第11話 誰得!?


 俺は、冷たい床を背にして、意識を取り戻す。

 酷いことに、まだ痛みが残っている背中を、その床に苦しめてしまっていた。要するにヒリヒリしてて痛いという事だ。

 目を開けようとしたが、瞼が重い。

 手も足も感覚がマヒしていて動いてくれない。完全に動けなくなってしまった。

 

 


 何も出来なくなってしまった俺は、ゆっくりと記憶をたどっていく。

 たどり着いたのは、ケルベロスに向かって牙を投げた時だった。そこで記憶が止まっているという事は、ケルベロスの消滅を確認する前に俺は意識を失ったという事になる。

 ほんと嫌な事だ。目の前にケルベロスがいる可能性があるのだろう。今すぐにも目を開けたい。

 でもその願いは届かず、目は開いてくれないままだ。

 希望があるとすれば、カルネージャ・グワール、略してカルネがそこにいることだろう。

 カルネは俺に何をさせたかったのだろうか。最初のころ『ねえ、来て』とか言っていたが、俺を殺すために来てほしかったのだろうか。

 未だ謎のままのその疑問は、俺の心にそっとしまった。

 てか喋ればいいじゃん。そう思い、ちょっとだけヒリヒリしている口を開く。


「おーい。誰かー。返事しろー。」


 んー。何も聞こえない。

 てか耳はどうなったのだろうか。本当に良く分からん。今のも誰も答えてないんじゃなくて、俺がただ聞こえなかったのかもしれない。そうだとしたら、今の俺はどうしようもない。

 ちょっとだけ俺は不安が芽生えた。

 その後、ちょっとだけ助けを呼んだりしたが、返答はもちろん来ない。

 


 俺はちょっとだが、動かせるようになった手を、無為に動かす。

 まずは体から。

 腰はちゃんとあるし、下半身のアレもあるし、もちろんぺったんこの胸も。胸などもともと無いが。

 顔もあるし、異常が無かったのだが、どう頑張っても目だけは開かない。指をどう動かしても、開いてはくれない。

 そんな事をしていると、腰にずっしりと重みが加わる。いや、ずっしりというほど重くはない。

 てか、下半身のアレが何者かによって、弄られている。

 ちょっとだけ、変な気分になって来た。

 

「ちょ、俺、なんだこれ、やめ、やめてぇ!」


 男の何かに興味が無いとツッコミを入れられただろう。でもそんな事には気付かない。

 俺は痙攣っぽいものを起こしている足を、無理矢理バタバタさせた。気持ちがいいのか、気持ち悪いのか分からない。


「ほんと! ま、待ってくれ。俺が何をした! あ、あ~ん」


 目が明かないことにここまで苦痛を覚えたことはない。

 朝起きた直後だと、目が明かないことが多々あったが、それほど苦痛ではなかった。

 てか、これはケルベロスの仕業か!? 

 だとしたら軽すぎる。じゃあカルネか? そうだ、カルネだ。それしか考え着かない。

 でも、なんか、アレがぴくぴく動いている気がする。


「お、おい。カルネなんだろ。は、早くやめてぇ~」

「おいおいどうしたマスター。こんなんでくたばっちゃ、男じゃないぜ」


 俺の耳に届いたのは、思った通りカルネの声だった。

 その声を聞いた途端、アレを動かす動きが激しくなってきた。

 てか早くやめろや。

 でもやっぱり願いは届かない。



 カルネはこんなことして楽しいのだろうか。なら、

 このいじり方。真似するのは難しい。

 てか俺裸何だけど、直にアレが触れてるんだけど。さっきカルネは裸だったはずだ。だとしたら同条件。ヤッテやる。



 早速だが壁に当たってしまった。

 目が見えなくて、俺はカルネのアレがどこにあるか分からない。

 クソッ、目が見えないって大変だな。

 

 ケルベロスではないことは分かったが、まだ戦闘は終わっていなかったのだな。

 俺は納得する必要が無いものに納得してしまった。


 


 この戦闘はすぐに終わった。

 俺が、カルネの柔らかくて小さなふくらみの先っちょを、指で押したりつまんだりしたら、俺の勝ちになった。

『ああマスター。小さくてもいいんだな。ああ私のマスター。ああ私はあなたの………』とか、変な事を言ってやめてくれた。

 本当に意味が分からない。

 最後まで謎が解けなかったせいか、心に何かむず痒いものが残ってしまった。

 目の開放もしてくれた。魔法で開かないようにしてたらしい。何の意味があるのだろうか。

 怪我も治っていて………って、怪我を元々していたのかも分からない。本気で戦っていると他の事に気を回せなくなってしまうのだ。ある意味得かな。

 でも痛みは残っていた。やっぱり治せるのは見かけだけか。と思ったが、出血も表面的な痛みもなくなっているから、感謝感謝。


「なあ、何のつもりでこんなことやったんだ?」

「そうだなぁ~。マスターとの初対面だしな。一種の催しだな。」


 その言葉にちょこっとイラっとした。

 ケルベロスの命を催しに使うなんて、確かに殺してしまったのは俺だが、そういうふうに仕向けたのはこいつだ。

 まあ怒る権利は俺には無い。命を奪ったのは俺なんだから。

 たぶん縄張りに入って来たから殺しにかかって来たのだろう。悪いのは俺だ。

 モンスターを殺すのはちょっと躊躇するもんだな。てか嫌だ。


「ケルベロスは死んだのか?」

「――――」

「ん?」


 カルネは、俺の後ろに向かって顎を動かしていた。

 ちょっと笑っていて、それもイラつく。それも微量で、馬鹿にしている感じだった。俺とカルネはあんまり似合わないのかもしれない。そう思ってしまう。


 俺は冷たい床に掌を置き、後ろを振り返ると――――


「ケルベロス!?」


 そこには俺が傷つけただろう傷がすべて消えているケルベロスがいた。

 近くで見ると、毛並みがしっかりしていて、モフモフすると気持ちよさそうだ。

 戦闘中に出した叫び声とは違って、可愛い声、「クゥーン」と泣いていて不覚にも可愛いと思ってしまった。

 俺は喫驚して目をまんまるとあけていたら、心配してくれたのか、中頭の舌でペロッと頬をなめてきた。

 そうすると、ますます喫驚して飛び上がってしまった。何と舌には傷が無かったのだ。確かに俺が引っ張ってかませた舌の筈だが、カルネが治したのだろう。

 てか俺に懐いてくれたのか。いや、こう見るとちょっと可愛らしい。

 強い奴に従う。カッコいいね。尊敬に値するね。


「てか俺倒せなかったのか」

「いや、倒したぜ。ケルベロスは確かに死んだ。」

「は?」


 今おかしなこと言っただろ。

 ケルベロスが死んだのだとしたら、今いるこいつはなんだ。ケルベロスは地獄の門番。一種の一族ではなく、一匹の魔獣。魔獣の寿命は、研究結果では約1万。子供を作る必要が無い。

 あと、一匹しかいないのに子供はどう作るのだろうか。だから子は産めない。

 よって、ケルベロスはこの世、いやあの世を含めても、一匹しかいない。

 だから謎なんだ。蘇生が出来てしまったらこの世界の原型が崩れる。声明は寿命でしか死ね無くなる。それでいいわけがない。

 戦争が合ったらずっと続いてしまうんだぞ。あっていいわけがない。


「じゃあこのケルベロスはなんなんだ?」

「――――蘇生」

「ん? 何て言った」

「だから―――」

「ん?」

「蘇生した」

「――――は?」

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