第8話 俺、人化する!

 扉を開けて次に入った部屋は俺の部屋の目の前にある白い扉の部屋。

 まぁ、目の前って言っても廊下の幅が物凄く広いんだけどね。


 この扉の奥に玉兎が…すっげぇドキドキしてきた。


 ティフラインがノックすると中から返事がした。鈴の音の様な綺麗な声だ。一瞬ドキッとしたのは言うまでもない。


 失礼します、とティフラインが入ると、白い空間に黒いカーテンや家具の置いてある部屋が目に入ってきた。

 対の存在だからか、俺の部屋と反対の配色になっている。


「フィオナ様、本日八咫鴉様がお生まれになられたのでお顔合わせにと、こちらにご案内させて頂いた次第で御座います」


『あら、遂に生まれたのね!早く見せて?』


 声を辿ると、黒いソファーの上に白い毛玉がある事に気付いた。良く見ると赤い目がちょこんっとついている。

 ティフラインがソファーの近くまで寄ったので、俺は肘掛けに下り立った。


「初めまして、私はフィオナよ。宜しくね」


「カァ!」


 玉兎…フィオナはどうやら言葉が喋れるらしい。俺は喋れないので、挨拶の代わりにお辞儀した。


「ふふっ随分礼儀の良い子ね。生まれたてはまだ言葉が喋れないから大変でしょう?私が教えてあげるわ」


 おお!やっぱり練習すれば俺も喋れる様になるみたいだ。是非お願いしたい。

 フィオナは一旦ティフラインを下がらせると、いきなり人の姿になった。

 白銀の透き通る様な髪に、真っ赤に燃える様な瞳が綺麗な女性に早変わり。顔はかなり整っている。正直言って、俺惚れちゃいそう。


「さぁ、始めましょうか。まずは私の様に人化して見なさい。その方が早いわ」


 唖然としてる俺を余所に、フィオナは平然とそう言った。


「カ…カァ……」


「ほら、人型を思い浮かべて」


 フィオナが勝手に話を進めて行くので、仕方なく俺もやってみる事にした。


 頭の中で人型、人型、と人間の姿を思い浮かべてみると、はっきりと一人の少年の姿が浮かんだ。

 漆黒の艷やかな髪に金色の瞳を持つキレ目のクールな美少年。黒い服も着てるみたいだ。

 それになりたいと強く思うと、身体から不思議な力が溢れ出して来た。


「それが魔力よ」


 フィオナが言う。

 なるほど、この世界には魔力があるのか。だから俺達は人化する事が出来るんだな。

 そう納得していたら、何か違和感を感じた。視線が高いのだ。まさかと思い身体を確認すると、やはり人型になっていた。人化の成功だ。


「おめでとう。これで魔力の使い方も分かったかしら?」


「ありがとう。たぶんだいじょーぶだとおもう」


 俺の口から出た声は若干高めの幼さが残る声で、言葉も上手く喋れていない様に思う。

 まだ慣れていないからだろう。


「んふふ〜可愛いっ!」


 フィオナがバッと腕を大きく広げていきなり抱き着いて来た。

 く、苦しい……。

 必死に腕の中でもがいていると、それに気付いたフィオナが慌てて俺を放した。

 く、苦しかった……。


「ごめんねっ可愛くてつい……」


「だ、だいじょうぶ…」


 絶世の美女に抱き着かれるのは嬉しいが、この小さい身体じゃ抵抗も出来ないから虚しくなってくる。俺は少し、フィオナから距離を置いた。

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