第22話皆んなの家が出来たニャ

【宿屋の客室】


〈ベッドメイキングをする宿屋の娘フィナンシェと母親。父親の呼ぶ声がする〉


「フィナンシェ。おーいフィナンシェ」


「お父ちゃん、ちょっと待って。もうすぐお客様がみえるから、ベッドメイキング終わらせないと」


「ここだったか。そんなのお母ちゃんに任せて早く来なさい」


〈娘を引っ張る父親〉


「もう、お父ちゃん。何よ?」


「フィナンシェ様がおいでになってるんだよ」


「え?」


「お前を待ってる。さあ、早く」


「おっちょ、わっ」


【宿屋のロビー】


〈宿屋の主人が娘を引っ張って来る〉


「ショコラ。本当にわたくしの妹なのね」


「王妃様の指輪は有るのかね?」


「は、はい、ございます!こちらです」


〈宿屋の主人は王妃の指輪を侍従長に渡す〉


「間違い無い。これは王妃様の物です。では背中のホクロは?」


「わたくしが拝見致します」


〈女官長が宿屋の娘の背中のホクロを調べる〉


「ございました。フィナンシェ様と同じ所に、確かにございます」


「ショコラ、わたくしの妹。城で一緒に暮らしましょう」


「えっ?そ、そんな…」


〈ショコラが父親の顔を見ると、寂しそうに頷く〉


「お父ちゃん」


「フィナンシェ、いえ、ショコラ姫。これまでお世話させて頂き光栄です。どうぞ貴女様のたった一人のお姉様の所へお帰りください」


【古城近くの建設現場】


「木を切って来たニャ」


「おお、お帰り。ありがとよ猫魔」


「お父さん、私カンナさん呼んで来る」


「カンナさんて誰ニャ?」


「船大工だよ」


「船が出来たら、美味しい魚たくさん獲って来てほしいニャ」


「まかせろよ。木を切って来てくれたお礼に、猫魔には好きなだけ食べさせてやるさ」


「にゃは」


【宿屋の娘の部屋】


〈母親が来る〉


「お父ちゃんとお母ちゃんね、中々子供が出来なくて、やっと生まれたのが女の子だった。ちょうどその同じ月にフィナンシェ様がお生まれになってね、うちの子も同じ名前にしたんだよ。それがね…産まれてすぐに死んじまってさ、あたしゃ毎日泣いて暮らしたよ」


