第24話迎えに行くニャ
【森】
〈千代子婆ちゃんに貰ったお菓子を食べながら猫魔が森に入って行く〉
「婆ちゃんのお菓子は美味いニャ」
【洞窟】
〈小倉杏と妹のもなかが出口に向かっている。後ろを振り返るぴーちゃん〉
「どうしたの?ぴーちゃん」
「ぴー」
「まさか、追っ手?急ごう、もなか」
【古城のバルコニー】
「ねえ、お姉様。もしかして光さんの事好きなんじゃない?」
「え?」
「ビンゴー」
「でも…」
「身分違いか」
「(あの方は光の神様…いずれ天界に帰ってしまわれるのだわ)」
「身分て邪魔よね。アタシはまだ自由だけど、お姉様は女王だし」
【フランツの丘餡先生の療養所】
「俺の番はまだかな?」
「ちゃんと並べよ」
【施術所】
「今日も騎士達で一杯ね」
「次の方どうぞ」
「あら、騎士隊長さん」
「あ、その…」
「隊長さんも満ちゃん目当て?もう、いい加減にしてよね」
「ち、違う。断じて違う」
「はい、座ってください。背中の傷を見せて」
「騎士隊長殿のお目当ては、餡先生だよな」
「え?私?まさか」
「あら、背中が真っ赤よ」
「隊長、顔も茹でダコみたいに真っ赤ですよ」
「こ、こら。余計な事を」
「へー…でも、奥様がいらっしゃるんでしょう?私そういう人は…」
「居らんよ」
「だいぶ良くなってるわ。もう少しで治りそうね。清潔にしてくださいね」
「は、はい」
【洞窟】
「お姉ちゃん、出口!」
「ぴー」
「走るよ」
「うん」
【洞窟の外】
〈洞窟から出て振り返る小倉姉妹。ぴーちゃんは飛んで周りの様子を窺う〉
「ぴー」
「行こう」
【川】
「お姉ちゃん、疲れた」
「少し休もうか。でも、追っ手が来るから、ちょっとだけよ」
〈少し休むとまた川上の方へ歩き出す〉
【洞窟】
「ドリアン男爵、急いでください」
「わかってる、この化け物を何とかしろ!」
「洞窟にコウモリは付き物ですよ」
【フランツの丘の療養所】
「ふー、やっとひと段落ついたわね。満ちゃん疲れたでしょう?少し休みましょう」
「私は大丈夫です。ここを片付けてから…あっ」
「ほら、無理するな」
〈フラッとする満を抱き留める光の神〉
「(お兄ちゃんの胸、温かい)」
「(はっ、またか。この物狂おしいようなこれは…この身体の持ち主の物なのか?それとも…私…?)」
「もう、兄妹で、なぁにー」
〈サッと離れる二人〉
「はーい、次の方。柏木餅さーん」
【川】
〈ぴーちゃんが舞い上がり旋回する〉
「ぴー、ぴー」
「え?何?追っ手?」
「飛んでっちゃった」
「あっちに行くって事は違うわね」
〈ぴーちゃんが舞い降りて行くのが見える〉
「何してるのかな?」
「おーい、杏ちゃーん。そこに居るにょか?」
「猫魔じゃない」
〈ぴーちゃんを肩に乗せて猫魔が来る〉
「迎えに来たニャ」
「猫ちゃん?」
「猫まんまちゃんよ」
「違うニャ、猫魔ニャ」
「同じようなもんじゃない」
「全然、全く、違うのニャ」
「アハハ。迎えに来てくれてありがとう、猫魔ちゃん」
「もなか、怖くないの?妖魔だよ」
「怖くないわよ」
「俺は優しいニャ」
「自分で言ってる」
「餡先生の療養所に行くニャ。皆んな待ってるニャ」
〈カサカサと木の葉の揺れる音。猫魔が警戒する〉
「どうしたの?猫魔ちゃん」
「ぴーちゃんと、そこに隠れて居るニャ」
「もなか、おいで」
〈小倉杏は小倉もなかの手を引っ張って岩陰に隠れる〉
「まだその辺に居る筈だ、探せ!」
〈ザッハトルテ軍の兵士の声〉
「おっ、お前は!」
「ここから先は通さないニャ」
「裏切り者を捕まえに来たんだ。腕ずくでも通してもらうぞ」
「気をつけろ。そいつはあのドラゴンを倒した妖魔だ」
「何をしている!そんな化け猫の一匹や二匹、さっさと片付けてしまえ!」
