第24話 春人 潜入任務を開始する
雲を貫く巨大なタワーの前。オメガは潜入任務のため、正面入り口に立っていた。
「立派な番犬だ。これだけの数……相当の愛犬家なのだろうねえ、お前達の主人は」
狼型オーガの群れが守護する入り口。その前に恐怖もなく歩み寄るオメガ。
「コンクリートジャングルの小動物よ。百獣の……いや、万物の女王である私が遊んであげよう」
そして巻き起こる大爆発。後に残るは無傷のオメガただ一人であった。
「おっと、タワーは壊しちゃいけないんだったねえ……人間の建物は貧弱で困るよ」
瞬時にオメガを取り囲むオーガの群れ。
クマ・狼・虎・アリクイ・トカゲ・象と、どれも大型だが種類が豊富だ。
「これじゃあ動物園だねえ。どうせなら動物園デートとかしたいなあ……」
飛び掛っていくオーガ。だが突如として現れた光の剣により、どれも一撃で両断され消えていく。
「ほらほら、もうちょっと抵抗してくれたまえ。これじゃ退屈すぎて寝てしまいそうだよ」
戦力の差は圧倒的であった。古参の神であるオメガことアメノウズメ。彼女の圧倒的な力は生物の追随を許さない。ただ遥かなる高みから弄び、気に入らなければ蹂躙する。
「君達に恨みも興味もないよ。でもね、多く倒すと春人くんが褒めてくれる。私はそれだけでいい。それがいい。だから……」
黒い光。ただただ黒いにもかかわらず、なぜか光と認識できる闇。
生物ではないオーガは怯まない。だが、人間には直視することすらできない深い闇。
その闇が音もなく、全てを破壊に包んでいく。
「――消えたまえ」
あとに残るはオメガのみ。
「派手にやっているようだな」
タワーの中腹。外が見渡せる展望台で春人は呟く。
オメガは囮だ。正面で暴れてもらい、春人とアルファが潜入する手筈であった。
「春人様、こっち」
「今行くよ」
春人、堂々とエレベーターにより展望台まで入場。
そもそもオーガのサイズでは、エレベーターに乗ることができない。
さらに気配を探り、春人が出した結論は、人が入ることしかできない場所にはオーガはいない。というものであった。
「理由はわからんが……このタワーは壊されることのないように気を配っている者がいそうだな」
「手入れがされているね。デートみたい」
「そうだな。売店でもやっていればお土産を買っていくか」
完全に観光気分である。アルファと腕を組み、笑顔で展望台を一回りする春人。
とりあえず三階までを裂け目と階段で移動し、潜入の雰囲気を堪能したところで飽きたのだ。
そしてエレベーターに乗るという暴挙に出た。
「ん? 現れたか」
春人達の前にクマ型オーガの群れが顔を出す。二メートル近い巨体が道を塞いでしまった。
「くまさん。きらい」
「ふむ、潜入がバレたのかも知れんな」
「どうするの?」
「適当に殲滅しながらデータのある部屋でも探そう」
「はーい」
既にフロア一つ、丸々アルファの植物が根を張っていた。
オーガの足を突き刺し、胴体を貫き活動を停止させていく。
「景観に似つかわしくないな。落とそう」
オーガの足元に裂け目を作り、一階正門へと繋げて落とす。
わざわざ戦う必要などなかったのである。
「春人様は凄いです」
「当然だ」
そこでオメガから通信が入る。なんとなく嫌な予感を抱きながら、春人はそれに応じた。
『こおおらあああああ!! 春人くううぅぅん! なんかいきなりクマが降ってきたよ! 急に落ちてくるから驚いただろう!!』
「すまんな。処分は任せる」
『雑!? 扱いが雑だよ春人くん!!』
「オメガがんばれー」
『心がこもってなあああぁぁいい!!』
下から起きる大爆発。タワーがぐらぐら揺れている。
「まったく……もう少しスマートにできんのか」
『だああれのせいだあああぁ!!』
「これからデータのありそうな部屋を調べる。だめなら最上階に向かうから、引き続き敵の相手は任せた。期待しているぞ」
