第13話 その2 戦闘機を乗り回す

 二枚の翼と丸っこいフォルムの小型戦闘機に乗り込んだ春人へ、旗艦のトートから通信が入る。


『春人、その小型戦闘機はレーザーバルカンと誘導ミサイル。突入用特攻ドリルがついている』


「ふむ、ゲーセンにあるロボットを動かすやつと同じだな」


『ああ、わざわざ似せて作った。バルカンとミサイルで小型機を落としながら、敵の戦艦にドリルで突っ込んで、内部に侵入してくれ。スニーキングミッションにするか、敵をなぎ倒すアクションゲームにするかは任せるよ。気分で選んでくれ』


「かっこいい。アルファもやってみたいです」


『二人で操縦できるよ。ペルセ……アルファは通信とミサイルを担当してみたらどうかな』


 戦闘機は横に並んで乗るタイプだ。

 しっかり二人乗りであり、操作を分担できるように設定されている。


「気に入った。春人勇希、出るぞ!!」


 この男、ノリノリである。言ってみたかったセリフを宇宙戦で使うことが出来て、気分はまさに有頂天。やる気に満ちていた。

 敵にとっては死期が早まる悲報であることは言うまでもない。


「がんばって春人様のお役に立ちます」


「ああ、頼りにしているぞアルファ」


「頼りにされます」


 早くも操作に慣れ始めた二人にレーダーから警告音と、敵の接近を知らせるデータが届く。


「春人様。右斜め上から四機」


「任せろ。親の金でゲーセンに通い詰めた俺の圧倒的操作テクニックを見せて、いや魅せてやろう」


 操縦桿を操る春人はまさに歴戦の勇士であった。敵のレーザーを巧みに避け、すれ違いざまに自機に搭載されているレーザーバルカンで四機とも撃ち落とす。


「次。十一時方向。主砲来ます」


「ふん、小癪な真似を……」


 戦艦の主砲は、小型機とは比べ物にならない威力とサイズで春人を襲う。

 直感と機体性能に任せて回避し、砲撃の軌道から距離を取る。


「トート、レーザーは直線にしか撃てないのか?」


『ああ、ホーミング機能はついていないよ。ある程度やりごたえのあるゲームの方が面白いだろう?』


「春人様。アルファがやる。春人様はまっすぐ狙って」


「期待しているぞ」


「アルファはやればできる子。ロック完了。発射」


 ロックの完了したミサイルは、的確に戦闘機を撃ち落とす。

 レーザーでは撃ち落とせない角度からの攻撃を予知し、先手を取り迎撃していく。


『よし、こちらも援護する。主砲発射用意!』


「トート、敵艦隊からおっきなミサイルがたくさん来てる。チャージは間に合う?」


『小型機に迎撃させるさ』


「なら手伝ってやろう。撃ち落とすくらい造作も無い」


『いやあ君がいると捗るね』


「いちいち言わなくてもわかりきっていることだろう」


『はっはっは!! そうだね! いいねいいね楽しいね!!』


 トートも戦いは嫌いではない。友人でありライバルだと思っている春人とともに戦えるという事実が、一層彼のテンションをあげていた。


「無人小型機、数三十八。ミサイルで迎撃できるのは半分くらいです」


「好きに撃て、合わせてやる」


『春人、主砲で薙ぎ払う。その隙に奥の緑色の戦艦、二番目に大きいタイプのだ。あれに突っ込んでくれ。中に入ったら追って指示を出す。インカムはつけているね?』


「当然だ」


「アルファもつけてるよ」


『よし、各員衝撃に備えろ。主砲発射!!』


 先程敵艦が放ったビームを超えたエネルギーが春人の横を通過し、敵戦艦までの道を作る。


「突っ込むぞアルファ」


「春人様とならどこまでも。特攻ドリルスイッチオン。耐衝撃魔法展開開始。いいよ、春人様」


「いくぞ!!」


 先端のドリルが高速回転し、魔力によって戦闘機を巨大な一つの渦に変えた。

 その勢いを止める術のない戦艦は、ただ横っ腹に突っ込まれることを受け入れるしかないのである。



「ふむ、ここは通路か?」


 ドリルの口が開き、そこからアレスの戦艦内部へと侵入した春人とアルファ。

 トートの戦艦とほぼ照明も壁も同じものである。これはアレスとアテナの戦艦を模して、トートの戦艦が作り出されたバージョンアップ版であることが理由であった。


『二人とも聞こえるかい? そこは船の真ん中くらいだ。ナビ付きマップ魔法を出す』


「聞こえるよー」


『よし、そこから右の大きな部屋へ向かってくれ。そこにある転移装置を起動させるんだ』


