始まる予感と終わりの始まり

 「この世界には二つの月があるの」

ーーその言葉には、不定形な世界への彼女なりの挑戦の意思というべき、強いまなざしがあった。いつも高い所で佇む君。人と距離を置き歪な世に抗う者の目を持つ彼女のことを、ぼくはまだ何も知らなかった。

ーー名前さえも。

 「あの緑の月には月齢はない。満月だけ。地球の衛星でもない」

 「衛星じゃない?じゃあ、あれは…」

 あれは、なんだ?

 「あの月は、想像力の源。イメージの象徴。だから守らなければならない。想像力を殺すやつらから」

 「守るってことは……戦わなくちゃならないということ、なの?」

 おそるおそる、慎重に、深入りしすぎず、聞いてみる。ぼくはこれからーー

 「なにをすれば、いいのかな」

視線が合う。秘密を共有する高揚感と緊張がぼくの身体の走る。彼女も同じなのだろうか?

 「まだ、今は何かを言える段階ではないけど……」

 少しだけ、柔らかい口調になる。

 「だから、お願いだから、こっちへきて。」ぼくの立っているところはビルの屋上の塀、落ちたらまず助からない。

 「死にたいわけじゃないよ。ただ生きることが虚しかっただけなんだ」

 塀から下りて、屋上に降りる。

 「ぼくの人生、展開するかな?」

 「見え方次第で、いくらでも」

 虚無との別れが、希望を紡ぐかもしれない。

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