を掴まれて床に転がされてしまった。倒れた拍子に腕に抱えていた赤ん坊が体から飛び出すように離れたのだが、床に投げ出された時の衝撃があったにもかかわらず、赤ん坊は泣きも動きもしなかった。
フウコが倒れている隙に男は赤ん坊の服の襟元を掴んで持ち上げた。フローリングの床でしたたか打った膝の痛みに顔を歪ませながら濡れた髪を振り乱し、タオルが肌蹴たことも忘れてフウコは男に掴みかかって赤ん坊を再び取り返そうとした。男は飛びかかってきたフウコの髪の毛を掴んで頬を打ち、再び床に倒れたフウコの横っ面に蹴りを入れた。
男は床で倒れたまま震えているフウコを上から見下ろした。普通ではない表情の男は心身ともにダメージを受けたフウコを見て安心したのか、一瞬ふぅ・・と息をついた。そしてブラブラと持っていた微動だにしない赤ん坊の頭をがっちりと持ち直して、そのまま部屋の白い壁に向かって赤ん坊を思い切り叩きつけた。部屋の隅でドグッ、という鈍い音がした後、叩きつけられた壁から赤茶色の歪な線を長く描きながら、赤ん坊の体はずるりと床に落ちた。
赤ん坊は骨が溶けて無くなったかのように、ぐにゃりと体を折り曲げて部屋の冷たい床の隅で息絶えた。本当はもっと前の段階で死んでいたのかもしれないが、今の状況で赤ん坊の死は確実なものとなった。
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