第2話

 初めて女の爪に興味を持ったのは幼稚園の頃だった。俺は夏休みに両親と一緒に母の実家に帰省した。田舎にあったその家は古い造りの平屋建てで、祖母と叔母夫婦と従妹が四人で住んでいた。帰省した時の一番の楽しみは従妹と遊ぶことだった。年が近くて、いつもニコニコしていた従妹が、俺は可愛くて仕方がなかった。仲も良く、朝から一緒に遊んで午後は昼食の後、一緒に昼寝をした。そして起きてはまた遊んだ。その家にいる間は、とにかく朝から晩まで二人でくたくたになるまで遊びまわっていた。


 帰省した次の日辺りのことだったと思う。昼下がり、広い庭が望める和室で、従妹が足元に新聞紙を敷いて叔母に手足の爪を切ってもらっていた。縁側で足をブラブラさせながら、首だけを部屋に向けてその様子を見ていた俺は、従妹の爪に触れることができる叔母を羨ましく思っていた。それに引き換え、従妹を見ているだけで何もすることができない手持無沙汰な自分が虚しく思えて、和室の二人から視線を外し、俯いて自分のつま先を見つめた。地面に着かず浮いていた足の下を蟻が数匹列を作って歩いていた。ゆっくりゆっくり、しかし確実にどこかへ向かおうとしている蟻たちが急に忌々しく思えて、足を延ばしてつま先を使い、蟻たちにザッザッと砂をかけた。


 従妹の母親に妬くなんてどうかしているが、従妹と年が変わらない自分にはできないことをしてやれる叔母が本気で羨ましかったのだ。自分の爪すら切ることができなかった幼い俺は、大きくなったらいつか叔母よりも丁寧に従妹の爪を切って、爪の形まで可愛くしてやりたいと考えながら、従妹に対して愛おしさを募らせていた。


 

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