第23話飛べ!ぴーちゃん

【天上界女神の泉】


「あの者が今にも動き出しそうです」


「はい、女神様。私達も警戒しています」


「そいつが完全に復活しちまったら、どうなるんだよ?」


「どうなるもこうなるも、もう、最終戦争よ」


「あの、優しーい光の神が戦うのか?あいつで大丈夫なのかよ?」


「本気出してもらわないと、今度ばかりは猫魔に任せっきりってわけ行かないわ」


「本気って、出せるんならとっとと出せよな、ったくう」


【ザッハトルテ邸】


〈使用人が部屋のドアを開ける〉


「うん?居ない。小僧!どこだ?!逃げたか?」


【ヴェネツィーの城内公爵の部屋】


「失礼いたします。旦那様、小僧が逃げ出したようです」


「何?!探せ!探せ探せ探せ!探し出せ!」


【フランツの丘安藤千代子の猫茶屋】


「さあさ、どら焼きが出来たよ。猫魔お食べ」


「ありがとニャ」


「猫魔。今日の必殺技はどら焼き?」


「そう言や猫魔が本気で戦うような物の怪襲って来ないねえ」


「お婆ちゃん、面白がってる?」


「来なきゃ来ないに越したこたぁ無いけどさ」


「小倉餡うまうまニャ」


「そうかい、そいつぁ良かったよ」


「そう言えば小倉杏さんどうしてるかな?」


「ヴェネツィーで戦った時には居たが」


「敵になっちゃったんだよね?」


「そのようだ」


「って、光。いつの間にか来てどら焼き食べてるし」


「中々の美味」


「何が美味よ、調子狂っちゃうな。その言葉遣い何とかならないの?」


「およしよ七都。それでも、最初の頃よりマシじゃないか」


「婆ちゃんのお菓子は美味いニャ」


「あ、そうだ。ねえ、小倉杏さんて餡先生の友達なのよね?」


「越野餡と小倉杏。名前が同じで仲良くなったと言っていたな」


「そうそう。字が逆だったら面白いのにって思ったんだった」


「出来れば戦いたくないものだ」


「本当ザッハトルテ公爵って卑怯だよ。家族を人質に取るなんて」


【ヴェネツィーの練兵場】


〈ザッハトルテ家の使用人がバタバタと走り回る〉


「いったい何の騒ぎ?」


「あんたの弟が公爵様の屋敷から逃げ出したんだってよ。ここに来てるか探しに来たらしいぜ」


「何ですって?!」


「小倉杏、弟は会いに来なかつたか?」


「いいえ?私も探してみます」


「ああ、そうだな。弟の行きそうな所がわかるなら、当たってみてくれ」


「わかりました(あの子ったら、なんて危ないまねするのよ)」


【ヴェネツィーの街】


「(見つからないうちに、早くこの街を出ないと)」


〈裏通りを南に走る少年〉


【フランツの丘】


「ぴーちゃん、待ってー」


〈ぴーちゃんを追いかけて満が来る〉


【安藤千代子の猫茶屋】


「もう少しで飛べそうだね」


「うん、でも、飛べるようになったら、どこかへ飛んで行ってしまわないかしら?」


「ぴーぴー」


「行かないニャ」


「何で猫魔にわかるのよ?」


「ぴーぴー」


「行かないって言ってるニャ」


「あら猫魔ちゃん、鳥の言葉もわかるのね」


「鳥じゃなくて怪鳥だけどね」


「ぴー、ぴーぴー」


「「見てて、飛んで見せるから」って言ってるニャ」


〈ヨチヨチ歩きのぴーちゃん。飛び上がるが中々飛べない〉


「頑張れぴーちゃん」


「ぴー」


「もう少しニャ」


「ぴーぴー」


「まだ無理なのかしら?」


「失礼しますよ。千代子さんは居られますかな?」


「おや、侍従長さんじゃないか」


「この猫で宜しかったですかな?」


「ミミしゃんニャ!」


「本当だ。ミミ、生きてたのかい」


「何で侍従長さんがミミを?」


「ここへ逃げて来る途中ミミの事を話したんだよ「ハポネに置いて来ちまったから心配だ」ってね」


「騎士に頼んで探してもらいました」


「すまないね、ありがとう」


「ちょうど餡先生の療養所に荷物を取りに行く用事が有ったので、快く引き受けてくれましたよ」


「ニャー」


「「早く出して」って言ってるニャ」


「おお良し良し、今出してあげますよ」


