第16話 専門分野

 ここでたぶん初、テスタの強さが出ると思います

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「綺麗事言ってんじゃねえぞ。お前の事を一度も友達だとは思ったことなどない!」


 フロウはその言葉とともに、振り上げていた手に粒子を集めだす。

 先ほどの粒子よりも、赫々としていて綺麗だ。


「もう終わりだ」


 その言葉とともに、風が強くなってきた。

 俺はその風に足を持っていかれないように、しっかりと重心を保つ。

 粒子は、先ほどのファイアボールみたいに球型ではないし、エンチャント・ファイアみたいに、手に炎がまとわれているわけではない。

 では何か。風だ。とても熱い風が巻き起こっている。

 粒子はこの空間に充満し、熱気を高めている。

 そして、フロウは右手を前に出した。


「ファイアストーム!」


 そう言い放った途端、風は暴風と化し、真っ赤に燃ゆる火炎のような熱さになった。

 しかも風の威力は鎌鼬の如く、俺の皮膚を傷つける。

 しかもその小さな傷からこの熱さが入り込み、体内が焼けるような痛みが走る。

 しかもフロウの猛攻は止まらない。

 連続でファイアボールを放ってきている。

 暴風が巻き起こっているのにファイアボールはまっすぐと俺に向かってくる。


「うぐぅっ………」


 溝に入った。

 胃の中から何かが出てくる気がして瞬時に口を押える。

 体内からじわじわとくる痛みと、外からくる衝撃に挟まれて腰を下げてしまった。


「ちっ……まだ、気を保ててんのか………」


 俺はもう一回立ち上がり、フロウを見る。

 流石に動かないと死にそうなので、後ろに少し動く。


「あのさ……そろそろ負けろよ。ソード」


 そう言った途端、フロウの右手に赤くない粒子が集まり始めた。

 その色は、白。青がかった白だった。


『ちょっとまずいぜマスター』


 俺が焦りを見せてると、心の中のカルネが忠告してきた。


(何がだ?)

『あれは武器生成。魔法で生成する……絶対に壊れない剣だ』

(嘘だろ)


 フロウをじっと見ていると、カルネが言った通り剣が生成された。

 そのまま魔導書を制服の中に入れて、両手で生成された剣を持つ。

 刀身は先ほどの白が全くなく、青々としていた。

 俺でも何でできているか分かった。魔石……それに、変異石だ。


※変異石……魔石、それに鉄、アドマンタイトも含めた全ての石が突然変異した物。

      本来の物より、硬さ、重さが全然違い、色が全然違う


「そろそろ終わりだ!」

 

 正直斬られたら怪我じゃ済まなくなる。

 しかし動かないと決めた。

 相手は変異魔石で作られた剣。

 勝ち目がない……馬鹿にするな。


 自分の力を強いとは思わんが、少なくとも魔獣ケルベロスを倒した。

 人間が扱う剣を、止められなくてどうする。

 フロウの構えは上段の構え。上から切り落とすときの構えだ。

 しかも上の制服を脱いでおり、体を動かしやすい運動着に服装が変わっている。

 そのままフロウは走りだした。

 その動きは素人同然。俺が動ければ即カウンター可能だ。

 いや、カウンターも必要ない。剣より先に顔を殴ればいい。

 でも動かないと約束したかぎり、俺がするのは剣を止めること。


「はぁああああああ!」


 そして剣を振り上げた。

 このまま振り下ろしたら、脳に傷はつくだろう。

 このまま俺が止めなかったら、人殺しになるのに気付いていないのだろうか。


 だけど、ケルベロスの時みたいに時間が止まったようには見えない。

 何故か、これは死ぬほどのピンチじゃない。ダメージを食らうほどのピンチじゃないからだ。


 剣は頭との距離30センチまで迫ってきていた。

 

(そろそろかな)