「し、しかし、ドリアン男爵。こいつはあのドラゴンを」
「ええい、うるさい!早く始末しろ!この腰抜けどもめ!」
【ザッハトルテの屋敷】
〈祈祷師の体を借りた魔道士の魂が魔物を召喚している〉
「そうだ、出ておいで、可愛いモンスターよ。そしてあの者達の息の根を止めるのだ」
「今度こそ強い魔物を召喚してほしいものですな」
「この祈祷師め、私を誰だと思っている」
〈一つの体一つの顔。その顔がコロコロ変わり声も変わって会話している〉
「わかっていますとも、昔この世界を混沌とさせた大魔道士様」
「もうすぐだ、もうすぐあの方が復活する。もっと負のエネルギーを集めるのだ」
「今度はあんな神に負けない立派な体を差し上げますからな、大堕天使様」
「研究は進んでいるのか?」
「あらゆる生き物の細胞を採取して有ります。後はバイオで」
「そのバイオとやらで私も再び肉体を手に入れるぞ。フハハハハハハ」
【川】
〈ザッハトルテ軍の兵士達が倒れている〉
「だらしのない奴らめ」
「後はお前だけなのニャ」
「ま、待て待て」
〈後ずさるドリアン男爵。猫魔が空を見上げる〉
「ギャアァァァァーーー!」
「な、何だ?あれは」
「青いドラゴンニャ」
「ひーーーっ!!」
〈ドリアン男爵が逃げて行く〉
「逃げちゃったよ、良いの?」
「出て来ちゃダメなのニャ」
「もなか、大人しく隠れてなさい」
「ギャアァァァァ!」
〈青いドラゴンが水を吐きかける。猫魔はピョンピョンと飛んでかわす〉
【天上界女神の泉】
〈水面に下界の様子が映し出されている〉
「ったあくう。騎士達が鼻の下伸ばして満目当てに療養所に集まってやがる」
「ちょっと、光君。大変。フランツの森を見て」
「あん?何だよ血相変えて」
「やっぱり。青いドラゴンが召喚されたのね」
「マジか?またドラゴンかよ。今度はどんな奴だ?」
「水のドラゴンよ。水を凍らせたりもするの」
「あ、本当だ。猫魔危ねえ!」
〈ドラゴンが川の水を凍らせて鋭い氷の剣が突き上げる〉
【川】
「危ニャい!」
〈ウェイブのように突き上げる氷の剣が杏達の隠れて居る岩陰に迫る。猫魔がサッと二人を抱き上げて逃げる〉
【天上界女神の泉】
「おわっ、あっぶねえ。間一髪だったな」
「猫魔なら大丈夫よね?きっと大丈夫」
「猫魔相当怒ってるな。おおっ、毛が逆立って来たぞ。そろそろ変身かあ?今度の必殺技は何だ?」
「光君。面白がってる場合?」
【川】
「ぐぁー!もう許さない。たとえ天の神様が許しても、お前だけはこの俺が許さないぞ!!!」
「ニャって言わないのね」
「猫魔ちゃん変身したよ」
「凄い強そう」
「カッコいい」
「必殺三色モナカーーー!てえーーーい!!!」
【天上界女神の泉】
「三色モナカだって。千代子婆ちゃん今回最中作って持たせたのか」
〈水面には毛を逆立てて怒る猫魔の姿が映し出されている〉
「なんか…最中が飛んでるけど、どこが三色モナカなんだ?」
「あっ、餡子が飛び出したわ」
「おおっ、小倉餡に白餡にうぐいす餡だ」
「良く見なさいよ。ほら、ちゃんと最中の皮も三色になってる」
「さっきのは違ったぞ」
【川】
「ギャアァァァァーーー!!」
〈ドスン!!と川の中に倒れる青いドラゴン。自分の作った氷の剣が体に突き刺さる〉
【天上界女神の泉】
「倒しちまった。三色モナカで」
「食べてみたいわ。って!言ってる場合じゃなかった。次はどんなモンスターで来るのかしら?」
「まあさ、とりあえず倒したし、良いじゃねえか。意外と弱かったな」
「ううん、猫魔がパワーアップしてるのよ。猫魔の本当の力はこんな物じゃないわ。底知れないの」
