第8話 魔獣ケルベロス戦 4


 俺は立ち上がり、ケルベロスを大きく睨む。

 気迫負けしているかもしれないが、そんなの知らない。それに、関係ない。

 距離の食い合いを始めると、俺はどうにか勝つ方法を考えていた。

 魔獣に通る強い一撃は持っていないし、攻撃できる隙を作れない。

 隙を作ってから攻撃となると、勝ち目はほぼない。耐久戦は体が大きいほうが有利だ。

 なら相殺覚悟で行くか。いや無理だ。力負けは確実。

 勝つ方法何ていくらでもあると思っていたが、全然そんなことなかった。


 でも、後ろを振り向く気はない。


 作る。

 勝つ方法を作り出す。それが今するべきことだ。それ以外はないと思っている。

 おいおいちょっと待てよ。封印解除って俺の血が原因何だよな。

 だとしたら………って、もっといい方法あったじゃないか!

 魔獣の皮を破る鋭利なものが、一番近くに………。




 ケルベロスは一切動かないが、俺は弧に沿って動いていた。

 まあ意味はない。集中力を高めるためにやっていることだ。動いていないと、何かに集中することが出来ないのは悪い癖だ。

 足にしっかりと力を入れ、攻撃の構えに身を映す。

 チャンス? そんなものはない。それを理解しての行動だ。

 隙も無い。最強。抜け目がないにもほどがある。

 でもむき出しにしてるんだよな。ケルベロス自信を殺す最強の武器を。

 それを手に入れるには、瞬時に力を最大限引き出せることや、瞬時の判断とかが絶対必要になって来る。

 本当にいやだよね。でも、考えるのがいやだからこの答えを導き出せたのかもしれないな。

 今考えた勝つ方法の成功率なんて無に等しい。

 勝つ方法とは―――ケルベロスの牙だ。

 今俺は溌溂としていた。何でかって簡単な事だ。楽しいからだよ。

 何だろう。不意に笑みがこぼれてしまう。ケルベロスは人の言葉を理解できないだろう。でも俺の感情は読めた。だから煙幕という無駄な事をして、俺に目をつぶらせたんだ。

 目をつむるということは、目以外の事に集中できるということだ。少なからず意味はあった。

 だから、そんなケルベロスと戦えるのが楽しいんだ。

 


 ケルベロスの牙はそこらの剣よりは絶対に斬れる。

 でも簡単に取れるわけがない。取れちゃ逆に駄目だ。

 じゃあどうするか。口に近づくのにはどうすればいいのか。近づいたとしても、取る方法が無いとだめだ。結局は考えないといけない。

 当たって砕けろ? 馬鹿言うな。砕ける=死だ。そんな事はしちゃいけない。

 考えないと死ぬ―――ってのはちょっと違う。

 力負けをしなければいいんだろ? それは、当たって砕けない。ってやつだ。

 当たっても、砕けなければこっちの勝ちだ。

 よし行こう。

 



 俺はケルベロスより先に足を前に踏み込む。

 ケルベロスは瞬時に反応し、後ろに下がる。

 何かを察知したのだろうか。俺は何もしないのに。いや嘘ついた。

 何もしないわけがない。勝つためには動かないといけない。

 それを察知したのかもしれない。

 俺は走りだした。躊躇せずに走りだした。障害物が無い床を本気で駆けた。

 ケルベロスは地獄の番犬だ。人間に殺されることは自身のプライドが許さないだろう。だが俺はらなきゃいけない。

 俺は生きなきゃいけない。そう改めてさっき誓った。だから殺る。生きるために、ケルベロスを殺す。今やるべきだ。

 噛みついてくるケルベロスは、狂気そのものだった。

 このままは知っていくと完全に噛みつかれてしまう。だから、スライディング!