〈侍従長は箱を開ける〉


「ニャー」


〈ミミが飛び出す〉


「ミャー」


「ぴー!」


「こらミミ、その子はダメよ!」


〈ミミに追いかけられて翼をパタパタするぴーちゃん〉


「ミャミャー」


「ぴーぴー!!」


「あっ、飛んだ!」


「ぴーちゃーん、帰ってらっしゃーい」


「ミ、ミミしゃん、ニャーなのニャ」


「ニャー?」


〈猫魔の言葉にミミはぴーちゃんを追いかけるのをやめる〉


「猫魔何て言ったの?」


「「その鳥は家族」って言ったのニャ」


「それでミミわかったんだ」


〈空を旋回するぴーちゃん〉


「ぴーちゃーん、下りてらっしゃーい」


〈ぴーちゃんは満の腕に下りて来た〉


【森】


「(この森を抜けたらフランツの町に行ける。俺達さえ居なけりゃ姉ちゃんはあんな奴らの言いなりにならなくたって良いんだ)」


〈森の中を走る少年〉


【ヴェネツィーの街】


〈街の中を馬で探し回る小倉杏〉


「(もしザッハトルテ家の人達に捕まったら、きっと酷い目に遭わされる。いいえ、今度は殺されるかも)」


【裏通り】


「どこにも居ない…まさか(あの子街を出たの?)」


【安藤千代子の猫茶屋】


「おーい、猫魔。川に魚獲りに行くぞ」


「あ、イサキさんニャ。俺も行くニャ!」


【フランツの北の森】


「猫魔が一緒だと森の奥まで入れるからな」


「美味しい魚を捕まえるニャ」


【川】


「あニャ?靴が落ちてるニャ」


「本当だ…魔物にやられてねえと良いがな」


「探すニャ!」


【川の下流】


〈川の中に人が倒れている〉


「あそこに誰か居るニャ」


「おーい、生きてるか?今助けてやるからな」


【フランツの丘餡先生の療養所】


「次の方どうぞ」


「はーい」


「何を鼻の下を伸ばしている。騎士たるもの」


「自分だって満ちゃんに会いに来てるくせに」


【施術所】


「もう、このぐらいの怪我で来る?騎士でしょう」


「いやあ、ばい菌、そうばい菌が入ったら大変な事になるからな、ハハ、ハハハ」


「みんな満ちゃん目当てね」


「満ちゃんは若くて可愛いからな」


「ウンウン」


「あらぁ、悪かったわね、若くなくてー」


「誰もそんな事は言っておらんが」


「いつも無口の光君が、こんな時だけボソッと言うのね」


「餡先生大変ニャ!」


〈玄関から猫魔の声〉


「急患?中に運んで!」


〈意識不明の少年が運ばれて来る〉


「そこへ寝かせて」


〈猫魔とイサキは少年をベッドの上に寝かせる。少年の顔を見る餡先生〉


「えっ?アイス?アイスじゃない。しっかりしなさい!」


「知ってる人か?」


「小倉杏ちゃんの弟よ。光君、毛布持って来て」


「承知した」


「満ちゃんはお湯を沸かして」


「はい」


「アイスしっかり!絶対に助けるから」


〈餡先生と光と満で冷え切ったアイスの身体を温める〉


「ぴー…」


〈心配そうに見ているぴーちゃん〉


「大丈夫よ。餡先生がきっと助けてくれるわ」


【ザッハトルテ邸】


〈小倉杏の妹が拷問されている〉


「お前の兄はどこへ行った!」


「知りません」


「言わんか!」


「キャー」


「殺さない程度にしておけよ」


【フランツの丘の療養所】


〈アイスが目を開ける〉


「気がついたわね」


「餡先生…ここは…どこ?」


「私の療養所よ。フランツに移ったの」


「俺は…どうしたんだろう?…そうだ、魔物に襲われて…逃げる途中足を滑らせて川に落ちたんだ」


「杏ちゃんはどうしてる?」


「姉ちゃんは、ザッハトルテの軍隊に居る。俺達が人質だから、仕方なくあいつらの言う事を聞いてるんだ」


「もなかちゃんは?」


「一緒に逃げようって言ったんだけど、怖いって。俺達が居なけりゃ姉ちゃんはあんな奴らの言いなりにならなくたって良いのに」


「アイスがここに居る事なんとか杏ちゃんに知らせられないかしら?」


「ぴーちゃんに手紙を持って行かせれば良いニャ」