「そんな事が…」


「そしたらお父ちゃんがお前をつれて来て「ほら見ろ、フィナンシェは生きてる」って…」


「(本当にあたし、お母ちゃんの子供じゃないの?)」


「それからお母ちゃんは、フィナンシェは死んじゃいない、この子がフィナンシェなんだって…そう思い込んだのさ」


「お母ちゃん…あたしはフィナンシェよ。お父ちゃんとお母ちゃんの娘。どこへも行きゃあしないわ」


「フィナンシェ、良ーく考えてご覧。フィナンシェ様は、お小さい時にお母様を亡くされて、そしてついこの間お父様も亡くされたんだ。お前がたった一人のお身内なんだよ」


「お母ちゃん、あたし」


「なーに、お母ちゃんにはお父ちゃんが居るから心配はいらないさね」


【古城近くの建設現場】


〈シイラがカンナを連れて来た〉


「女の人ニャ」


「ああ、そうさ。カンナは腕の良い船大工だ」


「うん、良い木だね。早速削るわよ」


〈カンナは道具箱からかんなを取り出した〉


「猫魔、何キョロキョロしてるの?」


「一人で船を作るのかニャ?ノミさんとかノコさんは来ないのかニャ?」


「あ、大工さんぽい人が二人」


「遅くなったな、カンナ」


「道具箱持って来たぜ、何手伝うんだ?」


「ノコさんは、この木を切ってほしいの」


「よっしゃ!」


「ノミさは、そこんとこ削って」


「はいよ」


「にゃはは、本当にノミさんとノコさんニャ」


「猫魔知ってたの?」


「知らないニャ」


【フランツの町】


〈フィナンシェは侍従長と女官長と一緒に町を見物している〉


「ショコラ一緒に来てくれるかしら?」


「急な話しで心の整理がつかないのでしょう。少し時間を差し上げてはいかがです?」


「随分と賑やかですな。いったい何が始まるのでしょうね」


「女王陛下が来られたお祝いのお祭りなんです」


「ショコラ」


「南のお城に女王陛下が来てくださって、町の皆んな本当に喜んでるんですよ」


「女王陛下ではなくて、お姉様でしょう」


「そんな、恐れ多くて…」


「わたくし達は姉妹なのよ。さあ、お姉様とおっしゃい」


「はい…お姉様」


「フフフ」


〈花火が上がる。町の人達は踊り歌う〉


【宿屋の前】


〈翌日王家の馬車を見送る宿屋の夫婦。馬車が見えなくなるまで見送っている〉


「行っちまったな」


〈今にも泣き出しそうな妻を抱き寄せる夫〉


【古城】


「さあさ、これをお召になってください」


「キャー素敵なドレス!でもどうやって着るの?あたしこんなの着た事無いから」


「「あたし」ではありません「わたくし」です」


「あ、はい…わた…くし」


「着せて差し上げますから、心配入りませんよ」


「コルセットなんて窮屈で嫌です」


「フィナンシェ様のドレス、サイズがぴったりで、本当に双子ですね」


【バルコニー】


「フー…(お父ちゃんとお母ちゃん、どうしてるかな?)」


「ショコラ様」


「(いつになったらフィナンシェ様、じゃなかった、お姉様に会えるのかしら?)」


「ショコラ様、ショコラ様」


「え?あ、あたしの事だ」


「「あたし」ではございません「わたくし」です」


「あ、はい、わたくし」


「お食事のお作法をお教え致しますので、どうぞこちらへ」


【ショコラの部屋】


「こんなにたくさんナイフやホークが並んでる。あたし、じゃなかった、わたくしの所の宿屋じゃ、せいぜい使っても一本か二本なのに」


「ナイフとフォークは、外側から使うのです」


「じゃあ、これは何に使うの?」


「そちらはデザートフォークです」


〈料理が運ばれて来る〉


「どうぞ、召し上がれ」


「え?ここで食べるの?女王様、じゃない、お姉様と一緒じゃないの?」


「正しいお作法を覚えなくては、フィナンシェ様と同じテーブルに着く事は出来ません」


「(えーっと、外側から使うんだったわよね)」


〈ショコラは食事を始める〉


「お水が飲みたい」


「では、ナイフとフォークを置いてお飲みください」


〈食べ残したお皿が下げられる〉


「あ、まだ食べてるのに」


「食べている途中ならば、こうしてナイフとフォークを八の字に置くのです」


〈そして…〉


「ごちそうさま」


「では、このようにナイフとフォークを揃えてください」


「(フー…こんな窮屈なドレスを来て食べても味なんてわかんないわ)」


【寝室】


〈天蓋付きのベッドに飛び込むショコラ〉


「わー、フカフカ。うちの宿屋のベッドとは大違いだわ。あー疲れた。窮屈なドレスにお作法、それに言葉遣い。ふー…明日はお姉様に会えるかしら?」


〈ショコラは疲れていたのかベッドに入るとすぐに眠ってしまう。そして翌朝。窓から朝の光が差し込む頃〉


「ショコラ様。起きてください。いつまで寝ていらっしゃるのです」


「ふぁ〜眠い」


「なんですか、大あくびなんてはしたないですよ」


「女官長様」


「わたくしに様は必要ありません」


「あ、そうか」


「フィナンシェ様がお待ちでございます」


「えっ?わっ大変!」


〈飛び起きるショコラ。慌てて部屋を出ようとする〉


「お待ちください。そのような姿で出歩かれては困ります」


「え?あ、そうか」


「お座りください」


〈小間使いがショコラの髪を結う〉


【庭園】


「お天気が良いので、フィナンシェ様の仰せで庭にお食事をご用意致しました」


「うわー、美味しそうだね」


「今のうちに食っとかねえとな。家が出来たらもうこの城に入れてもらえねえかも知れねえからな」


