第27話 春人 アクセルを鍛える

 シンと名付けられた神とアクセルを連れ、春人達は裂け目を使って移動。


「うおおおわあああぁぁ!? 死ぬ!? これは死ぬってええぇぇ!?」


 シンがいたものとは別のタワーへとやって来ていた。


「逃げてばかりでは強くなれんぞアクセル」


「勝てるかああああぁぁ!! 訓練場って言ったじゃんかああぁぁ!!」


 クマの大型オーガから必死で逃げるアクセル。

 スピードだけならかなりのものだ。生存本能が体を突き動かしている。


「この程度なら訓練にはちょうどよかろう」


「ユウキの基準で考えるなああぁぁ!!」


 当然だが春人と人類の基準は大きくことなる。

 それを考慮してもなお、春とはこの地を選んだのだが。


「くっそ……喰らえ!!」


 腰のマシンガンを光粒子化し、新型ライフルへ変換。

 オーガの顔に向けて乱射する。

 アクセルが撃っているのは、新型装備のプロトタイプ。

 テストモニターにもされているのだ。


「あんまり威力が変わんねえ!?」


 オーガの顔を少々焼くだけ。新型がこれではお粗末だが。


「真の力を引き出せていないからだ」


「なんじゃそりゃああぁぁ!?」


 広いタワー中心部を逃げ回る。

 前回の観光地のようなタワーから一転し、今回のタワーは窓もなく、広い筒状の建物である。

 一階一階が広く高い。階段とエレベーター以外は存在しない部屋もある。

 つまり訓練にはちょうどいい。


「いいか。その武器は人の力。それも心の力に共鳴する」


「具体的に! もっと具体的に!!」


 会話しながら逃げ回り、ひたすらライフルを撃つアクセル。

 スタミナは相当なものだろう。


「得意武器は近接型だろう?」


「あんなんにひとりで近づけるかあぁぁ!?」


『春人さん。あれは最近見るようになった新型オーガです。アクセルだけでは難しいかと』


 モニター越しに見ているシーラから指示が飛ぶ。


「無茶言わんでええぇぇ!!」


「シーラ、新型とはなんだ?」


「オーガは我々を倒しやすいように、ある程度の変化が見られます」


 この世界に最初に現れたオーガは、四足歩行の犬であった。

 それを銃火器で蹴散らすと、今度は銃を背負い、弾にあたらぬよう素早さを上げた虎が。

 虎が爆破で処理されると、強靭な体のクマが。というわけである。


『そういうわけで、このままでは危険かも……あら? そういえば春人さん達に……いえ、なんでもないです』


 なぜ対応したオーガが現れないのか。シーラの疑問は自己解決した。

 エセ動物に春人と並び立つ進化など不可能なのである。


「春人様。お茶を持ってきました」


 裂け目からアルファが登場。手には茶と茶菓子が乗ったお盆がある。


「ありがとうアルファ。一緒に食べるか」


「はい。アルファもここにいます」


「いるなら手伝ってえええぇぇぇ!!」


 アクセルはもう息があがっていた。壁に背を預け、じりじりと迫るオーガをどう倒すか考えている。


「そういえばシンはどこへいった?」


「シンは、今アクセルと一緒。アクセルの剣」


「なるほど、アクセル。剣を使え」


「オレ一人で接近戦しろってのか!?」


「ひとりではない、やってみろ」


「ええいくそっ! やらなきゃ死ぬんだ! やってやらあ!!」


 全ての武器を解除し、剣に切り替える。

 銃器に必要なエネルギーを、一本の剣の構築にあてた。

 その賭けは正解である。


「ゆくぞ、アクセル」


「お前……シン!?」


 青白く輝く刀剣から、名付けた神の声がする。


「接近戦が得意と聞いてな。剣とともに待機していたが」


「遅いよ! っていうか言えよ!」


「すまない。さて、君と同調しよう。ともに歩む覚悟はあるな?」


「おうよ! やれるもんならやってみなあ!!」


 アクセルを青い光が包み込む。

 赤い頭髪は蒼き神と混ざり、光る紫へ。

 神と人の共存。それを一身で成し遂げた。


