第13話 再会
俺は廊下をおぼつかないようすで歩いていた。
先程、魔導書カルネージャ・グワールの心内図書館で、その魔導書と契約をした。
手の甲に、魔法陣を発動させて、そこに全魔力を入れるらしい。フィーナの時は、唇を重ねるだけでよかったんだけどな。危険な魔導書と呼ばれるだけあって、魔力の量が馬鹿にならなく、一気に体に入り込んできた魔力に、酔ってしまった。
だから足元がおぼつかない。
てかここがどこか分からねえ。
ずっとまっすぐ歩いてる時点で、一直線の廊下なのだろう。長すぎて迷わないのだろうか。
フィーナにも謝らないといけないわけだしな。
くらくらしている頭を叩いて、正常の状態にちょっとだけ戻した。
前をまっすぐ見ることが出来るようになった俺は、色んな人に声を掛けて、新任先生がいるであろう、研修室という場所に向かっていた。
さっきは喋りかけようとしても避けられた俺だが、今回は避けられなくてちょっとだけホッとした。
そして今は、心の中で会話をしている途中だった。
『なあカルネ。お前は友達とかいるか?』
『オレにか? そうだな~。やっぱりオレは友達とか言うのは作らねえ主義だな。魔導書は契約者に忠誠を誓い、そして戦う。ただの道具だ。』
俺はその言葉を理解しない。もちろん無為にではなく、わざとだ。
言葉としては理解をするが、それに納得するつもりはない。
どんなにそれが道具としてしか扱われなくとも、俺はしっかりと友達、仲間として扱う。
それが俺のしゅぎだ。
俺はそういう考えを持つ奴と友達にはならない。そんな考えは持たない。一生な。
全部平等何てうまくいくはずがない。それでも俺は成し遂げる。やっぱり生きる意味は多く持つ者こそが、生きていけるんだと思うんだ。俺的にはな。
『俺はお前を見捨てねぇ。それだけはしっかりと心に刻んどけ』
『ははっ。いいぜ。見捨てるか見捨てねえかはオレが決めることじゃねえしな』
その答えはとてもすがすがしいものだった。
この適当で答えを言わない返事を、俺は最高にすがすがしく思ってしまった。
俺に決める権利がある世界なんて、そんなもんはねえ筈だからな。この答えは要するに、どうでもいいってことだ。
俺にはそう聞こえてしまった。
ずっとまっすぐ歩いていると、見覚えのある文字が書いてある部屋があった。
プログレム
俺が目指していた部屋はここではないのだが、最終的にはここに着いとけばいいんだと、すぐに理解した。最近は文字を読めるようになってきていた。森にいたころは、無駄なものは覚えず、必要な物ばっか覚えてたし、最近読めるようになったのはしょうがない事だった。
俺がドアに手を掛けようとすると、自分の手が震えているのが分かった。
未知なる物は怖い。人間がそう思うのは普通だろう。
この中にどんな奴がいるのか、友達には……まあその辺りはいいとして、やっぱり俺は弱いから、仲間外れにされるかもしれない。
俺はちょっとだけ触れたドアから、勢い良く手を離した。離しても、手の震えは止まらなかった。
そこからずっと、その部屋に入ろうとする気持ちは生まれなかった。
『おいマスター。入らないのか?』
『まぁな』
『マスターはそれでいいのか?』
『まぁな』
ここに着いてからどれくらいたっただろうか。
ひょっとしたら一時間は経っているかもしれない。
手の震えは収まってきたが、足を前に踏み出すことはできなかった。
もしかしたらフィーナがこの中で待っているかもしれん。そう考えると、今すぐに入らないといけない。そう思える。
俺は引っかかっていた重りを解いて、前に踏み出すことにした。
震えだしていた足を無理矢理止めて、震えている手でドアに手を掛けた。
俺はそのままゆっくりと開けることにした。
そっと、そっと、俺には似合わないだろう慎重さで、覗き込むようにして、ドアを開けた。
ちょっとずつ開いていくドアの中をのぞくと、そこは静かな空間で、真っ黒、とはいえない、緑がかった板の前で、フィーナは座り込んで寝ていた。