「え?そうなのかな?」


「ここを出たら、こんなすげー料理そうそう食えねえぜ」


「もう、くりきんとんたら」


「フィナンシェ様のお出ましにございます」


「皆さんおそろいですわね」


「ショコラさんは?」


「お、遅くなりました!」


「うわー、ショコラさん綺麗」


「ああ、こうやって見ると本当に双子だな」


「お食事の後は、サロンでクラブサンの演奏を聴きましょうね」


【サロン】


〈皆んなでクラブサンの演奏を聴いている〉


「眠くなっちゃいそうだよ」


「音楽が気持ち良いからじゃない?」


「満は気持ち良いの?私は退屈。猫魔なんか既に寝てるし」


「ふぁ〜、あ、いけない」


〈あくびをしそうになって慌てるショコラ〉


「フフフ、この曲はね不眠症の伯爵の為に演奏されたのよ」


「それじゃあ良く眠れたでしょうね(あー、お姉様と一緒に居られるのは嬉しいけど、毎日こんな生活じゃ退屈だわ。お父ちゃん達どうしてるかな?)」


〈そして、三日が過ぎた〉


【廊下】


「ああ、退屈だな、皆んなどこに居るんだろう?こう広くちゃ迷っちゃうよ」


「ぴー、ぴー」


「あれ?今の満さんのペットのぴーちゃんの声かな?」


【満達の部屋】


〈ショコラは入り口からそーっと中を覗く〉


「何だ、誰も居ないじゃない」


「ぴー」


〈ぴーちゃんがヨチヨチ歩きで出て来る〉


「ぴーちゃん」


「ぴー」


〈ショコラはぴーちゃんを抱っこする〉


「お父ちゃんとお母ちゃん、どうしてるかな?」


〈目に一杯涙を溜めているショコラ〉


「ぴー?」


〈一粒の涙がこぼれる〉


「家に帰りたい」


「ぴー…」


【丘の上の建設現場】


「さあ、完成だ!」


「家が出来たぞ!」


「わーーー!」


【イサキとシイラの家の前】


「俺の船もそろそろ出来る頃だろう」


「見に行くニャ」


「うん、行こう」


〈シイラは猫魔と手を繋いで走る〉


【古城の裏の湖】


〈船大工のカンナとノミとノコが船を作っている〉


「本当にもうすぐ完成ね」


「よう、シイラちゃん」


「しっかし、ここはお城の庭だろ?良く入れてくれるよな」


「私達はフィナンシェ様のお友達だから、ご好意でお父さんの船をここにに置かせてもらえるの」


「まあ、あちこちで騎士が目光らせてるけどよ」


【城のサロン】


「ガヤガヤ、ガヤガヤ」


〈フィナンシェと親しい市民達が集まっている〉


「フランツに移り住んだ人達は、もう慣れたかね?」


「あたし達の家も出来たってよ」


「本当かい?」


「店もすぐに出せるようになってるよ」


「うちは明日にでも始められるように準備しといたんだよ」


「杵さん」


「おっ、なんだい?ミルフィーユ」


「杵さんは金物屋さんでしたよね?」


「おうよ」


「フランツの町には武具屋が無くて、騎士達が困っているのですが、武具を扱ってもらえないでしょうか?」


「そうだな、材料さえあれば作れねえ事もねえけどよ」


「モンスター素材なら、時々取れるようですが」


「ま、猫魔にも手伝ってもらうとするか」


「満ちゃん、明日から療養所手伝ってもらえる?」


「はい、大丈夫です」


「ここはハポネと違って、騎士さん達が居るからね。あの人達は生傷が絶えないから、忙しくて仕方ないわ」


「フィナンシェ様のお出ましにございます!」


「皆さん、お家が完成して良かったですね」


「フィナンシェ様のおかげですよ」


「皆さんがこの城から出てしまうと寂しくなりますね」


「もう、フィナンシェちゃんたら。お城の門を出たとこの丘の上じゃない」


「そうね、それではまた城を抜け出して皆さんに会いに参ります」


「オッホン」


「もう、嫌な爺」


「その時は、お供を付けて堂々とおいでなさいませ」


「(あたしも帰りたいけど、皆んながここを出てしまったらお姉様が寂しがるし、今は無理ね)」


【バルコニー】


「行ってしまったわね…」


「(ああ、お父ちゃんとお母ちゃんどうしてるかな?あたしが居なくて人手足りてるかな?)」


「ショコラ」


「(お母ちゃん、また腰が痛くなっちゃうよ)」


「ショコラどうしたの?」


「え?」


「どうしたの?ぼんやりして」


「え?うん…」


「そろそろホームシックになる頃ではなくって?」


「えっ?あ、うーん」


「やはり、そうなのね」


「ごめんなさいお姉様。わたくし…あたし、お父ちゃんとお母ちゃんが心配で」


「そう…」


【丘の上】


「さあ、今夜はお祝いだよ。団、ワインの樽を開けとくれ」


「良し来た」


「皆んなジャンジャンやっとくれよ」


「お城の料理も美味かったけど、やっぱり時さんの料理が口に会ってるね」


【フランツの町】


〈翌朝畑で作物を収穫する宿屋の夫婦〉


「あー、腰が痛い」


「ほらほらお母ちゃん。あたしがやるから」


「フィナンシェ!じゃない、ショコラ姫」


「どうして帰って来たんだ?」


「お姉様がね、寂しいなら帰って良いって言ってくれたの「でも貴女はわたくしの妹なのです。それだけは忘れないでください」って」


「お前、それで帰って来たのか。フィナンシェ様お寂しいだろうに」


「遊びに行くわよ、だって姉妹だもん。今日からあたしは宿屋のショコラよ」

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