第22話 春人 シキガミの戦闘を見学する
対オーガ組織シキガミ。彼らの戦闘は実にスムーズに進んだ。
まず罠を張り、建物の三階からグレネードランチャーによる一斉射撃。
怯んだ相手へ銃弾を浴びせ、それでも生き残った敵を地雷原へと誘導し爆破。
「よしっ! 順調順調!」
「なかなかの手際のよさだ。褒めてやろう」
初めにグレネードの爆風で雑魚を散らす。
「換装!!」
グレネードランチャーが光に包まれ、マシンガンやライフルに変わる。
爆発に耐え切った敵へ、特殊な弾丸を撃ち込み怯ませるのだ。
そのうえで罠にかけた時点で本来なら勝敗はほぼ決まるのだが。
「やっぱクマは頑丈だな」
「ええ、あれをどうにかしないと……」
巨大な黒いクマ型オーガ。その一匹だけは、たいした損傷もなくシキガミを睨みつけている。
「撃ってくるぞ!」
クマの両肩が開き、内部から砲塔が現れた。オーガはその生態が謎に包まれており、生物と機械の中間とでもいうべき存在だ。体内に兵器を隠していることも多い。
「面白いな。まるでガキのオモチャだ」
「言ってる場合ですか!?」
「総員退避!!」
隊長の声で一斉にビルから離れる。一瞬遅れて特大の砲弾がビルに直撃し、爆風と轟音を呼ぶ。
誰にも気取られることなく、春人は隊員達に降り注ぐ破片全てを振り払っておいた。
「なるほど。今回は砲弾か。ビーム以外にも存在するのだな」
シキガミと並びながら、楽しそうに観察する春人。
愉快なオモチャと戯れる子供のような顔である。
「まずいな。これだけの音を立てているんだ。増援が来てしまう」
「なるべく早く倒して戻りましょう」
「うっし、ここからは接近戦で一気にいくぜ!!」
アクセルの両腕についたチェーンソーが、電磁波を帯びて高速回転を始める。
「援護するわ」
ミリアがクマの関節や目を狙って動きを封じ続けた。
軽く怯むだけでも意味はある。
「銃弾が通用しない相手に近接戦闘が有効なのか?」
春人の疑問に部隊員の男が答える。
「武器を光で変えてるだろ? この光は特殊なエネルギーでな。オーガの装甲や皮膚に有効なんだよ。そいつを武器や銃弾に仕込んである」
「そうか。解説すまないな」
「いいってことよ」
「うおおおおおりゃあああ!」
無駄のない動きで振り下ろされた刃で、クマの大砲を一つ切り落としたアクセル。
意外にも大きな掛け声とは裏腹に隙も無駄もない動きである。
「ちぐはぐなやつだ」
「アクセルか? ああ、あいつは頼もしいやつさ。今何をすべきか、そこにどう自分の気持ちをぶつければいいか理解している。もうちっと甘えたい年頃だろうにな」
「アクセル、飛べ!」
「よっしゃ!」
アクセルが飛び降りたのを確認し、隊員が大きなパイルバンカーをクマに打ち付ける。
「ガアアアア!!」
初めてクマが痛みに声をあげる。それを好機と捉えた隊員達は一斉に近接攻撃を仕掛けた。
「まるでマグロの解体ショーだな」
「はっはっは!! そんなことを言うやつは初めてだ! 面白い感性してんなあにいちゃん!」
春人の隣で援護射撃を続ける男は豪快に笑う。
笑っているのに的確に弾丸を撃ち込み続けている。
この男もまた、ベテランであると春人は思った。
「支援部隊から通信! 小型オーガの群れと遭遇したそうです!」
「ちっ、何人か援護に……」
「問題ない。このまま戦え。アルファ。聞こえるか?」
インカムと目の前に浮かぶ立体映像で通信を始める春人。
呼びかけにすぐ応じたアルファは、笑顔で春人と話し始める。
『なあに春人様? ご用事?』
「怪我人を出したくない。殲滅しろ。力を使っていい」
『わかった。アルファはやればできる子』
「ああ、知っているさ。俺のアルファだからな」
『嬉しい。アルファのテンションがマックスだよ』
そこで通信は切られた。二人にとってはそれで十分である。
これも取るに足らない気まぐれの一部でしかないのだから。
「これでいい。こちらに集中しろ」
「いいのか? あのお譲ちゃんだろ? 装備もなしに」
「必要ない」
断言した。そこに説得力があるかは、接した人間の判断によるだろう。
だが、不思議と男は納得した。本能で感じ取ったのである。
「ちいぃ! くっそ、このおおおおぉぉぉ!!」
会話中にもアクセルはひたすらクマと格闘していた。
多少の擦り傷はあっても、致命傷はない。そこに戦闘センスの片鱗がある。
「あとちょっと!!」
既にオーガの外装は剥がれている。あとは致命傷を与えるだけ。
