第25話因縁の戦い

【フランツの丘千代子婆ちゃんの猫茶屋】


「猫まんま。これちょっと食べてみとくれ」


「お婆ちゃんこんにちは」


「おや、満。あんたも一つどうだい?」


「わあ、美味しそう。ありがとう、頂きます」


「猫まんま。こっちとどっちが美味しいね?」


「つぶつぶのも美味いけど、ツルツルのも美味いニャ」


「そうかい、そうかい。そりゃ良かったよ」


「この葉っぱは食べて良いにょかニャ?」


「それは香りを楽しむのよ」


「まあ、食べる人も食べない人も居るわな」


「私はそろそろ行くわね。早く戻らないと、ケガ人がひっきりなしに運ばれて来るの」


「フランツの町はどうなってるんだい?」


「騎士さん達が門を破って中に入れたみたい。上手く逃げ出せた人はお城で匿ってるわ」


「ここだって、いつどうなるかわかりゃしないね。あんたも気をつけるんだよ」


【餡先生の療養所】


〈満が戻って来る〉


「なあ、光、杵さんとこ行こうぜ。武器を鍛えておかねえとよ、ここだっていつあいつらが攻めて来るかわかんねえだろ?」


「そうだな。参るか」


〈療養所を出る2人を心配そうに見送る満〉


【杵さんの店】


〈中に入ると臼さんが金物屋の店番をしている〉


「いらっしゃい」


「杵さん居るかい?」


「奥に居るよ」


【店の奥の杵さんの仕事場】


「ふう、近頃は騎士達の武具の注文ばかりで大忙しだ」


「忙しついでに、俺達の剣も鍛えてくれよ」


「だから、忙しいって言ってんだろ」


「騎士達は皆んなフランツの町に行っちまってる。この丘を守れるのは俺達ぐらいだぜ」


「そうか、しょうがねえな。剣を出しな」


「水の魔法石を手に入れたんだ。付けてくれや」


「ああ、良いともよ。だけど、光の剣には魔法石は付かねえな」


「やっぱりか(まあよ、光は魔法石なんざ無くたって平気さ)」


「こりゃ本もんの水の魔法石だな。いったいどうやって手に入れたんだい?」


「猫魔に貰ったんだよ。青いドラゴンを倒した時見つけたらしいぜ」


【餡先生の療養所】


〈騎士達の治療をする餡先生と満〉


「もう、お兄ちゃんたら。こんなに忙しいのに早く帰って来てよ」


「フランツの町はどうなってるの?」


「ああ、まだザッハトルテ軍と睨み合いだ。だが俺達は負けないよ先生。隊長は先生との約束を守る為に頑張ってる。俺達だって待ってる人が居るからな」


「そうね。町の人を連れ出せたら必ずここへ連れて来てくださいね。心身ともに疲れ切っているでしょうから」


【天上界女神の泉】


〈水面にフランツの町の様子が映し出されている〉


「ザッハトルテ公爵め、いい加減にしやがれ。ヴェネツィーの騎士隊が田舎の軍隊に負けるかよ!」


〈光の天使が来る〉


「よう、爺さんはまだ起きねえのか?」


「起きるどころか、深い深い眠りの中よ」


「恐らく、負のエネルギーのせいでしょう。わたくしも具合が悪くなりそうです」


【魔界】


〈谷底から目が光っている。負のエネルギーが谷底に集まっている。黒い霊体が煙のように登って来る。霊体の目が赤く光る。その煙が蛇の様な龍の姿になる〉


「うるさい奴だ。待っていろ」


【ザッハトルテ公爵の屋敷】


〈祈祷師が呪詛をしている〉


「そうだ、呪いをかけて負のエネルギーを集めるのだ」


「はい、大魔道士様」


〈一つの体一つの顔。その顔が代わる代わる祈祷師と大魔道士の顔になって会話する〉


「蘇れ闇の龍よ」