「飛べるようになったからって、伝書鳩じゃないんだから」


「ぴー、ぴーぴー」


「「行ける」って言ってるニャ」


「ぴー」


「でも、どうやって杏ちゃんを探すの?」


「何か杏ちゃんの持ち物はにゃいのか?」


「姉ちゃんのハンカチなら有るけど」


「それの匂いを嗅がせるニャ」


「匂いって、犬じゃないし」


「ぴー、ぴーぴー」


「「出来る」って言ってるニャ」


「本当かしら?猫まんまちゃん、適当に通訳してない?」


「嘘じゃないニャ、本当にそう言ってるニャ」


【ザッハトルテ軍の兵舎】


〈二日後〉


「(アイス…本当にヴェネツィーを出たのかしら?外には魔物が居るのに)」


〈バタバタと窓の外から音が聞こえる〉


「なに?怪鳥?…の子供?」


「ぴー、ぴーぴー」


「それ…私のハンカチ。それは確かアイスが膝を擦りむいた時に…どうしてあなたが持ってるの?」


「ぴーぴー、ぴー」


「首にバッグ?何か…入ってるのかしら?…つついたりしないでよ」


〈小倉杏はぴーちゃんが首に下げている小さなバッグに恐る恐る手を伸ばす〉


「手紙?餡の字だわ…え?餡の療養所に?」


「ぴー、ぴーぴー」


「「ついて来い」って言ってるの?」


「ぴーーー」


「そうね、でもその前に…」


【ザッハトルテ邸】


「しぶとい娘だな、兄はどこに行った?うん?」


「やめ…て」


〈男はナイフでもなかの服の胸元を切り裂く〉


「い、嫌」


「言う事を聞くんだ」


〈男はベルトを外し、ズボンを下ろす〉


「嫌、嫌ぁ」


「殺さない程度に好きにしても良いんだ、俺の好きにしてもな」


「嫌、やめて、嫌ーー!」


〈バタン!とドアが開く。ドン!と男の尻が蹴られる。ズボンが足に引っかかって無様に倒れる男〉


「みっともないわね、その汚いお尻を早くしまいなさいよ」


「痛てて、何しやがる」


「良くも私の可愛い妹にこんな酷い事をしてくれたわね」


「このメスブタ、ただですむと思うなよ」


〈杏は剣を抜く〉


「大事な所を切り落とされたくなかったら、とっとと消えなさいよ」


「ひえー」


〈男はズボンを引っ張り上げては何度も転んで逃げて行く〉


「お姉ちゃん」


「もなか、さあ、行くわよ」


「行くってどこに?」


「こんな所にいつまでもあなたを置いておけない。さあ、早く」


【屋敷の外】


〈小倉杏は妹の小倉もなかを馬に乗せて走り出す〉


「逃げたぞ!追えーー!」


〈屋敷から追っ手が出て来る〉


「ぴーーー!!」


〈ぴーちゃんが空から男達の頭を掠める〉


「うわっ、怪鳥だ」


【ヴェネツィーの街】


〈杏の馬は街の北から南門へと走り抜ける〉


【南門の外】


〈上空からぴーちゃんが来る〉


「さあ、先導してちょうだい。ついて行くわよ」


「あの子、お姉ちゃんの友達?」


「うん、ついさっき友達になったわ。名前は…確かぴーちゃんて書いて有った」


「ぴーちゃん、ありがとう」


「ぴー」


【ザッハトルテ邸の前】


「何をしている!?追え!」


「しかし、あの怪鳥が」


「怪鳥だ?まだ子供だろ」


【ヴェネツィーの南の洞窟】


「あいつらきっと追いかけてくるわね、上手く巻かないと。そこに入るわよ」


「ぴーちゃーん、おいでー」


「ぴー」


〈ぴーちゃんも地上に下りて一緒に洞窟に入る〉


「ぴーちゃん、越野餡はどこに居るの?」


「ぴー、ぴーぴー」


「「ついて来ればわかる」って」


「もなか、怪鳥の言葉わかるの?」


「何と無くそう言ってる気がする」


【フランツの丘の療養所】


〈二日後〉


「ぴーちゃん、ちゃんと行けたかしら?」


「信じて待つしか無いわね」


「迎えに行くニャ」


【フランツの丘】


「おや、猫まんま。どこ行くんだい?」


「餡先生の友達を迎えに行くニャ」


「お腹空いただろう?これ持ってお行き」


「にゃは、婆ちゃんありがとニャ」

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