第1話 初めての友達

 廊下は朝の登校の喧噪で溢れていた。

 俺は、行き交っている生徒の中で仁王立ちをしていた。

 皆と同じ制服を着て同じように学校に通っていることに、拳に強く力を入れて、感動で打ち震えていた。

 でも俺は馬鹿すぎて気付いていなかった。滅茶苦茶注目され、不審者扱いされていることを。注目はされていたが、怪しすぎて目線を向けられることはなかった。

 俺は緊張しすぎて目つきが悪くなっているようだ。他の人から見たら、獲物を見つけた虎のような眼をしている。でもそんなことに気付くはずもなく、睨み続ける。

 生徒を見ると、俺は優しく挨拶しているつもりの目なのだが、見られた生徒はガンを飛ばされていると感じ取ってしまう。

 森にずっと住んでいた俺は、目で挨拶するようなものだったから、近くを通る人全員と目を合わそうとしていた。―――が、失敗した。

 通る人通る人全員に目を逸らされていた。

 目線が合わず、もっと目に気迫を込める。だがもっと目を逸らされる。

 俺はがたいが良く、ガラが悪いと見て取る人も少なくはない。

 そして俺を避けている理由がもう一つ。まずとてつもなく通行の邪魔になっていることを気付かずに、そこに仁王立ちしていることが避けられる原因となっていた。―――それにも気付かない。

 感覚などが鈍いのではなく、そういう感覚が育っていないだけだ。


(あれ……? みんな俺が見えてないのかな……?)


 見えてないんじゃない。見えすぎて邪魔だから目を逸らしているだけだ。

 俺の思惑通りに行かなくて、どうしようと迷った。―――そして気付いた。 

 挨拶だけじゃ友達になれないことを……。挨拶は言葉だろとは誰も突っ込んでくれない。

 なら、挨拶以外に何をすればいいかを考えた。声を掛けて友達になってくれと言えば良いんだ。でも俺にはそんな経験が無さ過ぎて、滅茶苦茶緊張する。

 周りを見渡すと―――ある二人組がいた。性別は………♀。いや女と呼ぶんだったか?

 俺は気合を入れて近付く。

 彼女らに近づいたのは、俺に興味の目を向けていたからだ。

 俺から見たらやっとまともな人を見つけたと思ったのだが、他の人から彼女らを見たら、何であんな奴見てんのって感じだった。―――まあ、気付くわけがない。

 ずかずかと気合を入れて近づくと、俺から見て右にいる女は、泣きそうになって腰を引いている。もう一人の方は、ずっと笑っていた。


(緊張するなぁー。俺ちゃんと溶け込めてるかなぁー。)


 溶け込めてません。

 そして半泣きになっていた右の女の子の手を両手でつかみ、めっちゃ目を見た。

 二人から見たら、今にでも「殺すぞ」と言いたげな目だった。―――が、全然気付く様子もない。

 俺に違和感を感じるほどの頭は持ち合わせていないのだ。そんな目でずかずかと歩いてきている俺に、その一人は恐怖心を覚えていた。


「――うっす、俺はテスタ。よろしく……。」


 彼女には「夜露死苦」と聞こえてならなかった。

 手を握る握力が強すぎて、ますます怖いだろう。

 俺はすぐに返事が返ってこなかったのを、言い方のせいだと思い込み、ちょっと変えて言った。


「――ぉはよう……俺テスタ」


 彼女には早く名乗れという意味に聞こえてしまい、もう泣いている。――俺は緊張しすぎて視界に入らなかった。

 とても弱々しい子だったのだが、とても優しそうに俺は見えた。

 ちなみに可愛いの意味を俺はよく知らない。せいぜい言葉を知っているだけだ。


「―――私は………ルナ……で…………す。」

「そっかぁ! ルナか! よろしくな!」


 俺はさっきのが嘘だったかのように笑った。思いっきり笑みをこぼした。

 ルナの手を握りながら、大きく上下に動かした。

 そのギャップを見て、その二人は警戒を解いてくれた。ちなみに俺は、警戒を感じる頭を持ち合わせていない。

 そして隣の女の手も握ろうと、横移動をした。

 俺が言う前に彼女は言ってくれた。手は両手を握っていたが、自己紹介は先を越された。


「私はウィルよ!」

「そっかぁ! ウィルかぁ! 俺テスタ!」

「愉快ね」


 愉快の意味が良く分からなかったが、嫌われていないことは確かだ。

 ルナも笑っていて、ウィルも笑っていた。そして俺も笑っていた。


(やったぁああああああぁ! 初めての友達だぁああああああ)


