脳筋魔法使いの危険な物理的魔導書(カルネージャ・グワール)
不知火洋輔
序章 脳筋と呼ばれる男
第0話 プロローグ
ここはドラランク王国近辺の森の小屋。
俺はそこで竜人の女性に育てられていた。
「テスタ? どうしたの?」
俺はいつもはがっつくはずのご飯に手を付けていなかった。
色々迷っているんだ。友達で姉で、時には母として俺を育てて来てくれたフィーナ以外に知っている人型の生物がいない。
他にいるとすれば、森にいる魔物とか動物だ。
そこで考えた―――友達が欲しいと。今15歳だからたぶん行ける。
「俺魔法学園に転校すっから」
そう言ったら、フィーナは冗談やめてよと言いたげな顔をした。
でも俺が真剣だとわかってくれたようで、フィーナも真剣な顔をする。
行きたい理由。そんなの、学校に通えば友達が増えて、二人きりの生活から抜けられるってことだけだ。
一回だけ王都に行ったとき見たんだ。みんな同じ服を着て、杖とか本とかを持って、同じ方向に歩いているところを。
それを俺は魔法学園というみんなでワイワイしながら楽しめる場所だと知っている。だから行きたい。
「だめよー。テスタは強すぎるし・・・・・魔法は無理よ。」
「えー? 魔法ちゃんと勉強するよ?」
俺は知っている。魔法は勉強しないと使えない事を。
俺は山一つぶっ飛ばす力を持っているが、それよりもヤバい力を持った魔法があると。
それを使って、国を操っていると・・・・・。
だから俺は勉強をする。友達を作りながらもっと強くなる。
「足し算ってわかる?」
「何それ」
「魔法算1次式とか分かる?」
「なあにそれ何かの魔法?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「―――まずそこから勉強ね・・・・」
そこから長い修行の道が始まった。
1年間頑張って勉強した。
フィーナが一生懸命教えてくれたおかげで色んなことが分かった。
◇◆◇◆◇◆◇1年後◇◆◇◆◇◆◇
「やっとわかったぁああああああああああああああああああああぁ! 俺天才!?」
いつものテーブルでノートってやつに書いたのだ。
俺が一年迷いに迷った課題。フィーナが俺のために作ってくれた問題集ってヤツのあれを。
俺の叫び声を聞いてこっちに来てくれたフィーナはあきれているような感じだった。
「俺やっとわかったんだフィーナ! 俺お前の事大好きだわ・・・・・俺・・・・」
「え? そう? じゃなくて・・・・何が分かったの?」
完全に俺の言葉を右から左にと聞き流しているようだった。
でも俺はそんなこと気付くはずがない。
「数字ってぶっ壊せないんだな!」
「そうね・・・・・・よしっ学園にいこっか」
俺はその時知らなかった。自分がどれほど世間知らずなのか。ぶっ壊せないという発見が世紀の大発見じゃないことを・・・・。
俺はテーブルを叩きつけて椅子を立つ。
その時当たり前のようにテーブルが壊れる。そこに誰も突っ込まない。
俺は拳を力いっぱい握りしめて、感動に打ち震えた。
「よかった・・・・俺入学できるんだ・・・・・」
俺が感動に浸っている中まだ知らないことがあった。
転校できた理由は、魔法学園の学園長とフィーナが仲が良く、テスタが脳筋と知っていて面白そうだからという理由で入れてもらえたことを・・・・・。
フィーナは俺の様子を見て微笑んでいた。いや、哀れんでいた。
俺はその視線に気付かず、感動に打ち震えていた。
「ひとつ知っといた方がいい言葉があるわよ。」
そう言ってフィーナは人差し指を俺の唇に重ねた。
喋ろうとしたが、んー、んー、としか言えなかったから諦めた。
諦めるの大切さはこの前知ったばかりだ。いいだろー。
「馬鹿とか脳筋とか後々聞くことになるだろうから教えるね。何にも考えず殴ったり蹴ったりで何でも解決する人の事を言うの。嫌な言葉だから言われたら何かしら言い返しなさいね。」
そう笑って言ってきた。
よく理解できなかったが分かったことは一つある。フィーナは嬉しそうってことだ。何でかは知らん。
指を離してくれたフィーナは、そのまま奥に消えていった。
その時こう聞こえた。
「じゃあ用意してきてね。私も一緒に行くから。」
その言葉はさすがに意味が分かった。
俺と一緒に学校に行くつもりだ・・・・と。
やっぱり何も理解できていなかったと知るのはもうちょっと先だった。
俺も用意をしに部屋に戻った。
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