 今は俺が剣に当たったぐらいの時だろう。

 でもそうはうまくいかない。


「な……な…」


 剣は俺の頭上で止まっていた。

 止めていたのは、俺の右手、人差し指と親指だ。

 そこまで力を入れなくても止められる剣の威力。正直言って、先ほどの魔法の方が強かった。

 切り札だったようだが、物理攻撃は俺の専門だ。


 フロウは剣を引こうとするが、それは現実にはならなかった。

 俺の指から剣が離れないようだ。

 流石に驚いているようだ。


「どうやって、剣を………」

「言っとくけど、物理攻撃は俺のだ」


 俺は、そう言い放った後、剣をはじいた。

 はじいたと言っても、指をちょっと押しただけだ。

 その勢いとともに、フロウは剣ごと後方に吹っ飛んだ。

 そのまま地面を転がっていった。


『おいおい壊れないって言ったばっかだろマスター。壊すなよ』


 俺はそうカルネが言って来たので、フロウが持っている剣を見る。

 カルネの言う通り、剣先が砕かれている。


 何秒か経った後、フロウはゆっくりと体を起こした。


「大丈夫?」


 そう俺が声を掛けると、フロウが鋭く睨んでくる。


「てめぇ、どんなイカサマをした」


 イカサマというのが何か分からないが、俺は何もしていない。ただ、剣を止めてはじいただけだ。

 そしてフロウはとても怒っている。


「イカサマってやつはたぶんしてないよ」

「嘘だ! お前は魔法適正率2%の筈だ! それに、この剣を砕けるはずがない!」

「いや………でも、現に砕けているわけだし……」

「うるさい!」


(てか、何で俺が2%って知ってんだ?)


 いや、分かった。クラウドだ。


 それに、嘘をついていないのに嘘つき呼ばわりされると不愉快だ。

 でも動けない。

 攻撃を待って、さっきみたいに………いや、傷付けないと決めたんだ。やめる。

 フロウはふらついている足で立って、近くに落ちている制服から魔導書を取り出した。

 そしてまた独りでにページがめくられていく。

 そして、一番最後のページで止まった。


「絶対に勝つ! 我が盟約に従い、炎の精霊よ、集え、猛る灼熱の炎よ、全てを焼き尽くし、喰らいつくせ! 爆裂炎エンプレスフレア!」


 そう唱えた瞬間、大きな爆発音が聞こえる。

 その爆発音の正体は、フロウのフィンガースナップ(指パッチン)だった。

 その鳴らした指から、大量の炎が巻き起こっていた。

 その炎は一瞬でこの決闘場を包み込んだ。


「もう一回指を鳴らしたら、この大量の炎がお前を襲う」


 流石に、炎の量が異常になってきて、汗だけで傷が染みて痛い。

 しかもさっきのファイアストームの熱風で、炎の量が増している。

 それに、炎のせいでガスが出て滅茶苦茶煙臭い。

 正直無呼吸でいないと煙を吸って死ぬ。


「最後に言っておくけど、フロウは俺のこと友達だと思っていないのね」

「あたりまえだ!」

「そっか」


 観客席には、さっきの爆発音に反応してきた人で溢れかえっている。

 その中には、ルナやウィル、フロウの親友のジェイドもいた。それにエルもフィーナも学園長もいる。

 ほとんどの人が、フロウの近くに落ちている砕けた剣に注目している。

 でも、先程名前を出した6人だけは俺らの戦いを見ていた。


 そしてフロウは宣言通り指を鳴らした。

 先ほどの爆発音よりも大きい爆発音を鳴らした。

 その音と同時に、炎が奇妙な動きをし始めた。


「終われ」


 その声とともに、決闘場の全炎がけたたましい音を上げて俺を包囲した。

 下以外の全方向は真っ赤に燃える炎だった。

 フロウがどんな表情をしてこれを見ているか分からないが、勝ち誇っているのだろう。

 

「それでこそ友達だと思うんだ」


 俺はそう言い放ち、炎が襲ってくるのを待った。

 そのあとすぐに襲って来た。

 近づいてくるだけで、熱さは何倍にも膨れ上がった。


 ドォオオオオオオオオオオオオオオ


 テスタは外から見たら爆発に巻き込まれた。

 その爆発は、人間では耐えきれるはずがない威力を誇っていた。

 その場にいた誰もが死んだ……負けたと思った。

 でもその場にいた、二人だけはそう思わなかった。テスタの実力を知っている二人、フィーナと学園長。その二人だけは、死んでいないと思った。


「く、そが……手間取らせやがって……」


 フロウは魔力が尽きかけていて、すぐにでも倒れそうだった。

 でもテスタがそんな苦労を知るはずがない。

 煙が少し晴れてきたころ、その場にいた全員が驚嘆した。


「360度からの炎でも、全部食らってしまえばただの傷………簡単に俺が死ぬなんて、思わない方がいいぜ!」


 煙が晴れた時そこにいたのは、傷だらけのテスタだった。


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