 俺がそうすると、目の前にケルベロスの牙がむき出しになる状態になった。死ぬかと思った。ガチで思った。

 荒い息が顔にかかってすごい気持ち悪い。


 股を抜けると、ケルベロスは後ろにゆっくりと振り返ってくる途中だった。

 考えろ。

 今自分にできること。

 ケルベロスも自分の弱点に気付き、何らかの対処をしてくるだろう。

 だから、一回一回が大切だ。

 顔が重いのだろうか。右へ左へとぶらぶら動いている。

 これをうまく使えないだろうか。

 無音な空間に不穏な雰囲気が流れる。ケルベロスは人間を睨み、人間がケルベロスを睨む。不穏だ。

 寄り目になっているケルベロスの目は、恐怖心を覚えるものだった。

 倒す方法。それは牙だ。

 ケルベロスの牙は、そこらの伝説の剣よりは鋭利で強い。しかもずっしりと重く、そして硬い。

 良く鍛冶に使われると聞くが、そこんとこは実物を見ないとわからん。

 俺も触ったことが無いからわからんが、その硬さは鎧にも使われるそうだ。

 それよりも牙を取る方法。それが無いと倒せない。倒せるだろうが俺には無理だ。

 牙は頭に刺すより体に刺した方がいいはずだ。ケルベロスの頭は自己再生する。何度潰しても復活する。

 それとは違い、ケルベロスの体は、基本的に刃物が通りやすく脆い。しかも復活しない。

 懐に潜って刺すってのもいいのだが、体重をより多く掛けられた方がいい。

 だから背中を刺す。大きく跳躍し、牙をさす。そうすれば瞬殺のはずだ。

 ケルベロスはそんな事をするとは夢にも思っていないだろう。ケルベロスにとって牙は、自分の強さを証明するものだ。牙はケルベロス一族の証。取られるわけにはいかないのだろう。

 だから言う。


「今からお前の牙取っから」


 その言葉を聞いて、喫驚してくれたようだ。ピクッと肩が震えていた。

 怖いのか……いや、そんなはずはない。これぐらいで怖がったら魔獣とは呼ばれない。

 獣最強としての威厳があるはずだ。それを無くしたら、ただの犬だ。

 全部取るわけじゃないが、ある程度取らないとだめだ。何故か。それは、一つだとすぐに復元して、無くなった牙を消してしまうからだ。ある程度取ると、復元が追い付かなくなり、復元をやめる。ケルベロスの性格的に、めんどくさい事はしない、フィーナはそう言っていた。

 俺も似たようなもんだな。めんどくさい事はしないし、フィーナに任せっきりだった。やっぱ心改めた方がいいもんだよな。

 

「さてと、どうするかい? ケルベロス」

「グォォォォォォォォォォォォ―――――――ッ」


 今度の咆哮は、もがき苦しむ大型犬みたいな声だった。犬好きとしては聞きたくない声だ。

 少しだが苦しみも見える。どうしてだろうか。

 使い魔と主人はいっしんどうたい………だっけ。主人が苦しめば、使い魔も苦しむ。俺はこんな性格だから、誰も苦しませない。

 ちなみに使い魔は一人いる。フィーナだ。フィーナと一緒に森に逃げるとき、これからも一緒だよって言って、契約をした。

 契約って大変なんだよな。なんだっけ? チューってやつをするんだ。フィーナはなんか緊張してたんだよな。

 良く分からん。

 ケルベロスは荒い息を吐いて、こちらに向いた。その眼には、真っ赤な殺気が秘められている気がした。倒したい。そう思わせぶりな目だった。

 歯ぎしりの音が不快だ。うるさいし嫌な音。

 

「グォォォォォォォォォォォォ――――ッ」


 叫び声は中頭で。歯ぎしりは両頭で。最悪だ。鼓膜がちぎれる。

 ケルベロスは俺を全頭で睨み、ゆっくりと、ゆっくりと近づいてくる。

 距離は約10メートル。足を動かすたびにけたたましい音が鳴り響く。怒りを持ってこその地響き。

 怒っているのが良く分かる。

 でも、挑発には使えない。もっと言ってしまえば、逆効果になりかねない。

 こいつを倒す。そう強く思ったら、行動に出る前に、よく考えるのがケルベロスだ。

 今だって冷静………慎重になっている。

 足の進み方が人間に対する物じゃない。遅すぎだった。



 俺が足をじっくりと見ていると、その慎重さと似ても似つかない、無駄な勢いがある火球を放ってきた。

 合計三つ。そんな素振りも見せずに、放ってきた。

 俺はその火球を避けた。

 目線は逸らさずケルベロスをじっと見ていた。

 何かしてくるかもしれない。そう思ったから。

 俺はケルベロスの股下に向かって走り出す。また隙を作るため。


 でもそうはうまくいかなかった。


 全頭の口元には、先ほどの極限高熱ブレスの発射前とは違い、真っ赤に燃える炎が燃え盛っていた。

 高熱ブレスではない。

 しかもそれが発言した瞬間ここら一体熱風が吹き荒れた。

 先ほどの極限高熱ブレスとは比べ物にならないもの。

 ケルベロスが極限まで怒りを表したときにするもの。

 ケルベロスが殺気の塊となってでも使いたいもの。


 あった。


 ケルベロスの禁技。

 これは俺も死ぬかもしれない。


―――煉獄火炎プロミネンス

 

 

――――――――――――――――――――――



 ケルベロス戦

 あと一話か二話で終わらせたいと思っています。いや、終わらせます。

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