第19話腹減って戦闘不能?
【川】
「うわー綺麗な川だね」
「魚が見えるぞ」
「美味そうニャ」
「今釣ってあげるから待ってて」
「見えるんだからよ、猫魔なら手掴みで獲れねえか?」
〈ビシャ!と大きな音と水しぶき〉
「あ、もう、猫魔!魚が皆んな逃げちゃったよ」
「何だよ、あんなでっかいドラゴンやっつけた奴が魚も獲れねえのか?」
「それとこれとは別なんじゃない?」
「ンニャ…シイラが釣ってくれるの待てば良かったニャ」
【ヴェネツィーの北の城門】
〈北の城門からザッハトルテの軍隊が次々と入って来る。騎士達が戦っている〉
「この先一歩も通さん!」
「えーーーい!」
「ターーー!」
【南の城門】
「さあ、早く!早く門を出られよ!」
〈パンが市民を誘導している〉
「パンちゃん」
「時おばちゃん、さあ早く行ってください」
「パンちゃんも一緒に行くんだろ?」
「はい、父上ももうじき参ります」
「そうかい、あんたも無事においでよ」
〈頷くパン〉
「さあ皆さん!早く!」
「俺達の家はどうなるんだろう?」
「あたしゃフィナンシェ様について行くだけさ」
【北の城門】
「やーーー!」
「とりゃー!」
「(そろそろ良い頃か)引けーい!」
〈騎士達は退却する〉
「見ろ、近衛騎士隊が逃げて行くぞ」
「ハッハッハ、なんと無様な」
【メインストリート】
「誰も居ねえな」
「皆んな逃げちまったんだろ、あんなでっかいドラゴンが来ちゃあな」
「ドラゴンに食われちまったってか?」
「ハッハッハ」
【闘技場】
〈兵士達が入って来る〉
「ひどい有り様だな」
「奥も確認するぞ」
「くそう!ドラゴンがやられてるぞ」
「まさか」
〈そこにはドラゴンの巨体が横たわっていた〉
【裏通り】
「この辺りも人は居ねえな」
「フィナンシェ女王は捕らえろとのご命令だ」
「城へ急げ!」
【王宮】
「ドリアン男爵。城内隈無く捜索しましたが、蛻けの殻です」
「まあ良い、これからここはザッハトルテ領となるのだ。公爵様もじき到着される」
【メインストリート】
〈星のカーニバルの屋台がちらばっている〉
「汚いわね、片付けるわよ」
「我々でやるのですか?」
「私達がやらないで誰がやるのよ?」
〈渋々街を片付ける兵士達。城の方を見上げる小倉杏〉
「(フィナンシェ様はご無事かしら?餡ちゃんや光は?皆んなどうしてるのかしら?)」
【南の森】
「この森を抜けるとフランツの町だよね?」
「そうです」
「ここにも魔物が出るんだろうね」
「猫魔が居るから大丈夫だ。光だって居るしな」
「え?今の光はすっかり優しくなっちゃって「戦いは嫌い」なんて言うじゃない。あれで良く剣術大会勝ったよね」
「(今の光はすんげー魔法使うんだぜ。あの頃の光とは違うんだよ)」
【王宮の玉座の間】
〈ザッハトルテ公爵が玉座に座っている〉
「この国は私が治めるのだ。この国の王はこの私だフハハハハ、ハハハハハ」
「公爵様」
「これからは私を皇帝と呼べ」
「はっ、皇帝陛下。城内隈無く探しましたが、フィナンシェ女王は疎か侍従や女官、小間使いまで姿を消しております」
「何だと?ええい何をしておる!探せ!街中虱潰しに探せ!探し出せ!!」
【南の森】
〈魔物と戦いながら歩く猫魔〉
「猫魔が強いから、くりきんとんなんか出る幕無いね」
「なんだよ、その「なんか」って。それに、俺の名前はくりがねだん。くりきんとんじゃねえって言ってんだろ」
「もう、今更…くりきんとんで良いじゃない」
「シイラまで言うか?ったく」
「ンニャ…腹減って戦闘力落ちたニャ」
「猫魔が川に飛び込んだりするから魚が逃げちゃったのよ」
「スマン、俺が手で捕まえろなんて言ったからだ」
「何か食べないと戦闘不能になるニャ」
「魔物でも食べる?」
「おっ、良いなそれ。食えそうな魔物捕まえたら俺が料理してやるぜ」
〈しばらく戦いながら進む〉
「食べられそうな魔物なんて居ないね」
「俺はもう限界ニャ」
「そこら辺の木の実でも食って我慢しろ」
〈猫魔がピョンピョンと木に登り上で揺すると木の実が落ちて来る〉
「うおっ!すげー。ほんじゃ頂き」
「ちょっと待ちなさい、それは」
〈パクッ。餡先生が全て言い終わる前に栗金団は木の実を口に入れた〉
「うげっ、渋っ、ゲホッゲホッ」
「だから言ったのに、その実を食べると舌が痺れるのよ」
「それを早ふ言っへふへ、はへはへ」
「ごめんニャ、くりきんとん」
「良いっへ事ひょ」
「猫魔が悪いんじゃないよ。くりきんとんが食い意地張ってるからだよ」
「食べれると思って、俺が落としたからニャ。大丈夫か?」
「まだひひへへふ」
「時間が経てば治るわよ」
