第5話

 そんな無垢な幼少期から時は過ぎて、『愛の付属品』の中からときめきの成分が抜け、女の爪が性の対象にしか感じられなくなってきたのは思春期に入ってからだった。『愛の付属品』は『愛、時々欲情の対象』へと俺の中でランクは下がったが、つまらない人生を懸命に生き抜くための生き甲斐として役割を新たに果たし始めたのだった。


 爪に興味を持ち始めてから、爪をただ見ているだけで満足できていたのはほんの少しの期間だけで、その後は食べたり体に擦り付けるための爪を集めることに奔走していた。しかし爪を集めようにも見ず知らずの女性にいきなり爪を求めることなどできなかったので、仕方なく交際という手順を踏んで三日月形の宝物を手に入れようとした。俺は家族にも他人にもばれないように澄ました顔をして、体が欲するままに行動していた。それは年頃の男子が性欲を満たすためのグッズを親に隠れて探し求めるような感覚に近かったので、求めるものが違うだけで、まわりの同級生の男子たちと然程違いはないと思っていた。


 初めて爪のために交際をしたのは中学校二年生の頃だった。相手は他校の女子生徒であった。俺は学校や職場では爪の収集はしないようにしている。その理由は交際相手がまわりの人々に俺が爪を求めたことを話されると厄介だったからだ。交際している間柄であるとはいえ、女の爪を求めるような男はまともだと思ってはくれないだろう。おかしな癖を持った人間を社会の中で寛容に認めてくれるわけがない。一度でも悪い噂が広がろうものなら、話に尾ひれがついて、そのコミュニティに居ることができなくなるということを俺はちゃんとわかっていた。そういう理由の上で、学校や職場が別で共通の知人もいない環境で交際相手を見つけるようにした。若干面倒臭さはあったものの、爪を手にするためだと思えば頑張ることができた。

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