第15話 決闘スタート
正直言ってフロウが言ったその言葉に俺は困惑していた。
理解はするが、納得はしない。俺は馬鹿で世間知らずかもしれんが、今の言葉の意味は分かる。
要するに、殺すと言っているんだ。
フロウに殺されるようなことをしただろうか。
殺したいと思うまでひどい事をしただろうか。
俺にはそう言うのが分からない。もしかしたらあったのかもしれない。
だとしたら、その怒りや憎しみを受けないといけないんじゃないのだろうか。
正直言って死ぬのは怖い。
でも、これ以上友達を失うわけにはいかない。
それでも一応何故か聞いておこう。
「何で?」
「何で………嫌いだからだ………お前がな!」
この国の住民は、嫌いになったら人を殺すのだろうか。
俺はちょっとだけ腰が引いてしまった。
「それじゃあ、そこに行けばいいんだね?」
「ああ、そうだ。逃げんなよ!」
そう言ってフロウは俺の目の前を通り過ぎて行った。
俺はフロウの方を見ずに、またどこかに行こうと歩き出した。
たぶん俺はフロウに何かをしたのだろう。
そう思い、その決闘をするであろう約束の場所に向かっていた。
遅れたらまた怒らせてしまうと思ったからだ。友達に恐怖を感じている自分を許せなかった。
だが今は、静かにしているのが鮮明な判断だろう。
先ほどの廊下にあった、学園内案内板を見ると、その場所は、ここの階段を下りればすぐらしい。
確かにフロウもこっちから来たのだから、そこにいたのだろう。
俺は、無人の階段を小さな足音で降りて行った。
先程から、ため息ばっかりついていた。何故かと言われても、答えられない。無意識という奴だろう。
そうしたら、前から大量の足音が聞こえてくる。
どこのだれかは知らないが、とても隠れたくなってしまった。この情けない姿を誰にもいられたくないという、情けない理由だ。
でもここは階段の踊り場。隠れられるとこなんてどこにもない。
すると、俺に又もや災難が降りかかる。
そこにいるのはルナとウィル。それに他の人が俺を見て、笑ってくる。
俺は分かった。馬鹿にされていると。
何故か、思い当たるものと言えば、魔法適正率かみじめな姿か。それともどちらも当てはまるか。
そしてルナと目が合う。俺は誤魔化すように、目と眉毛の間を見た。
でもそんな事をしても無駄だった。すぐにルナは俺から目を離し、ウィルの方に向いた。
俺はそれでいいと思った。
そのまま目を合わせずに、階段を下りて行った。
階段を下りる音がピタッと止まったのは、俺が階段を下りて、ルナたちも教室に戻ったのだろう。
近くにあった時計を見ると、お昼に近くなってきている。
そこまで腹が減っていない俺は、決闘場に向かった。
決闘上と呼ばれている場所は、上に教室の様な椅子が並べられている観客席に、サラサラの砂が敷いてある地面だった。
転んで皮膚に当たっても、傷は少しぐらいしかつかないだろう。たぶん戦いで決着をつけてほしいという、学園側の配慮かな。
人は観客席にはちょこちょこいるが、バトル場には………一人立っている。
その名はフロウ。今から俺が決闘する相手だ。
俺が来た道以外にここまでくる道は無かったように見えたのだが、間違いだったようだ。
フロウの目は、男らしいものではなく少し弱さが見える目だ。
フロウの手には、魔導書がある。
この学園の生徒は一人一人魔導書を持っているらしい。
「早いな………」
「………まぁね」
もう喋ることはない。
フロウは魔導書を握り、何も持っていない右手を前に出す。
周りの観客席にいた奴らは、いろいろと叫びだしうるさい。
戦闘注意叫んでいい訳が無い。だから、こいつらは実戦に慣れていないのだろう。
どんなに強くても、俺と一緒の初心者。弱い。
フロウは戦いを始めるために構えている。だが、俺は構えない。
「何をしている。早く構えろ」