 二人の顔の横に小型の幻影魔法で作り出されたミニマップが表示され、目的地の丸印が点滅している。最短ルートも表示される親切設計だ。


「了解した。春人勇希。これより任務を開始する」


「春人様楽しそう」


「こういうものは雰囲気が大切さ」


 マップを見ながら訪れた室内は、まるでドーム球場のような広さであった。

 春人達の行動は予測されており、室内には機銃を構えた天使兵が待ち構えていた。


「来たぞ! 撃て撃てー!!」


 魔力を込めた銃弾が容赦なく射出される。それを裂け目に飲み込ませながら、春人は反撃に転じた。


「敵か。まあ当然だな。無職童貞流、お天気奥義――――天候休暇(てんこうきゅうか)」


 天候休暇。それは誰もが一度は思い描いた理想。なんとなく学校に行きたくない朝。今日が台風なら……十年に一度の豪雨雷雨……大雪でもなんでもいい。休校になるほど天気よ荒れろ。そんな全生徒の願いを春人は人一倍本気で願っていた。

 そしてその強すぎる休みたいという想いは、天候を自在に操る力へと昇華した。

 その時、外は台風でも、春人の心は東京の青空よりも晴れ渡っていた。これぞ合法的に家でだらだらできる、学生にも社会人にも優しいお天気奥義である。


「天気などない宇宙での雷雨。乙なものだろう?」


 暴風と雷が縦横無尽に室内を駆け巡る。兵士も予想外の攻撃に対処が遅れ、逃げることもかなわず大半が雪の中に埋もれた。残る少数はまだ戦う意志を見せているが、殲滅は時間の問題である。


「アルファもやる」


 アルファが杖を振る。それだけで美しい花々が雪の上に咲き乱れ、その花粉は触れたものを確実な眠りへと誘う。女神の力で作られた花粉には、分厚い宇宙服などなんの意味もない。兵士達は抵抗することも出来ずに雪と花の中で眠りについた。


「ゆっくり寝て。おやすみなさい」


「この雪の中で咲き誇る花か……美しいな」


『春人、アルファ、そこに大きな転送装置があるだろう。それで上階へ行くんだ』


「了解した」


「いえっさー。アルファ、任務続行します」


 アルファも乗り出した。円筒形の数十人同時に入ることが出来そうな転送装置に乗り、上階へと降り立つ春人達に、今度は青い魔力の網が襲い来る。


「来たぞ! 電磁ネット作動!」


「ほう、味な真似を」


「ぴりぴり。おもしろいです」


 数千万ボルトの電撃の網は、本来数秒で対象を灰へと変える。

 だがアルファは女神だ。その程度の電気では低周波治療器以下の役目しか果たせない。春人は凄いから通用しない。少し不可解なことや不思議な事が起きても春人だからで解決する。


「興味深いな。少し貸せ」


「貴様いつの間に!? やめろ離せぶおわあ!?」


 ネットから抜け出し、兵士を殴り飛ばして銃を奪う。

 宇宙戦争で使われる銃に興味が湧いたのである。


「ふむ、構造は銃火器と似ているが……これがエネルギーか。つまらん。誰でも使えるようになっている分、特別な強さもないな」


「手順も知らぬくせに解体しただと!?」


 一目見て構造を理解した春人はそれをバラバラに分解し、調べている。最初こそまじまじと観察していたが、地球の銃とほぼ変わりなく、マガジンの代わりに特殊な力を蓄えるタンクがあるだけとわかり、興が冷めたようだ。


「もういい。飛べ」


 一点に凝縮された暴風の弾丸で、全員を部屋の端まで吹き飛ばし、一瞥もせずに転送装置へと向かう。


「アルファ、次の階に行くぞ」


「春人様。あれ乗りたいです」


 アルファの指差す先には三メートルはある人型兵器があった。

 二本の足から肩までが特殊金属で出来ており、人間であれば必須の首や頭はない。

 胴体部分を繰り抜き、座席が設置されたタイプで、ペダルとレバーで操作する二人乗りの兵器である。


「よし、一緒に乗るか」


「やったね。アルファのテンションがここにきて急速な上昇を見せるよ」


『神力兵器か。右の赤いスイッチで起動。レバーとペダルで移動。スイッチひとつで発射できる両肩のガトリングと手のひらから出るビームに、かかと部分のローラー。背中のホバーでの移動や格闘戦もできる。好きに遊んでくれ。次の階には中ボスが居るよ』


「起動完了。アルファ、まっすぐ転移装置まで行くぞ」


「はーい。はっしーん」


 アルファが移動操縦を、春人が兵器関連を操作することにして、意気揚々と上階へ進むのだった。

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