「そろそろ本気出してもらわねえとよ。その、あの者って奴が復活したら相当ヤバいんだろ?」
「まあね、ヤバいなんてもんじゃないわよ」
「人間界が消滅する程の恐ろしい力です」
「うわっ、女神様居た」
【川】
「怪我はにゃいか?」
「元の猫魔だ。言葉も戻ってるわ」
「歩けるかニャ?」
「大丈夫」
「あいつらあれで諦めると思えないわ。追っ手が来ないうちに早く行きましょう」
【天上界女神の泉】
「爺さん、じゃねえ大神様はよ?なんとかしてくんねえのかよ?」
「また深い眠りに入られたわ」
【フランツの丘餡先生の療養所】
「遅いな、姉ちゃん」
「大丈夫だ。猫魔が迎えに行っている」
「それにしても時間がかかり過ぎじゃない?」
「何か有ったのかしら?」
「もなかも連れて来るかな?俺が置いて来たから、俺のせいでもなかが、もなかが」
「大丈夫よ。杏ちゃんの事だもの、もなかちゃんを放って来たりしないわ」
「ただいまニャ!」
「猫魔ちゃんの声」
「ほら、帰って来た」
〈餡先生は優しくアイスに微笑みかける。それでも不安そうな顔のアイス〉
「お兄ちゃん!」
「アイス」
「もなか、姉ちゃん!」
〈アイスは二人の所へ駆け寄る〉
「猫魔ちゃんが助けてくれたんだよ。大きな青いドラゴンをやっつけちゃったの」
【魔界】
〈谷底から目が光っている〉
「誰だ?俺を呼ぶのは?俺の眠りを妨げるのは誰だ?フン、おおかた、あの魔道士だろう」
〈谷底に真っ黒な負のエネルギーが集まっている〉
「またこの俺を復活させようと言うのか、面白い。待っているが良い、光の神。小賢しい妖魔猫魔よ」
【古城】
〈バタバタと武装した騎士達が出て行く〉
「何事です?」
「ザッハトルテ軍が、フランツの町まで攻めて来ています」
「何ですって?!」
「フランツにはショコラ様が居られるのですぞ」
「町の人達をここへ避難させてください」
「承知致しました。ショコラ様は必ず無事にお連れします」
「町の人も、全て無事に」
〈頷く騎士隊長。クルッと向きを変えて早足で出て行く〉
【フランツの丘】
「ザッハトルテ軍がフランツを占拠したってよ」
「騎士達が出て行くぞ」
「やっつけちゃってくれよ」
【餡先生の療養所前】
〈騎士隊長が馬を止める〉
「守って見せます。姫様も貴女も、そしてこのフランツの人々も」
「無事に…帰って来てくださいね」
「約束は出来んが」
「どうしてそんな事言うの?」
「騎士はいつも死と背中合わせなのだ」
「無事に帰って来たら、そしたら、デートしてあげるから」
「フッ、その言葉、覚えておこう」
〈馬を返してフランツに向かう騎士隊長の背中を見送る餡先生〉
【天上界女神の泉】
「そのよう、大堕天使ってそんなに悪い奴なのか?だってよう、全てあの爺さんが創り出したんだろ?なのに何だってそんなもんが出来ちまったんだよ?そこんとこどうも納得いかねえな」
「アレは、言わば副産物なのよ」
「副産物?何のだよ?」
「光の神の」
「う、う、う、うえーーーっ?!」
「何も無い混沌とした宇宙に生まれたただ一つの光。それが大神様。光が生まれる事で残ったのは闇よね、それが闇の神」
「それと同じだって言いたいのか?」
「そして光の神様が生まれる時アレがね…アレは光の神様の影なのよ」
「うわっ、うわぁーーーっ」
「もう、何よ、そのリアクションは」
「だから光の神はそいつに情けをかけるのか?」
「だからってわけじゃないんだけど…」
「もしかしたら改心するんじゃねえかと思ってか」
「そうね。その結果また同じ事を繰り返すんだわ。あの時心を鬼にして、徹底的消滅させておかないからいけないのよ」
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