第18話 やりかえせ! 人間トラップ!
さて、どうしたものか。
人間とらっぷと言っても、猫に聞く人間など聞いたことがない。だとしたら、やはり道具だろうか。
たとえば‥‥‥‥猫じゃらしとか‥‥‥いや、だめだ。あいつの特性的に猫じゃらしは駄目だ。
スターキャットは、動くものに対して敵対してしまう。普通の猫なら、猫パンチとかで楽しいが、スターゲイザーなんてされたら困るからな。
という事で動かなくてもできるものを選ぼう。
では何にしようか。
俺が今持ち合わせている物は、カルネの魔導書。ケルベロス。
(何も持ってねぇ‥‥‥‥)
そう、スターキャットに効果が生まれるものは一つも持っていなかった。
何か手がないかと、迷っていたのでルナに手を借りようとして、ルナの方を向いた。
そしたら、先ほどまでいた場所にはいなく、どこから持ってきたか分からない猫じゃらしを持って、スターキャットに近づいて行っている姿があった。
俺は知ってる。
スターキャットの本性は、気性の荒い危険度A指定の凶悪モンスターだ。危険度Aとは、ケルベロスの様な危険度Sの強さとは比べ物にならないくらい弱いが、この学園を全壊‥‥‥‥とまではいかなくとも、確実に半壊までさせられるほどの力を持っているモンスターだ。
まともな人間が近づいていいものじゃない。もしも、まともな人間じゃなくとも、精霊級ぐらいじゃないと危険極まりない。
止めに行くか? いや無理だ。あのスターキャットの顔は、今動いたら殺すぞとひそかに俺に脅迫してる顔だ。
スターキャットの可愛い顔は、悪魔の顔と呼ばれている。森の中限定だけど。
さて、本当にどうした物か。
何故かケルベロスの時のように目の前の時間が止まって見える。死と直面している証拠だ。
流石魔物。さっきのフロウとは比べ物にならない、威圧、殺気、そして猫―とらっぷ。
ルナは着々とスターキャットに近づいて行っている。とても楽しそうで、軽快なステップだ。
何だ? ‥‥‥今から、
では、鎌鼬というのはどうだろうか。否。鎌鼬を素手で発生させるには、大きな隙を見せなきゃならない。大きく腕を動かしている隙に、スターゲイザーで、ボンッ、だ。
お? 今ひらめいたぞ。
使い魔契約というのはどうだろうか。
『駄目だな』
そう言ったのは、俺が豚小屋もどきに閉じ込められた時、のんきに寝ていた魔導書ではないか。
そして今の言葉。聞き逃すわけがない。
(どして?)
『使い魔契約、基眷属化は、相手を徹底的に傷つけて、こっちの方が格上だという事を、知らしめないといけないんだ。今の事から、マスター、そしてそこの小娘が、そこの子猫を眷属にすることはできない。分かったか』
(ん)
ん。と言ったが納得できるわけがない。
使い魔契約、基眷属化の決行をそのまま進めることにしよう。
ならどう傷つけるか。いきなり傷つけたら、ルナに誤解されて絶交よなんて言われるかもしれない。そんなの真っ平御免だ。
ちょっと思いついてしまった。
俺はフィーナが使っているところを見たことがある魔法。結界だ。フィーナのは高度な魔法らしく、危険度Sのキマイラの動き、魔法、息の根まで止めてしまった。
結界はいろいろな種類があり、動きを止めるのから、魔法を使わせなくするのもある。そして、息の根‥‥‥いや、生物としての行動を止める結界もあるそうだ。魔法とは怖いものだな。‥‥‥と言っても、フィーナが息の根を止める結界を使ったのは全部嘘だが。
俺は魔法が使えない、と言ってもルナの力は借りられないだろう。
だとしたら‥‥‥今力を借りることが出来るのは、俺の魔導書。カルネージャ・グワールだけだ。
よし頼もう。
(なぁ)
『了解マスター。ちょっと魔法使うから、右手に力を籠めてくれ』
俺はカルネに言われた通りに右手に力を籠める。よく考えると、握力5トンの力に耐える俺の右手って、怪物なんじゃないか? ‥‥‥と、今更な考えを頭に巡らせるが、すぐに集中しなおす。
