第12話 カルネは使い魔

「おい、いまなんつった」


 俺は今の言葉を理解することはできなかった。

 蘇生。命の復元。誰もが望まない未来を呼んでしまうだろう危険。

 もしも本当の事ならば、普通に殺されるぞ。この国の事情はよく知らんが俺には分かる、バレたらすぐにでも殺される。

 それぐらい危険な事なんだ。

 でも内心ほっとしている部分もあった。ケルベロスが生きててよかった。その思いを俺は心で吐き出した。

 

「そのままの意味だよ。普通に蘇生した。生命復元アミナスを使ったんだよ。古代禁忌をね」

「古代禁忌?」

「そう、古代禁忌だ。今から3000年前に展開を禁止された魔法だ。蘇生、極限身体強化、即死、この三つが今ある古代禁忌。」


 古代禁忌。

 今まで一回も聞いたことが無い言葉だ。

 俺は魔法は好きだが、詳しくはない。

 これが常識なら知っとかないとだめだな。

 それより、普通に蘇生したってなんだよ。蘇生って命を復活させるんだよ。人間がなせる技じゃない。

 てか今更だがマスターってなんだ。


「で、マスターってなんで呼んでるんだよ。俺の名前は、テ、ス、タ、だ。」


 そう言うと、知ってるぜって感じの顔するし、その質問をされることは分かっていたみたいな顔もされた。

 チョーうぜー。


「マスターはマスターなんだぜ。私って言うのもめんどいからオレって言うな。マスターとは、自分の主に向かって言う呼び名ってもんだ。」

「んぅぅぅん? ちょっと意味が分からん。」


 自分の主って言うのは俺のことか。でも、人間と人間みたいな、同種族での眷属化は不可能だと、俺は知っているのだが。違うのか?

 でも、こう考えれば納得できる。ケルベロスの方がカルネの主で、ケルベロスが俺の眷属になるって感じになれば納得だ。

 だっせー。人間の方が眷属とかだっせー。魔獣を飼いならせよ。てかさっき私のケルベロスとか言ってただろ。あれ嘘なのか。そうなのか。

 俺はカルネを見る目が変わったと思う。たぶん上から目線みたいな感じになっている。


「あ、言っとくが、オレは人間じゃねえぞ。魔導書だ。人間化が出来る唯一の魔導書だ。」

「嘘だろ。それじゃあお前は魔導書で、俺が主だという事か?」

「ああ、ケルベロスともどもよろしく頼むぜ。」

「グォォォォォォォォォォォォ―――――ッ」


 ケルゼロスは、魔獣と飼い犬を混ぜた、気高くも甘える咆哮を放った。そこまで耳がキーンとしないから、さっきよりは優しくなっているのだろう。

 それよりも魔導書ってなんだ。さっきエル先生も持ってた気がするが、なんなんだそれは。

 蘇生が出来るってことは、魔法が使える本って事か。

 それなら俺も魔法を使えるのか。


「それは無理だな」

「まだ何も言ってないんですけど!?」

「マスターとオレは一心同体だぜ。それよりも、それは無理ってもんだ。」

「何でだ?」

「簡単な事だろ。魔術書は持ち主の魔法適正率で、全ての事が決まってしまう。マスターの魔法適正率は2なんだろ。だとしたら魔法はどっちにしろ使えねえな。」

「そんなぁ」


 結局俺は魔法が使えない運命なのかよ。

 まあ昔から俺は何でも壊せば解決すると思ってたし、魔法が向いて無い事なんてすぐにわかったんだけどな。やっぱり魔法使いはあこがれるもんなんだよ。格闘より魔法なんだよ。そっちの方が強いんだよ。


「じゃあ何で俺なんだ? もっと魔法に向いている奴いるだろ。」

「…………面白そうだから?」

「ら? ってなんだよ。」

「まあ勘だ。それよりオレは昔こう呼ばれてたんだぜ。危険な物理的魔導書。一回だけオレを操ろうとした奴がいてな。そいつがオレの事を鈍器として扱ったんだ。マスターもそうすればいいんじゃねえか。」


 たぶん、カルネは冗談交じりでそう言ったんだろう。でも俺は違う。使い方は人それぞれだ。俺も鈍器として使おう。



 カルネも笑っていたから、俺も笑ってやった。その面白い考え、貰ったぜって意味を込めて。

 やっぱり俺は魔法より接近戦だな。格闘だ。今までの経験を水の泡にするのは、やっぱやめにしよう。

 俺は魔法なんかどうでもいい。友達を守れる、接近戦が一番だ。


「面白いだろ。マスターもそう――――」

「その考え貰った!」

「――――え?」

「だーかーら。俺もお前を鈍器として扱うって言ってんだ。カルネも分かってんだろ? 俺が魔法に向いてないって。」

「――――フッ……っはっはっはっはっ! そりゃあおもしれえや。やっぱマスターがマスターで良かったぜ!」


 カルネはたからかと笑った。この広い部屋に、カルネの笑い声が響く。その声は、とても楽しそうで、とても気持ちよさそうで、俺もつられて笑顔を見せてしまった。

 俺とカルネの笑い声が響く中で、ケルベロスも気高くて勇ましい咆哮を放った。

 それはやはり尊敬に値するものだ。自分という存在を誇りに思っているその姿、魔獣でも見惚れてしまう。

 そして俺は、ケルベロスに負けない声で笑った。


「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」



    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 私はまたやってしまった。

 フィーナ・ヨルムンガンドは、またやってしまった。

 私はまっすぐ前を見て、問題児教室、プログレムに向かっていた。ちょっとだけテスタと再会できてよかったと、感動に浸っていたら、またはぐれてしまった。 

 私の前には、この前開設されたばかりの、問題児教室への入り口がある。

 さっき入ったばかりで、入る必要はない。

 授業が無い教室なんて何であるのだろうか。最初は誰もがそう思う。

 この教室には、全属性適合者の女の子と、精霊術の使い手のエルフの女の子が、一週間後に転校してくるそうだ。

 普通の教室では手に負えない強さだそうで、急きょこの教室が開設された。

 

「はぁ、テスタが女の子しかいないところで………って、そんなこと考えてる場合じゃなかった」


 テスタはその二人とは比べ物にならないほど魔法が使えない。なら、何でこの教室に入れられたのだろう。

 ソーナは、この学園長であり、現国王の姪だそうだ。

 この学園は国が運営している。そして、この学園でいい成績を残したものは、城で働くことになる。

 その中でも、その二人は絶対にいい成績を残すことになるだろう。

 そんな中に入れられた理由、そんなの明白だった。モチベーションアップが目的だろう。

 自分より弱いものがいれば、モチベーションが上がると思っているのだろう。

 でもそれは間違っている。

 その話が通用するのは、魔法が強いって言うのを前提にすればの話だ。

 テスタは肉弾戦なら最強だ。

 私の主。テスタ・ディヴァインをなめないでほしいわね。


「それより探しに行かないと」


 そう言って、来た道へと戻っていった。

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