第17話 猫―トラップ
俺は、煙が晴れたその時、フロウの顔を見てそう言った。
こんな魔法、ケルベロスの
俺が姿を現したとき、フロウは負けを悟ったのだろう、その場に倒れてしまった。
原因は魔力が尽きたことだろう。
観客席にいる人は、驚いている者から笑っている者がいる。喜怒哀楽が素晴らしい事で、怒っている者もいる。
「これは。勝ちで良いのかな」
俺はそう独り言を放ち、後ろにある道に戻っていった。
先程は誰もいなかったはずが、ある男が立っていた。
その男の名は、クラウド。さっき勝手に消えて言ったやつだ。
だが俺も体中が痛いので、無視をして去っていこうと思った。が、うまくいかない。
「おい待て」
たぶん面倒事を押し付けられるのだろう。
今俺は疲れているんだ。
そのまま無視して去ろうとした。
「待てと言っている」
そうして傷だらけの右手をつかまれた。
「いった」
右手をつかまれ鈍い音が鳴る。骨がさっきの魔法でひびが入ったのに対し追い打ちをかけたわけだ。
要するに、右手の骨が砕けた。
それに気づいていないのか、もっと力を入れて来る。
「骨折れた」
「は? まあいい。確かめたいことがある。ちょっと来い」
「お、おい」
そう言って引っ張られていった。
こいつの性格は、じこちゅうってやつだな。良く分かる。
俺が足にも痛みを感じていることに気付かず、知らない場所に連れてかれた。
クラウドに連れてかれた場所は、一つの部屋のようでもあり、豚小屋にも見えた。
別に豚小屋の事を悪く言っているわけではない。豚小屋に見えるだけだ。
クラウドは、そこに俺を投げ捨てるなり叫んだ。
「お前の部屋はここだ。あと、5日後、決闘だ。午後には決闘場に来てろよ」
そう言って豚小屋もどきの扉を閉めた。
鍵なんてぶっ壊せばいいのだが、一応学校の物なのでやめた。
クラウドの背中はどんどん遠くに行き、やがて姿を消した。
俺はもう喋る気力など残っていないので、束になている藁に腰を下ろした。
クラウドの言葉からすると、決闘する理由は気に入らなかったことがあるのだろう。でも、それはもう五分五分だろ。だって、死に賭けの俺を豚小屋に捨てるんだぜ。まともな人間のすることじゃねえな。
『スピ―…スピ―…ムニュムニュ』
カルネが寝ているという事で、完全に喋り相手がいなくなってしまった。
正直意識を失うという行動をしたことない。魔物の巣窟で生きてきた俺は、体が強化され過ぎている。
普通に豚なら、握りしめるだけで無残な姿になってしまう。それがネズミだったら………考えるのも嫌になる。
その力を制御できなくなってしまった俺は………。
魔力が無いし、知識もない。なのに魔導学園で決闘? ……クラウドから見たら、それは見ているだけでうざいのかもしれない。
あーあ。また、気を失えなかった。
自己治癒能力って言うのかな? ……それが発達している俺は、骨折とか数分で治る。治らないのは、体に開いた穴とかだ。
「あのぉ……大丈夫……? だよね」
俺は完全復活した自分の体を起こし、豚小屋もどきの扉に近づく。
外に出られることはできたが、したら退学とかかな。
俺はその人の姿が見えない。何故だろう……その人の気配だけでなぜか涙が出て来る……。
「ちょっと開けてくれないかな?」
「あ、うん」
そう言って閉ざされていた豚小屋もどきの扉が開いた。
そこには予想通りの人がいた。ルナだ。その俺を包み込んでくれるような気配は、ずっと昔にあった気が………する?
