第5話 魔獣ケルベロス戦 1
俺は無空間に浮遊していた。
階段から落ちたと思ったら、そこに浮いていた。
落ちる恐怖が無駄になった時、ホッとしたりイライラしたりした。
だって、謎の声が話しかけて来てんのに、俺はしどろもどろしていた。この奇妙な現象に困惑していたからだ。
足に感覚が無いのに、ずっと同じ所にいるのが違和感でしかなくてやめてほしい。
てか何言ってんのか分かんねぇ。
『――――――――』
「う、うぃ、うぇ、おおっと、うぇうぇええうぇ」
謎の声も自分の声も聞こえない。自分の声に関しては制御できなくなっている。
てか下ろしてほしい。この違和感に耐えられない。こんなのみんな慣れてんのかな?
俺も心が落ち着いてきて、ちゃんと喋れるようになってきた。
「お、おい。マジで下ろしてくれ。」
『――――――――――――――。』
「おい!」
『――!』
「あああああああああああああああああ!」
『―――――――――――――――――!』
「舐めてんのか!」
『――――――!』
チョーうぜー。マジでうぜー。文字量が一緒なんですけど。何言ってんのか分かんねえからもっとうざいんですけど。
しかもどんどん息苦しくなってくる。無空間だからだろうか。
足も痛くなってくる。膝から踝までが特に痛い。どんどん体が重くなってくる。
「ちょっと……どういうことだ………。」
『――――はっはっは、大丈夫かい?』
今回はちゃんと聞こえた。
その声はいたずら好きの子供って感じだった。
どんどん体が軽くなっていき、楽になって来た。
「はぁ、はぁ、はぁ。マジで何なんだよ………」
『ごめんごめん。でも来てくれてありがとう。これで準備が出来た。』
「――――ん?」
俺は気が付くと、知らない床に立っていた。
どういう物質か分からないけど、灰色の機会じみたものだ。歩くと嫌な音が鳴る。
遠くには、大事に保管されている、エル先生が持っていた魔導書ってやつと同じような本があった。
でも近づく気にはならなかった。
だって魔導書の前にごっつい武器持った………銜えたって言うのかな。三つ頭の犬が立っていた。魔獣ケルベロスがいた。とてつもなくでかい剣を銜えて。
ケルベロスはこっちを睨んでいた。強烈な赤い目。魔獣の証拠だ。毛が立っていて、牙をむき出しにして、一番右の頭が巨大な剣を銜えていた。
なぜこんなとこにいるかは俺でもわかる。
たぶん謎の声の使い魔だろう。使い魔というのは、そのままの意味だ。従えた魔物の事だ。
それでケルベロスがなぜこんなところにいるかというと、ここは謎の声の体内図書館だ。魔法使いの一人一人に、大切な物を補完する図書館が作られている。
たぶんそこだろう。魔法使いの事については詳しいほうだ。魔法は全然だが。
それに謎の声はかなり手練れの魔法使いの様だ。
魔獣ケルベロスは、危険度Sの大型モンスターだ。人間が挑んじゃダメな生物だ。あったら即死は確実だ。
でも俺が住んでた森にはもっとヤバい奴がいたから大丈夫。例えばヒュドラね。
こいつの倍の頭はあるから。森の奥にあるダンジョンのボスだ。危険度SSSの、ドラゴンだ。俺は倒せなかったが、フィーナは倒せる力はもっている。
てかフィーナが一番ヤバいかな。ミズガルドオルムって竜の子孫だそうだ。
どうでもいい話をした。
ケルベロスは俺を餌だと思っているはずだ。
ただのケルベロスでさえ強いのに武器を持ってて、俺人間は武器を持っていない。絶体絶命ってやつだ。
あと俺は戦闘になると頭が切れるようになる。
「グルルルルルルルルルルルルルルルル」
「おい――――」
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!」
俺に発言権など無いようだ。
俺はなるべく戦いたくない。ケルベロスを倒してしまうと、しんぶんきしゃってやつが来てしまうとフィーナが言っていた。そいつは迷惑な奴らしい。
とてつもなく大きな部屋は、今までのケルベロスの咆哮は無くなり、山奥の様な無音で戦闘は始まった。
距離的には俺が圧倒的不利だ。俺はケルベロスに殴りも蹴りも届かない。それとは違い、ケルベロスは高熱ブレスも巨大な火球も放つことが出来る。