だがそれが難しい。手負いの獣は狂ったように暴れだし、何者をも近づかせまいと荒れ狂う。
「まずいな。このままじゃ前衛に被害が……」
「よかろう。ここからは俺が行く。俺のチャーハンを美味いといってくれた礼をしてやる」
そして春人は次元の裂け目へと消えた。
「頼むぜ、新入り」
暴れだしたオーガの動きはもう攻撃と呼べる行為ではなかった。
叫び声を揚げながら転がり手足をばたつかせる。泣きじゃくる子供の様でもあった。
「くっそどうすりゃいいんだよ!!」
「焦ってはだめよアクセル。あいつの体力がなくなるまで待ちましょう」
「その必要は無い」
アクセルの横に現れる春人。この時、既にオーガは動くことを許されない。
「無職童貞流奥義――絶刀次元断だ」
次元の裂け目がオーガの間接にくっつき、身動きを取れなくしている。
正確には次元の先へ手足や腹部を移動させ、上半身と首だけにしているのだ。
「なんだありゃ!? 手足はどこいったんだよ!」
「上だ」
「上って……えええぇぇ!?」
遥か上空でバタバタと動く手足。遠目にもクマのものだとわかる。
「とどめは譲ってやる。決めて来いアクセル」
「なんだかわかんねえけどいってやるぜ!! ミリア! サポート頼んだぜ!!」
「ああもう……やってやろうじゃない!!」
必死でもがくオーガの口目掛けて銃弾を打ち込むミリア。
ほんのわずかに停止した隙を見逃さず、アクセルと近接部隊が突進。
「うおおおおおりゃあああぁぁ!!」
四方からのパイルバンカーで弱らせ、アクセルの刃が音と光を発しながら、オーガの首を切断した。
「いいよっしゃああぁぁ!!」
裂け目から手足の戻ったオーガは、もう二度と動かすことができない身となった。
完全に活動を停止。死んだ……いや、アクセル達シキガミに倒されたのだ。
「見事だ。褒めてやるぞ」
軽く拍手しながらアクセルに歩み寄る春人。
「ありがとな! でもユウキはすげえよ! なんだよさっきの!」
「ヒマがあれば説明してやる。まずは無事を報告に帰るんだ」
「そうだぜアクセル。はしゃぎすぎて転ぶなよー」
「わーかってるって!」
他の隊員達もアクセルと笑い合う。決着がつき、心に余裕が生まれたのだろう。
「あ、そうだ! 支援部隊はどうなったんだ?」
隊員の一人が思い出したように口にする。
「問題ない。アルファがいる」
「うん、アルファがやっつけたよ」
声のした方からアルファと支援部隊がやってくる。全員無傷だ。
「お疲れ様アルファ。帰ったら俺の料理を振舞ってやろう」
「ありがとう春人様。でもアルファは一緒にお風呂かお昼寝がいいです」
「アルファは欲張りさんだな。いいぞ全部やろうか」
「やったね。アルファのテンションが有頂天になったよ」
普通にいちゃつく春人とアルファ。だが攻撃部隊は納得いかないようで。
「なあ、あの子なにやったんだ?」
「あの子が倒したってのは本当なの?」
支援部隊に質問するものが後を絶たなかった。
「オレ達にもよくわかんねえんだ。山ほどいたオーガの足元から木の根とか、花が出て」
「花? この廃墟でか?」
「ああ、そうしたらその根っこがオーガに絡まって……その……」
「オーガの体を貫いて、真ん中から左右に引きちぎった……が正しいかしら」
「…………そいつはホラーだな」
オーガをいとも容易く貫き絶命させる植物。それはもうホラーだろう。
アルファを知らない者からすれば、新たな危機ととらえられてもおかしくはない。
「なぜそんな戦い方をした?」
「アルファは廃墟が寂しかった。だからお花を植えて、オーガも倒す。だめだった?」
「いいや。アルファは優しいな」
優しく微笑みアルファの頭を撫でる春人。
「いや……花を植えられたオーガが痙攣して干乾びていったぞ……最後なんて爆発したし」
「失敗した。オーガはお花の養分にすると、機械の部分が爆発する」
「そうか。これでまた一つ賢くなったな」
「それでいいのか……まあ助けてもらったし……ありがとうねアルファちゃん」
アルファはその微笑で全てを癒す。食っちゃ寝しているオメガとは対照的に、アルファの人気は上がっていた。
「アルファはやればできる子」
胸を張るアルファを連れて、シキガミは全員無事生還。
春人とアルファに感謝しながら、今日を生き延びたことを喜ぶのであった。
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