いやそんなことないか。
「ありがとう……」
「……いや、気にしないで」
そこは無音の空間と化してしまった。
何故ルナがここにいるのだろう………何故俺はここにいるのだろう。何故? 何故? が重なって、もっと大きい何故? が作り出される。
それを吐き出すには……話しかけるしかない。
「どうしてここにいるの?」
「………え? ああ、あの先輩いるですよね……あの先輩がは、気に入らないことがあると、人を殴ったり魔法でいじめたりする人で……テスタ君大丈夫かなーって。」
「・・・・・・ふ、ふーん。そうなんだ!」
実際ルナの話自体は耳に入っていない。
入って来たのは、「テスタ君大丈夫かなーって」……ここのみ。心配されるという事はまだ友達になれるという望みが残っている。
でも、今俺とルナ友達だよな、とか言っても無駄だろうから、やっぱり友達だと思える出来事がないと駄目だ。
そんな時、運がいいのか悪いのか分からない出来事が起きる。
「あ、あれなんだ?」
「ん?」
そう言って、俺らが見た方向には、俺にとってはすごく見覚えがあるものが見えた。
それはモンスターなのだが、運が悪かったのか、それはスターキャットと言われるモンスターで、危険度はたぶんAぐらい。
大きさは普通の猫だ。特別なのは、ある魔法を使う事だ。
魔法の名は、スターゲイザー。
星を落とすという驚異の魔法なのだ。
それを知らないのかルナは普通の猫を見るように近づいて行ってしまう。
でも、それは普通の人間が近づいたら即死レベルのモンスターだ。見分ける方法は、額にある星マークだ。
………討伐、という方法もあるのだが、どちらかと言えば捕獲したほうが早い。
捕獲する方法は簡単で、人間の肉が大好きなので、人間を………
「危ない!」
俺は咄嗟に動いていた。
助けなくちゃ……という気持ちを胸に秘めて。
たぶんスターキャットとルナの距離は、飛び込めば届くというぐらいだ。要するに、猫の方が食いに行ける距離だ。
だが、俺をなめない方がいい。
あの距離なら、猫が飛び込むより俺がルナを助ける方が早い。
俺はグッと足に力を籠める。それを一気に開放して、地を蹴った。
そのスピードは音速の如く、1秒足らずで20メートルを走りぬいた。二本の腕の中にはルナの体が………そして、二つの手には納まりきらなルナの胸が……。
だが感動に浸っている場合じゃない。危険度Aをここに野放しにしたら、即全壊だ。
俺はそっと「大丈夫?」と声を掛ける。俺の真剣な表情で緊急事態だと気付いたのか静かにうなずく。
だが揉む。その手の中に納まりきらない大きな胸を揉みしだく。
「あぁ~ん。ちょ……すみませんでしたぁ~」
「うん? おお悪い」
そう言って地面にルナをそっと下す。
そしてスターキャットの方を大きく睨んだ。獲物を取られたと思い込んでいるのか、猫の方も俺を睨んでいた。
でも相手はしょせんネコ型の魔物。ケルベロスとは比べ物にならない。
ならいっそここでケルベロスを召喚するか? いや、もっと駄目なことになりそう。
それじゃ、俺がやっぱり狩るしかない。
「あの猫……可愛い」
「あれは……魔物だよ」
「………え?」
ルナはすごく驚嘆しているようだ。
いや、あんなにかわいい猫が……と思って俺が森で近づいた時、そこら辺の木を全て灰にしやがった。
やっぱりこいつは許すマジ。
いや………でもルナがいる限り倒しずら過ぎる。
「あれを倒していい?」
「………え? 駄目です駄目ですかわいそうです」
うなことわかっているんだよ。
でも倒さないとこの学校がそのまま灰となってしまう。それは嫌だろう………だが、それを言ってしまうと、ルナを追い詰めることになってしまうかもしれない。
倒さないといけない。でも倒すのかわいそう。そう考えた瞬間もう魔物から逃げてしまうことになる。
それは、この学校にいる意味が無くなってしまうのだ。だから言えるはずがない。
そんな事をしていると、猫が先に仕掛けてきた。
「にゃぁ~」
そう言って体を肉球で掻く。
それは大変心が洗われる気になってしまう。あれは、はにーとらっぷ、みたいなやつなのだ。
いわいるねこーとらっぷというやつなのだ。どうだ、うまいだろう。
よし、ならこっちだって人間とらっぷを仕掛けてやろう。
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