 感動に浸っていると、周りから♂……じゃなくて男が近づいてきた。てか、男と女の比べ方が分からない。

 二人組の右側は、ルナの胸を見て俺の顔を見た。胸に何かあるのかと思い、ルナの胸をガン見した。

 じっと見ていると、ルナが胸を隠した。


「ど、どうしたの!? なんかついてる!?」


 俺はなぜこんなにびっくりしているのか分からなかった。普通に俺フィーナの胸ガン見してたからとは一生気付かないだろう。

 見てた理由? だって俺になくてフィーナにあんのズルくね? そうするとフィーナは「見たいの?」とか言ってきたのだが、フィーナの体を見ても意味が無いからやめた。

 俺は俺の全然ない胸を見た。そしてまたルナのを見る。

 ずっと見ていると、二人は羨ましそうに俺の方を見ていた。まさか俺のが羨ましいのか?


「あっれ? テスタ君もこんなに大きいのが好きなの?」


 ゙大きいのが好ぎの意味が分からなかった。

 隣の男たちは羨ましそうに俺を見ている。こいつら俺が何なんだ?


「いいよなぁ……俺なんで胸無いんだろう……」


 俺がそう言ったら、みんなが笑って、その中のウィルがこう言った。


「はっはっはっ。男の子は胸が無いんだよ……これ常識、覚えとこうね」

「えええええ? ずっるい。俺も欲しいな。触ったら取れねえかな?」


 そう言ってルナの胸に手を伸ばす。

 もうちょっと。もうちょっと。もうちょっとであの大きいのが俺の物に……。

 もうちょっとで触れたはずなのに、ルナに止められた。


「やめてよぉ………恥ずかしいよぉ………。」


 半泣きになっていた。泣き虫なのかなって思った。でも泣くときは嫌な事があった時だと知っている。

 だから友達に嫌な事をしてしまったと後悔した。後悔は俺でもする。


「ご、ごめんよ……え、ええ、えっとねえ………俺の胸見ていいよ!」


 結構いい判断だと思う。ルナが受けた苦しみも俺も受ける。――俺天才だろっ!

 そんな事を言うと、ルナを合わせてみんなが笑ってくれた。何で笑っているのか分からなかったが、みんなが笑ってくれて俺も笑いたくなった。


「いいよ別に。性的意味じゃなかったんだし。」


 施鋭的の意味が全く持って分からなかったが、みんな納得してたり俺を睨んだりしてたので、何も言わなかった。

 空気を読むことぐらいできると過信している。


「胸って意外に邪魔なのよ? ルナみたいに大きいと、男から変な目で見られちゃうしね。」

「へぇ。邪魔なんだぁ~。ルナのでかいしなぁ~。」


 俺に不謹慎とかいう言葉がよく似合うのだろう。

 みんな悪気が無い事を理解してくれているのか、みんな笑って流してくれた。

 廊下に端っこで喋っていたから邪魔にもなっていないから睨まれることもなかった。


「柔らかそうだなぁ~」


 じっと見ていると、やはり隠したいそうだ。ルナは手で胸を隠した。

 そんな事をしていたら、隣にいた俺ばっかを見て来る男が何かを言ってきた。もちろん俺は友達になるつもりだ。


「てかお前は結局誰なの?」


 たぶんこれは名前を聞いているのだろうと俺は感じた。

 なぜかすっごい目をしている。先ほどの俺よりは怖くないということを絶対に知ることはなかった。


「俺テスタ!」

「そういうことじゃなくて………」

「俺テスタ!」

「だーかーら! その……ルナとどういう関係なの?」


 みんなはまだ理解していないようだった。でも、今回だけはみんなよりも早く理解できた。返す言葉は決まっていた。

 最初にできたのだから。一生に残る思い出なのだから。


「友達!」


 俺は俺の事をずっと見て来る男に、自信があったからこその言葉を放った。

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