〈黒い霊体が現れる。黒い霊体は蛇の様な龍の姿になる〉


「おお!遂に、遂に復活したか!」


「俺を呼んだのはお前だな。再び俺を呼びどうしようと言うのだ」


「決まっていよう。今度こそこの世界を征服する」


「その為にはどんな犠牲も厭わぬな」


「無論」


「望み通りにしてやろう」


〈そう言うと闇の龍は祈祷師の生気を吸い取る。祈祷師はバタッと倒れ死ぬ。その体から黒い霊体が出る。大魔道士の霊である。その霊体は人の姿になる〉


「久しぶりだな、大魔道士よ。ほう、そこに有るのが俺の新しい肉体か」


「ああ、そうだとも。お前の為に用意したのだ、有難く思え。闇の龍よ、お前が復活したら話して聞かせたい事が山と有った」


「そうか。だが、その必要は無い」


「何?うぐっ…」


「お前は俺の一部になるのだからな」


〈闇の龍は大魔道士の霊体を飲み込んだ〉


【天上界女神の泉】


「まあ大変、あの者が復活したようです」


「女神さん?何でわかるんだ?」


「感じるのです」


「女神様、私人間界に行って参ります」


「そうしてください」


「お前が行ってどうなるんだよ?」


「光の神様を手伝うの。あの時と同じようにはさせない、絶対!」


〈そう言うと光の天使は飛んで行く〉


【フランツの丘千代子婆ちゃんの猫茶屋】


「よう、猫魔。良くも飽きずに婆ちゃんの菓子食ってるな」


「くりきんとんも食べるニャ」


「俺は良いや。今は甘いもん食いたい気分じゃねえからな」


「じゃあ、神様が食べるニャ」


「神様だ?」


「ひ、光ニャ」


「頂こう」


〈猫魔が立ち上がる〉


「どうした?猫魔」


「奴が来るニャ」


「奴だぁ?」


〈光の神が立ち上がり空を見上げる〉


「何だよ、二人して…?」


「この気配はあいつニャ」


「闇の龍」


〈光の神の腰の剣が紫色の光に包まれる〉


「(来たか)」


「(間に合ったわね)」


〈テレパシーのように心の中で会話する光の神と光の天使〉


「(もうわかってるでしょう。アレが復活したの)」


「(ああ)」


「(今度はあの時みたいに情けをかけたりしないでよ)」


「(わかっている)」


「来る」


「来るニャ」


「団は危ないからどこかへ」


「ふざけんなよ!俺だって!俺にだって出来る事が有るだろ?お前と一緒に戦う」


「だが、これまでの相手とは違う」


「わかってらい!お前達見てりゃそれぐらい俺にだってわかる。一人でかっこつけんなや!死ぬ時は一緒だろ?!」


「(言っても無駄なようだ。それだけの覚悟が有るのなら共に戦わん。死ぬで無いぞ団殿)」


〈北の空から黒い物が覆いかぶさるように流れて来る〉


「くりきんとん!婆ちゃんを頼むニャ!」


「任せとけ!」


【天上界女神の泉】


「来やがった。どうすんだよ?どうにかならねえのかよ?女神さんよう。爺さんが寝てやがったって、あんただって神様なんだから何とかなんねえのか?」


「わたくしにはどうする事も…」


「そんな、そんな事いうなよ。助けてやってくれよ」


「光の神に頑張って貰いましょう」


「あいつかよ、頼りねえな。おーい、そっちの俺!しっかりしやがれ!お前にかかってるんだぞ!」


【フランツの丘】


〈闇の龍が姿を表す〉


「待たせたな、猫魔。借りを返しに来たぞ」


「何度来たって同じニャ。お前はまた魔界で眠るのニャ」


「魔界の奥の深い深い谷底で、あの暗闇の中でこの日が来るのをどれ程待った事か」