「いいね。今なら……あいつくらいは殺れそうだ」


『ならば往こう。どこまでも』


「うっしゃあ! 全開でいくぜ!!」


 剣を構え、すれ違いざまにオーガの右腕を切断する。


「はええ……それにこの切れ味……いける! マジでいけるぞ!!」


「ふっ、覚醒したか」


『凄い。これが神の力……』


「あれは、人と神の力。だから倒せるんだよ。偽物の動物さんじゃあ、出せないの」


 勝負は一転、完全にアクセルが押していた。

 攻撃を避けず、斬り結ぶ。それはパワーですら互角以上であるという証明。


「やってやるよ! 人間様が、いつまでも逃げ回ってると思ってんじゃねえぞ!!」


 アクセルの魂に呼応するかのように、刃に紅蓮の炎が燃える。


「いくぜシン」


「ぬかるなよアクセル」


 オーガには、もう攻撃を避けるだけの四肢は存在しない。

 苦し紛れの砲弾もかわされ、懐への侵入を許す。


「フルスロットル! ゴオオオォォォッド! スラアアアアッシュ!!」


 抵抗なく一気に両断し、神気の炎が敵を焼く。


「爆滅!!」


 大爆発のあと、オーガは灰すらも残らなかった。

 完全勝利である。


「見事だアクセル。やはり俺の目に狂いはなかったな」


「アクセルは頑張った」


『素晴らしい戦果です』


「ありがとな。でもこれすっげえ疲れるわ」


「そこは慣れだろう。初同調で完璧に対応できたのだ。私は誇るべきだと思う」


「ああ、そこは俺も保証してやる。よくやった。お前の命の炎は、この世界の人間の闘志を燃やす。素晴らしいぞ」


 手放しの称賛である。春人は、こういう人間と神の共同作業や、生きるためのあがきを見守ることが好きなのである。

 それらが必死であるほどに、命の灯火は強く輝く。

 そういった人間こそ、自分が手を貸すに値するとも思っている。


「少し休んだら、更に上の敵も……」


 天井を突き破り、上階よりわんさか湧き出るオーガ。

 アクセルを敵とみなし、排除するためだろう。


「せっかくの感動を台無しにするか……気に入らん」


 新たなる希望の誕生。それを汚され、春人の機嫌は悪くなる。


「休んでいろ。最上階まで潰してくる。アルファ、念のためアクセルとシンを守れ」


「いってらっしゃい」


『私は今のデータをもとに、新装備の改修を進めます』


「悪いユウキ。頼むぜ」


「世話をかける」


「気にするな。今の俺は機嫌が悪くてな」


 五メートルを超える、巨大な獅子型オーガの群れが距離を詰める。

 それが寿命を縮める行為だと理解する知能はない。


「ガラクタが……」


 軽く右腕を振る。風圧も衝撃も感じないその攻撃は、アルファ以外には理解できない。


「この塔を貴様らの墓標にしてやろう」


 金属が潰れ、ひしゃげて曲がる音。続いて何かが砕ける炸裂音。

 オーガは手首から先と、わずかな背中を残し、この世から姿を消した。


「なんだ? 何が起きたんだ?」


「凄く強く、腕を振ったんだよ」


『それは見たらわかります。ですが』


「その衝撃と風圧を、未知の力でコントロールし、一点に凝縮して飛ばしているのだ。人の身でできる芸当ではないが、彼ならば可能なのだろう」


「春人様は怒っているの。それでもみんなに被害が出ないようにしてくれている。春人様は優しい」


 話している最中にも蹂躙は続く。

 春人がオーガの腹を貫けば、その身が爆発し。

 首を殴り飛ばせば、その後ろのオーガまで消し飛ぶ。

 一方的に淡々と処理を繰り返し、上階へと消えていく春人。


「強え……わかっちゃいたけど……ユウキはどんだけ強いんだよ」


「春人様は一番強いよ。アルファやオメガじゃ勝てない」


『お二人も強さで言えば規格外なはずですが』


「名のある神でも勝てぬか。底の知れぬ男だ」


 上階の爆発音と揺れる塔。それは春人の怒りを表しているようで、しばらく止むことはなかった。

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