第8話
頬杖をつきながら右手に持った爪の入ったペットボトルを眺めていたら、電話が鳴った。携帯電話の着信画面を見ると、フウコからだった。
「よう、どうした?」
問いかけてから少し間を置いてフウコが話し出した。
「しょうちゃん?あのね、私、また妊娠したみたいなの。さっき検査薬でわかったの」
フウコからの不意打ちの告白に思わず舌打ちをしてしまった。またか・・・。
「どうしたらいい?私・・どうしよう・・・」
「どうしようって、どうしようもねぇだろ?前みたいにしろよ」
「また?私、今度は産みたいよ。一人で育てるから。絶対しょうちゃんに迷惑かけないようにするから・・・」
さっきの舌打ちが聞こえてしまったのだろうか。フウコは涙声で話している。俺は子どもなんてほしくはないし、付き合いは長いが、顔がぼんやりとしか思い出せない程度の女のことなんてどうでもよかった。しかも爪を自分から渡してきた女というのも、このフウコだった。交際当初から今も変わらず頭も股も緩くて弱い女に情けなど必要ないと思っていた。
俺はフウコに過去二回堕胎をさせている。一度目も二度目も妊娠がわかった時にフウコは何度も俺に生みたいと訴えてきたが、その都度、別れ話をチラつかせて金を握らせれば素直に言われるがまま子どもを堕してきた。
フウコ以外の女にも堕胎をさせたことはあったが、責任感や罪悪感など一度も感じたことはなかった。所詮は爪を得るための道具でしかない存在に『思いやり』などという贅沢品を与えるつもりなど微塵もなかった。
「迷惑をかけないも何も、妊娠している女が近くにいること自体が迷惑なんだよ。明日金を渡すから、その金で病院行ってこいよ。必ず始末しろ」
「しょうちゃあああん・・・」
その場にいたら縋りついてきそうな勢いで泣いているフウコの電話をさっさと切って、俺はまたペットボトルを愛で始めた。
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