「来い!闇の龍(皆んな皆んな俺が守る。必ず守ってみせるニャ)」


【天上界女神の泉】


「始まったぞ。そいつは今迄の奴とは違う。すんげえ強えーんだ。だけど猫魔、負けんなよ。絶てえ、絶ーってえ負けんなよ」


〈水面に闇の龍と戦う猫魔の姿が映し出されている。ピョンピョンと飛び回って攻撃をよける猫魔〉


「うああっ!巻き付きやがった!猫魔ーーー!!!」


【フランツの丘】


「うぐっ」


「くそう!猫魔を離しやがれ!!えーーーい!!!」


〈栗金団は剣を振り下ろし切っ先から水の魔法を繰り出す〉


「はぁはぁはぁ、くそう、これぐらいじゃびくともしねえ」


「雷(いかずち)よ」


〈光の神は闇の龍に雷を浴びせる〉


「おおっ、水に濡れた体に雷が効いたみてえだな」


〈しかし猫魔は闇の龍に巻き付かれたままである。調子に乗って攻撃を仕掛ける栗金団に闇の龍の攻撃〉


「うるさいハエめ」


「ぐはっ」


「栗金団が吹っ飛ぶ」


「栗金団、栗金団!許さない、もう許さない。たとえ天の神様が許してもお前だけはこの俺が許さないぞ!ぐああああっ!!!」


【天上界女神の泉】


〈水面に猫魔達の姿が映し出されている〉


「よっしゃ!猫魔が変身したぞ」


〈猫魔は締め付ける闇の龍の体を振りほどく〉


「必殺桜餅ーーー!!!」


〈桜餅が舞う〉


「やったか?効いてねえのか?猫魔の必殺技だ、少しぐらい効いてんだろ?」


【フランツの丘】


「猫魔、俺は大丈夫だ、心配いらねえ。痛ててて…しっかし、猫魔の必殺技受けてもくたばりやがらねえか」


「猫魔ちゃーん。桜餅さっき二種類食べたでしょーう?」


「満、いつの間に?」


〈満が走って来る〉


「来るな!危ないから療養所に戻るのだ」


「嫌、お兄ちゃんや猫魔ちゃんが戦ってるのに」


「満ちゃん俺俺、俺も居るぜ」


「猫魔ちゃん。桜餅は二種類よー!」


「聞いてねえし」


「必殺、道明寺ーーー!!!」


「ぐはっ」


「今のはちょっと効いたみてえだな」


「だがまだだ。油断するな」


「猫魔ちゃーん、もう一つよー!」


「必殺長命寺ーーー!!!」


「ぐああああっ!!!」


〈ドスーン!!!と大きな音をたてて闇の龍が倒れる〉


「やったぞ!」


「猫魔ちゃんがまだ変身したまま…猫魔ちゃーん。もう良いの、もう良いのよー!」


【天上界女神の泉】


「満の奴…」


〈その時水面に微かに動く闇の龍の姿が映し出された〉


「己…あの…小娘…」


「うおっ!動きやがった。まだ生きてやがる。危ねえぞ!」


「こうしてくれる」


〈闇の龍は蛇のような赤く長い舌を伸ばして満を叩きつける〉


「キャー」


「満?満ーーー!!!」


【フランツの丘】


〈満を膝に抱く光の神〉


「満、満」


「お兄…ちゃん…」


「誰か!誰か餡先生を!」


「やめ…て」


「しっかりするのだ」


「こんな…危険な…所に…餡…先生を…呼ば…ないで」


「喋るな」


「餡先生は…怪我をした…騎士さんや…フランツの…人達を…」


「喋るな!」


「だから…こんな危険な…場所に…餡先生…は…来ない…で…ほしい…の…」


「何ですって?私はヒーラーよ。怪我人がいればどこへだって行くわ」


「餡先生、満が、満が」


「診せて」


〈満の胸に手を当ててヒーリングする餡先生。餡先生のエネルギーが消耗する〉


「(これは…もう…もう私には…)」


「泣かないで…お兄…ちゃん」


「ごめんなさい…私の力不足…」