『ああはいはい。私が戦うって言ったのが悪いんだよねえ。はっはっは! こうなったら全滅させてやるぞ!』
そこで通信は途切れた。爆発は途切れない。春人はオメガの気が済むまでやらせておこうと決めた。
「春人様。エレベーターが来たよ」
エレベーターが春人達のいる階で止まる。そして中から出てきたのは。
「ふっ……やはりいたか。お約束だな」
オーガと同じ機械のパーツを全身に移植され、目から生気が消えた人間達であった。
「どうせ出てくると思っていたぞ、人型オーガよ」
「テンプレ?」
「テンプレだな。あとはゾンビのような動きの遅いものか、それとも」
口を大きく開け、ガトリングガンを撃ち出すもの。
体中から飛び出す刃を振り回して突っ込んでくるもの。
その種類は意外にも多彩。春人を飽きさせない。
「素早く動く戦闘マシーンか、だが後者だったようだな」
「どうするの?」
「あれはもう人間ではない。潰すぞ」
「はーい」
銃弾をかわし、軽く殴りつけ強度を測る春人。
その手ごたえと破損具合から、大型オーガ未満であると推定。
「内部も見ておこう」
敵の腕を切断し、腹を切り裂き体内を調べてみる春人。
人体と機械をどう繋げているのか、どうやって動いているのか。
それは解明しなければならない。好奇心もあった。
「内臓が存在しない……血液は何か別の液体だな。もう少しサンプルが必要だ」
体内は特殊な伸び縮みする素材と、青色に光る液体で作られている。
オーガはうめき声を上げることもなく、痙攣することもなく機能を停止するだけだ。
完全に機械そのものである。
「いっぱい捕まえておいた」
「よくやったアルファ」
人型オーガの攻撃を無効化し、解析を続ける春人。
あらかじめ貰っていた端末を繋げ、楽園へとデータを転送する。
あくまで潜入任務なのだ。殲滅作戦ではない。
「シーラ。データは届いたな?」
『はい……人型とは悪趣味な……』
「こいつらの顔に見覚えは?」
『解析中ですが、私はまったく……楽園の住人ではない可能性もありますし』
「ただ人間を真似て作っただけの可能性もあるか」
『これだけのオーガをどうやって呼んだのでしょう。送られたタワーの内装はごく普通。そもそも大型オーガを大量に収容するには狭いはずです』
「まだ行っていない上か、もしくは地下室でもあるのか。いずれにせよここまで来たんだ、まず最上階まで行ってみるさ」
そこで全オーガが機能を停止。タワーの証明が全て消えた。
「なんだ? どうなっている?」
「春人様、あれ」
アルファの指差す先には、まるで誘導するように、そこだけ照明がついている。
ぽつぽつと光る照明を目で追えば、口をあけているエレベーター。
「乗れと言っているのか」
『危険です。罠に決まっています』
「罠であることは間違いないだろう。だが、危険ではない」
『なぜ言い切れるのです?』
「俺だからだ」
春人は本気で、心の底からそう思っている。
他人が聞けばアホ丸出しの理由だが、春人にとってこれ以上ない理由なのだ。
「シーラ、大丈夫。任せて」
「ちょうどいい。黒幕がいるのであれば会ってみたい。潜入はばれてしまったようだしな」
『どの口でそんなことを……』
「ここに、オーガが集っている理由、調べてくるね」
『…………必ず生きて帰ってきてください』
「当然だ。行くぞアルファ」
「ごーごー」
そしてエレベーターに乗り込んだ春人とアルファ。
すでに最上階行きのボタンが光っていた。
「さて、精々俺を楽しませて欲しいものだ」
「なにがあるかな。楽しみ」
二人に恐怖など微塵もない。ただ好奇心と観光気分だけで動いている。
そして、招待されるままに最上階へ。
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