第4話 どこからか聞こえる声

 今凄い気まずい。

 隣にものすごい目で睨んできているクラウドは、[光魔法科]の偉い生徒らしい。偉いというのは良く分からない。

 周りから、「クラウド先輩カッコいい」とか「なんでクラウド先輩とあいつが?」とか、どこかで聞いた事のあるフレーズが数多く聞こえてきた。

 その度に、教室などから鋭い目線を感じる。俺はクラウドと一緒だとか思った。

 どんどんクラウドは俺から離れていく。俺はついていこうとするが睨まれる。


「なあ」

「喋りかけるな脳筋」


 冷酷な表情で言う。

 嫌われてるなと理解した。でも理由は理解できなかった。

 あと脳筋という呼び名。意味は分からないが、けなされている気がする。

 そうすると、周りの教室から「脳筋だって」とか「脳筋とかうけるわー」とか「クラウド様パフパフ」とか聞こえてきた。全部意味わからんが、最後のに関してはやばいだろ。そんな気がした。

 そんな事をしていると、前からおなじみの顔が見えた。

 たぶん先生の格好をしているフィーナだった。


「あ、今日赴任された―――」

「テスタ!」


 そう言って、紳士的? な対応をしたクラウドを無視し、俺に抱き着いてきた。

 すっごいいい匂いがした。優しい感触が俺を奮い立たせる。

 そしてクラウドの強烈な目で睨まれ体が震える。無視されたことに怒っているのだろう。

 そうして、俺も抱きしめた。もちろん抱き返したというべきだろう。

 竜人なので角があるが、今は消していた。

 抱き返すと、甘える声で「てぇすたぁ」と言ってきた。どう自分の感情を表せばいいが迷ったが、とにかく気持ちいい。

 そんな事をしていたら、クラウドがいなくなっていた。

 見渡してもどこにもいなく、二人取り残されてしまった。


「フィーナはどこに行ってたの?」

「え?………ああ、私が担任になった教室にね。」

「そっか。てか行っちゃったよ。ぷ、ぷろぐれむ? ってとこに行かないといけないのに………。」


 そう言うと、フィーナは満面の笑みを浮かべた。

 とても………うん。分からない。


「そうなの!? 私プログレムの担任になったの。一緒だね!」

「じゃあ連れてってよ」

「冷たいなぁ。じゃあ行こ」


 そう言ってフィーナは前に進み始めた。

 背中にはちっちゃい羽がある。角は消せるのだが、羽は小さくすることしかできない。だからパタパタしていても邪魔にはならない。小さくすると羽が良く動いている。



『ねえ、来て』


 そう聞こえたのは、ちょうど一階下に降りた時だった。

 頭に直接語り掛けてきているようだった。だから、前にいるフィーナは何も反応しなかった。

 俺はその声がどこから来たものか分からず、困惑してしまった。

 俺は足を止めたが、フィーナは気付かず歩いて行ってしまった。さっきフィーナとはぐれたのもそれが原因だ。

 さあ一人になった。迷いに迷った結果、話しかけることにした。

 何処にいるかも分からない人に。人かも分からない。


「誰?」

『ねえ、来て』


 そいつはそれしか言わなかった。

 何処に来てほしいのかも言わずに、ずっと『ねえ、来て』とばっか言っている。

 俺はもっと困惑する。

 誰にも聞こえていないのだろうか。

 まず周りに人がいない。じゅぎょうというものが始まったのだろう。とても静かで人がいない。

 そんな中俺は誰か分からない奴と会話していた。


「どこに? てか誰?」

『ねえ、来て』

「だからどこに!?」


 流石に苛立ってくる。

 何処から聞こえているか分からない声に、踊らされている。

 しかも俺が喋りかけないと何も言ってこない。迷惑な事だ。

 そっちから話しかけてきたのに、理不尽だろ。

 無用な要件なら話しかけてくんなって。てか俺今置かれている状況の理解が出来てないんだが。


「行くから。場所を教えてくれ。」

『一番下に来て。階段降りればわかる』

「わーたよ」


 俺はゆっくりと階段を下りていく。

 俺は怪しいとは思わなかった。女の子の声だった。おとなしい声だった。か細い声だった。

 フィーナによく言われている。助けを求める人がいたら、絶対に助けなさいと。俺はそれを間違っているとは思わない。絶対にいいことだと思っている。

 でも困惑はしていた。経験が無いことは怖い。森にいた俺にとって初めてばっかりだ。こういう事も経験している人が多いのだろうか。――いません。



 階段を下りて行っても、何故か下につかない。

 ずっとずっとつかない。永遠と階段を下りている。

 流石におかしいと思いだす。ここまで高い学校ではなかったはずだ。俺は2、3階にいたはずなのだが、永遠と下り続けている。

 てか階段しかない世界になっている。道が無く、ずっと階段だ。


「おーい」

『……………』


 話しかけても応答が来なくなってきた。

 戻れるかも心配だ。一生ここにいるかもしれない。

 それでも俺は下に降り続ける。

 友達と魔法を求めてきたのにこんなことになるとは。しかも、永遠の階段は求めていない。

 今日は災難だらけだ。滅茶苦茶睨まれたり、友達じゃなくなったし。いや、もともと友達じゃなかったのか。

 

 下に行くうちに、どんどん力が高まってくる気がする。

 魔力かどうかは分からないが、そんな気がする。

 でも下は見えてこない。てかずっと同じ場所を通っている気がする。


(いっその事上行くか)


 逆転の発想だろう。

 だって下に行ったら道が見えない。だとしたら、上に行ったら道が見えてくるんじゃあないか。そう考えた。

 でも階段を上がるほどの気力はない。

 ではどうする。下に言っても無駄。上に行けない。ここで待ってても助けは来ないだろう。―――手が無い。

 でも俺は脳筋だ(本人は知らない)。物理的に解決するしかない。

 足は痛いのなら動かなければいい。無限に着かないのなら、無限を続ければいい。

 俺はこっから落ちる。

 階段と言っても、周りを守る柵などはない。周りは無空間だ。

 下に着かないとしたら、一生無空間に落ち続けるのだろうか。

 策が無い今、これしか方法が無いと思う。


 いざ飛び降りるとするとちょっと怖い。

 最後に謎の声に喋りかけてみる。


「おーい………」

『………』


 返答は来ない。

 まあ知っていた。

 てかここに来させたのが謎の声という証拠もない。

 何かに巻き込まれて、一番下に行けなかっただけかもしれない。

 ここに連れてきたのが謎の声だとすれば、一番下があるということだ。

 ならもう着いてておかしくないはずだ。

 あんまり頭を使わない俺がいきなり頭使ったから疲れる。

 さあ行こう。無限に続く真下へ。―――ださいな。

 でもやっぱり怖い。

 本当に下が見えないのに、落ちたら床がありましたとか、シャレにならない。

 でもやっぱり行かないといけない。

 俺は勇気を出して、その場から飛んだ。


「うぁあああああああああああああああああぁ」


 やっぱり高所恐怖症にはきつかった。



 

 

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