しかも首が長く、近づいた瞬間噛みつかれるであろう。
決して逃げる訳じゃないが、今回は負け勝負となる。避けるだけの戦いだ。
ケルベロスはゆっくりと距離を詰めて来る。俺はゆっくりと足を後ろに動かす。急がすと、ケルベロスを怒らせる。
距離の食い合いを先に終わらしたのは、もちろんケルベロスの方だった。
ケルベロスは体を揺らしながら突進してくる。
揺れていて動きがブレているケルベロスの初動は、俺には読めない。
大きく踏み込んだケルベロスは、一番右の頭が、剣を薙ぎ払ってくる。
―――キレが良い
獣らしからぬ太刀筋。いい加減な動きではなく、その大剣をどのように扱えば、一番の威力を出せるかを理解している。
魔獣は、知能、力、動き(スピード)、魔法、すべてが優れている魔物だ。人間とは違う。
俺はその一撃がギリギリ当たらないとこまで間合いを取る。本当にすれすれだ。
でもそれじゃあケルベロスの攻撃を避けきれない。
連携が考えられている攻撃を繰り出してくる。三つの頭は飾りじゃない。
剣をふるうと同時に、咆哮、火球、を続けて放って来る。
火球を放たれたら、もう攻撃の範囲は無限となり[間合いを取る]のではなく、[カウンター]を狙うのが先決だろう。
だがしない。拳や蹴りが通るほどの柔らかい皮をケルベロスを持っていない。
だから、火球だけに集中できる間合いが欲しい。
攻撃を避けて股を抜けるという方法がある。ケルベロスが後ろに振り向く時間を使って、剣も噛みつきもない、そして咆哮も耳をふさぐほどではないとこまで離れたい。
故に俺は次の一撃を待った。
次の一撃はとても美しい太刀筋を誇る右頭の大剣の薙ぎ払いだ。剣の薙ぎ払いは後ろに避けるもので、前に避けるのは非常に難関だ。
しかも避けたとしても、遠心力でケルベロスは後ろにすぐ向けてしまう。一番来てほしくなかった一撃だ。いや、二撃だ。
連携を考えるケルベロスが、一撃で終わらしてくれるはずがない。
真ん中の頭の口に、赤い粒子が集まってきている。
―――非常に危険だ
赤い粒子は、高熱………いや、高熱では表せない熱さのブレスを放ってくるだろう。ケルベロスは高熱ブレスを放つとき、瞬時に放つことが出来るはずだ。赤い粒子はもっと熱いブレスを放つための準備だろう。
剣の猛攻は続いている。すれすれのところで避けて、間合いを取る。
赤い粒子をためる中、左頭は火球を飛ばしてくる。もう地獄だ。
一つ一つが完璧な威力、コンビネーション、そして隙を作らない身のこなし、魔獣の理想をこなしている。それに関しては尊敬に値する。
力を棒に振らない攻撃の仕方が、逆にものすごい力を作り出している。
火球は上体を反らして避けている。後ろに避けすぎると、無駄な動きでスキを生み出してしまうからだ。倒そうとは思わないが、負けようとも思わない。
とうとう赤い粒子が溜まってしまい、口の中に赤い粒子で溢れかえっている。だが、それは燃え盛る火炎のようではなく、熱した鉄の様に静かに赤く光っていた。
確実に当てるために、ゆっくりと、そして一歩一歩の間合いを大切に、ケルベロスは近づいてくる。左頭でケルベロス自身の足を見て、右頭で俺を見て、中頭は溜まった粒子を口に隠していた。
いつ放たれるか分からないブレスを、黙って待つほど俺はお人よしじゃない。
俺もゆっくりと間合いを取っていく。絶対に急いじゃいけない。そしてゆっくり過ぎてもいけない。どっちも最終的にはスキとなる。丁度良いが大事だ。
でも完全に歩幅の大きさは、ケルベロスの方がでかい。どんどん間合いは狭くなってくる。
ケルベロスの六つの目は俺を見た。目を合わせたら、その目力で殺されそうだ。
ケルベロスは完ぺきな間合いに着けたようだ。そしてゆっくりと足を止めた。だがその動きはすべて計算されたものだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
危険度Sは異常な力を持っていた。
それに対抗するための力はテスタにはあるのか!?
次回に続く
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