やはり集中していると、森時代の血に汚れていた自分を思い出してしまう。
人殺しはしたことないが、悪魔殺しは‥‥‥と関係ない事だ。
右手に力を籠めていると、体内から一気に吐き気と膨大な魔力が俺の体を襲いにかかった。
すると、右手の甲から肩まで伸びている刻印が光りだした。
その刻印は、竜のようで、男の俺から見ると滅茶苦茶カッコいい。
俺が何かやっていることに気付いたスターキャットは一度警戒はするが、何故かすぐにやめてしまった。
理由はただ一つ。俺に恐怖しているのだろう。見せかけの愛らしさがボロボロだ。
体内からあふれ出てくる力に俺が溺れることに躊躇したのかカルネは心配の声を掛けて来る‥‥‥が、それはすぐに無駄となった。
何年鍛えてきたと思ってんだ。すぐにその力を自身の物にした。
『ははは‥‥‥流石にマスター、気持ち悪いぞ』
(うるせ)
自身の物にしたと言っても、もともとも魔法適正率の低さで扱うのはカルネに任せるしかなかった。
右手がどっと重くなったが、そこまで気にするものじゃなかった。感覚で言うと、たぶん腕の重さはtはあるぞ。
でも、まだまだ力が入って来るので、重さは上昇し続ける。
この重さで人殴ったら、骨も残らないんじゃないか? ‥‥‥と思うほど重い。
そしてどんどん力が入って来ると、刻印の光が手の甲だけに納まっていった。
その代償で、体中にさっきの腕の重さがかかった。
少しだけ辛い思いをしているテスタを他所に、ルナは猫に着々と近づく。
でも、スターキャットの顔の異変に気付いたのか、もっとゆっくり歩む。
「大丈夫だよぉ、怖くないからねぇ」
「にゃ‥‥‥ひっ‥‥‥にゃ‥‥‥‥ぁ」
そして、スターキャットの死も着々と近づいているのであった。
俺は、その重しから解放されてきた歓喜を心に押し込み、少し出てきた怒りをカルネにぶつける。
(おい‥‥‥‥気持ち悪いとは何だ)
『マスター怒るとこそこじゃないと思うんだが‥‥‥』
(まあいい。で、どうすればいいんだ)
『ああ、今からちょっとマスターの大脳皮質いじるぞー』
(‥‥‥‥あ?)
その言葉の意味が分からなかった俺を他所に、先ほどの重みが嘘になってしまうような痛みに襲われた。
その痛みは頭限定だが、先ほどとは比べ物にならないくらい痛い。
何をする‥‥‥‥と言いたかったが、頭が痛すぎて口がうまく動いてくれなかった。
でも、これも必要なのだろうとカルネを信じ、痛みにこらえ続けた。
そして、頭にある呪文のようなものが浮かび上がって来た。
その呪文を今すぐ唱えろと、一生で味わえないほどの強烈な命令が脳から下された。
その後、カルネは全然返事をしなくなってしまった。
俺も良く分からなかったのだが、唱えろとうるさいので命令に従った。
その後の記憶は全くと言っていいほどなかった。
「我が身に宿りし、光の欠片、其れは我が唯一の命の煌きなり
森羅万象、幾億の命、幾億の運命、幾億に広がるは無限の宇宙
全てを統べる鍵にして、扉を開く者、そこに在るは光にして闇なり
大地を照らすは太陽、闇夜を灯すは月
大地を耕し、土を生み出すは紅蓮の炎、命を育むは聖玲なる水、天にとどろくは雷
命の産みの親にして、生ける者の母、其れは慈愛に満ちたる穢れなき優しさに満ちる光の海
海底に響き、奏でる優しき音色、黄金の鈴を鳴らせ
大いなる蒼き空、全てを覆いて、竪琴を奏でん
時は止まらない、止めることを許さない、過ぎ行くは光の矢
無限に続く終わりなき螺旋階段、永久に続く光を遮る深淵の闇
時に束縛されし、硝子の檻に閉ざされる砂、其れは終えては還る
迷宮に在る真実の道は一つにして、二つは在らず、行き着くはただ一つの扉
其れは全ての生まれる場所にして、還る場所
我は許されなき存在、滅びの歌を紡がん
この魔法は、禁呪と言う。
自分自身を闇に葬り去る呪文だとは、カルネ以外誰も知らない。
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