「満?満、満ーーーっ!!!」


〈光の神の身体が金色の光に包まれる。紫月光の身体から光の神の霊体が抜け出る〉


「何だ?どうなっちまったんだ?」


「これが本当の光の神様の姿なのね」


【古城のバルコニー】


「今の光、あの物凄まじい光、あれは…(あの方が…そばに居たい。何もして差し上げられないけれど、そばに…)」


【フランツの丘】


〈紫月光は満の横に横たわっている。二人の亡骸を見る光の神。そして…〉


「あの時、お前に改心する猶予を与えようなどと考えた私が間違っていた。お前は私の魂の一部。父上が私を作った時、必要の無い部分を取り去った物」


「そうとも、同じ父に作られた一つの魂なのだ。それを!闇の部分はいらぬと、切って捨てられた。この屈辱がお前にわかるか?」


「お前は私の心の闇。お前と一緒に居たならば私は光の神では居られぬ」


「そうとも、わかっている。俺ももう疲れた。早く楽に、楽になりたい。お前の手で楽にしてくれ」


〈その時光の神の腰の剣から光の天使が語りかける〉


「騙されないで光の神。今アレが可哀想だと思ったでしょう?ダメよ。それがアイツの手なんだから(貴方は優し過ぎるの、でも、それが命取りになる時も有るのよ)」


〈光の神は目を伏せている〉


「満ちゃんは死んだのよ、そいつが殺したの」


「神様って何だよ?満も光も死んじまったじゃねえか!」


「満…すまぬ…」


「何なんだよ!おい!」


「団君」


〈光の神に掴みかかろうとする栗金団を餡先生が止める。そこへ闇の龍が光の神に蛇のような体を巻き付ける〉


「甘いな、甘い甘い、甘いわ!」


「神様!神様を離せ!」


〈猫魔が突っ込んで行く〉


「猫魔!!」


〈光の神の体が金色の光に包まれる〉


「うおおおおぉ!眩しい眩しいぞ!」


「猫魔今だ!やっちまえ!」


「必殺道明寺!!長命寺!!」


「ぐああああーーーっ!!!」


「光の神様、今度こそ完全に消滅させるのよ!」


「ゆくぞ光の天使!」


「はい!」


「でーーーぃ!!!」


〈光の神が剣を振り下ろす。緑色の風が竜巻を起こし闇の龍を飲み込んで行く〉


「猫魔!」


「花の舞い桜餅ーーー!!!」


「ぐあっ!ぐああああーーーっ!!!」


「やったぞ!」


【古城】


「姫様!いえ、女王陛下!猫魔様がやりましたぞ!」


「騎士達もです!フランツの町が解放されました!ザッハトルテ軍が引き上げて行きました!」


「そうですか(あの方はどうしていらっしゃるかしら?きっと…天に戻られるのだわ…)」


【墓地】


〈紫月光と紫月満が同じ墓の中に埋葬された〉


「くそ!あの野郎。光の神!帰っちまいやがった。猫魔も一緒に。寂しいじゃねえかよ!」


「団君。詳しい話しを聞かせてあげるわ。今晩は夜通し飲み明かしましょう」


「ああ、いつまでもメソメソしてたってあいつらは喜ばねえもんな」


【天上界女神の泉】


「お兄ちゃーん」


「満!」


「こっちが本物のお兄ちゃんね」


「ああ、正真正銘本物の紫月光だ」


「光の神様も優しくて良かったけど」


「おい!」


「フフフ」


「満、兄ちゃんに会えたニャ。これで良かったみたいにゃニャ」


「猫魔ちゃんはこれからどうするの?」


「俺は普通の猫に生まれてみたいのニャ。だから、神様にお願いしてみるニャ」


ーLa finー

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