俺はそっと足を踏み込むと、フィーナ以外は誰もいなく、俺の一時間を返せって言いたくなった。
「ふぅ。良かったぁ」
俺は一回上を向いて、元に戻した。
天井には、大きく描かれた聖母の絵が描いてあった。何故だろうと思ったが、そこまで気にするものではなかった。
窓は大きく、国を見渡せる高さではないが、学校内を見渡せる窓だった。俺は静かに走っていき、窓の外を見た。
「すげぇ」
それは吸い込まれるような神秘さがある、植物が植えられている場所だった。
もうちょっと遠くを見ると、人がたくさんいる場所になるのだが、真下は緑が光る庭園。
俺は窓に顔をくっつけ、それを見た。
森も意外と神秘的だったのだが、日の光があまり当たらず、ここまで神々しく光ることはなかった。
しかも俺がいる建物のせいで、ちょっとだけが影になっている部分があった。それがまた綺麗だった。
何故誰もいないのだろうと思い全体を見渡すと、遠くに人間ではない生物がいた。
よーく見るとそれは、誰もが知っている魔物だった。
リザードマンが二体、誰かの使い魔で、この庭園を守るように命じられているのだろう。
流石に魔物に近づくのは遠慮したいから、誰もいないんだとすぐに理解できた。
せっかくこんなに綺麗なのに、勿体ないな。
俺はその庭園から目を離すと、後ろにあった階段状になっている机といすが目に入った。俺は無為に椅子に座ると、ちょっとだけ感動した。
やっぱり未知な事は楽しい部分もある。初見というのは一生で一回しか味わえない最高の楽しみなのだ。
フィーナはゆっくりと顔を上げ、俺と目が合うとさっきの静けさが嘘に見えてしまうぐらいの声を上げた。
「テスタ!」
そして俺に向かって走って来た。
その笑顔を見て俺は安心できた。生きていると実感することが出来た。
俺は近づいてくるフィーナの目をずっと見ていた。目を離すと、またどこかに行ってしまう気がしたから。
「ただいま。それより何でここには誰もいないの?」
「ああそれはね。まだここには生徒がいないのよ。テスタ以外にね」
フィーナの話によると、ここに転校してくる二人がいて、それは約一週間後何だとか。
本当にさっきの時間を返してほしい。
その後は、フィーナといろんな話をした。
魔法とは何だとか。属性とは何だとか。精霊術とは何だとか。全く理解できず、聞き流した。
でも、精霊術は俺でもできる気がした。精霊術は大雑把に言うと、魔力を炎とかに変えないで、そのまま攻撃に使う術なんだとか。
要するに、魔力をそのまま攻撃に使う術だ。
でもそれは普通の魔法を使うより難しいらしい。
まずその術は、エルフしか使えない術で、特別な魔術回路が無いと使えないらしい。
その特別な魔術回路は、エルフしか持っていないらしく、エルフでもそれが使えるのは一人だけらしい。
その子が今度この教室に転校してくるそうだ。
もう一人は、ドラランク王国だいいちおうじょ? らしい。
その子がここに転校してくる理由は、順に追って説明しよう。
まずは属性について。属性とは、その人が使える魔法の大まかな種類の事らしい。七つあり、一人一人に一つ、二つ、三つぐらいあるらしい。
でも今度転校してくる子は、七つ全部の属性が使える子だそうだ。
ついでに魔法適正率は、驚異の1200前後らしい。俺の2とは比べ物にならない。
これもついでにだが、エルフの子は、800前後らしい。これも凄いったらありゃしない。
「それよりさフィーナ。ちょいと質問良いかな?」
「何?」
「女の人ってさ、胸見られんの嫌なの?」
普通に友達の事を聞きたかったが、単刀直入に言うとやっぱり変だから、それに関連することから始めることにした。
だがそれは間違いだったと後で気付くことになる。
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