「………」
「……何をしている………」
「………」
「構えろ!」
どんなに強く叫んでも、俺の心には響かない。
何故か、友を傷つける意味はない。綺麗ごとに聞こえるだろうが、友を傷つけることは出来ない。
フロウは俺の事を友達とは思ってないだろう。だが俺は思っている。
どんなに友達が出来なくても、こっちが友達だと思っていれば、やがて友達になれるはずだ。
それを信じて、攻撃しない。
フロウはイライラが溜まってきているようだ。舐められていると勘違いすることは、しょうがない。
「こい」
「なめてんじゃねーぞ!」
フロウは、右足を蹴って走りだした。
魔導書を前に出し。何かを唱えだした。口元が動いているだけで聞き取れない。
右手の方は、腰より後ろに据える。
そしたら、魔導書が独りでに開きだし、真ん中らへんで止まった。
「ファイアボール」
そう言って右手を前に出した。
その右手の掌に赤い粒子が集まりだす。
フロウと俺の距離は約3.5メートル。殴るには遠く、攻撃手段はあれしかない。
魔法だ。
ファイアボールから察するに、球型の炎だろう。
この魔法は、やけどでは済まない威力だ。
だが避けない。
「行け!」
粒子が集まり出来た炎球は、勢い良くこちらに向かって来た。
このまま動かなければ、胸に直撃する。
勿論動く気はない。
そのまま直撃し、胸の外からはその衝撃、内側からは熱さがじわじわ襲ってくる。
「な………」
俺が動かなかったのに対して驚いたのだろう。
そして、俺がずっとフロウの事を見てる事に対し違和感を感じたのだろう。
そして周りの観客も驚いている。この空間はまさに、森のように静かだ。
「なぜ避けない」
「………何故……さあね」
「……ちっ」
「………」
俺が攻撃しないことで静かになった決闘場から去っていく人が増えてきた。
つまらないのだろう。それは俺自身も理解できる。
「なめてんじゃねーぞ! エンチャント・ファイア」
さっきの様に右手を腰の後ろに据える。
今度はその状態で赤い粒子を集めだした。
そしてそのまま走りだした。
俺が動かないことに気付いたのか、少しスピードを落としたようだが、そのまま止まらず向かってくる。
右手はやがて真っ赤な炎に包まれて、前に突き出した。
その突き出した右手は、俺の腹に直撃し、えぐられる様な痛みが走る。
「ぐぅっ………」
「クソがぁああああ」
そのまま右手を引き、瞬時にファイアボールを放ってきた。
さっきのファイアボールより威力が上がっており、近距離で撃たれたため衝撃も多くなっている。
足がすこしぶらついたが、すぐに体勢を立て直した。
だが、口から血を吐いてしまい、足元が真っ赤に染まった。
「ぷっ………」
「うぐっ………」
俺は口の中にあった血塊を吐き出した俺を見ていたフロウは、吐き気がしたのだろうか口を押さえる。
対人戦はやったことはないが、吐くほどの物ではないはずだ。
フロウは戦闘に慣れていないのではなく、血に慣れていないのだ。
フロウは吐き気が収まったのか、口から右手を離す。
「慣れてないないなら―――」
「黙れ! どんなに慣れていなくてもなぁ……やらなくちゃいけない時はあるんだよ!」
その言葉と同時に、フロウは後方に下がり右手を上にあげる。
魔導書はまた独りでに動き出し、終わりの方で止まる。
「お前は何故攻撃しない」
「何故………じゃあ何故フロウは攻撃する」
その言葉を聞くと、一瞬戸惑うのが見て分かった。
だがそれも一時の事、すぐに次に移る。
「質問を質問で返すな! 先に答えるのはそっちだ!」
「そっか………なら言わせてもらうよ。俺は友達を傷つけない!」
その言葉を聞いたフロウは、気に入らなかったのか顔を顰めた。
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