「本ほは?」
「ええ、毒じゃないから大丈夫」
「死にゃあしないよ」
【山道】
〈騎士達が市民を守りながら移動している〉
「年寄り子供に注意しろ。場合によっては馬に乗せてやるのだぞ」
「はっ」
「(餡どのはご無事だろうか?今頃はフランツの町か?それともまだ森の辺りか?いや、いかん。私とした事が、フィナンシェ様より先に餡どのの心配をするとは…)フッ(どうかしているな)」
【南の森】
「おっ!美味そうな鳥が飛んで来たぞ」
「あれは怪鳥よね?」
「どこが美味しそうなのよ?」
「焼き鳥にしてやる」
「本当に食べられるの?」
「って、猫魔早っ、もう倒しちゃった」
「くりきんとん、早く料理するニャ」
「は…食べたくて速攻で倒したわけね」
「ちょっと待って、毒を持ってないか見てからよ」
「いくら腹が減ってても餡先生の言う事は聞かねえとな、ひでえ目に遭うぞ」
「うん、大丈夫。毒は無いみたい」
「んじゃ、料理すっか。そこのでっかい葉っぱ取って来てくれ」
〈栗金団は怪鳥を捌いている。そこへバサッと大きな葉っぱの束が置かれる〉
「うわっ」
「これぐらいでどうニャ?」
「多過ぎるわい!ったく」
〈栗金団は葉っぱに埋もれている〉
「早くどけろ、身動き出来ねえ」
「餡先生、この木の実は食べられるかしら?」
「見せて…あ、大丈夫。食べられるわ」
「どれ?」
〈栗金団は満が取って来た木の実を口に入れようとする〉
「あ…」
〈その手が止まる〉
「そうか。危ねえ危ねえ」
「猫魔、食ってみろ」
〈猫魔はパクッと木の実を口に入れる〉
「うっ」
「やっぱりか。俺やめといて良かった」
「団ちゃんひどい」
「うっ」
「猫魔大丈夫?」
「うっ、美味い」
「もう、なんだ。びっくりさせないで」
「さっきみてえな事が有るから俺は遠慮したが、お前何の躊躇もなく良く食うな」
「俺は餡先生の言葉を信じただけニャ」
「あーら猫まんまちゃん。良い子ね」
「ニャは、くすぐったいニャ」
「うん、これは美味い。んじゃ、この実を使って怪鳥を焼くか」
〈熱く焼いた石の上に葉っぱに包んだ怪鳥の肉と木の実を置いて蒸し焼きにする〉
「良い匂いがして来たニャ」
「もう少しで出来るからな、待ってろよ」
「早く早く、早く出来ないかニャ」
「この卵見て」
〈満がどこからか魔物の卵を見つけて来た〉
「でっかい卵だな、卵焼きにでもすっか」
「えっ?」
「美味そうにゃニャ」
「何人分作れるかな?」
「これはダメよ。食べないで」
「魔物の卵って美味しいの?」
「食ってみりゃわかるだろ」
「意外と美味しかったりして」
「早く焼いてみるニャ」
「もう皆んな…食べないでって言ってるのに…あっ」
「何だ?どうした?」
「やっぱり」
「え?何がやっぱりなの?」
「ほら、ヒビが入ってるの。きっともうすぐ生まれて来るんだわ」
「どれどれ?あ、本当だ。って、これ魔物の卵だよね?」
「うん、そうだと思う」
「いや、思うって、こんなデカイ卵どう考えても魔物だろ」
「生まれて来ちゃうんだよね?魔物」
「食ってやる、丸焼きだ」
「え?そんな…可哀想よ」
「可哀想って、魔物だぜ」
「それはそうだけど…」
「おい、焼けたぞ。まあそいつは後にして、食っちまおうぜ」
「(これはこうして抱えてないと、本当に食べられちゃうわ)」
【山道】
「あたしゃもう歩けないよ、ここに置いてっとくれ」
「何言ってんだよ千代子婆ちゃん。置いてなんか行けっかよ。ほれ、手貸してやるから頑張って歩け」
「ありがとよ、杵さん」
「七都達はもう古城に着いたかな?」
「そんなに早く着かないだろうよ」
「あたしも肩を貸すよ」
「ああ、ありがとよ、臼さん」
〈三人の様子を見ていたパンが近づいて来る〉
「私の馬にどうぞ」
〈パンは自分の馬から降りる〉
「乗れったってどうやって乗るんだい?」
「私の手に足を乗せてください」
「え?そんな…良いのかい?」
「大丈夫です」
〈パンは千代子婆ちゃんを馬に乗せる〉
「馬の上ってこんなに高いのかい。何だか怖いね」
「大丈夫ですよ、私が付いていますから」
「おや、パンちゃん。立派な騎士になったね」
「時おばさん。私はまだペイジですよ」
【南の森】
「あー、食った食った。怪鳥の肉なんて初めて食ったが、意外と美味かったな」
〈猫魔が満の抱いている卵を食べたそうに見ている〉
「卵焼きニャ」
「やだ、猫魔ちゃんたら。この子はダメよ」
「猫魔まだ食う気か?俺はさすがに腹一杯だぜ」
「貴方達良く食べたわね」
〈辺りには骨が転がっている〉
「餡先生は、酒が無くて残念だったな」
「お酒なら城に行けばいくらでも有ります」
「あら、楽しみだわ」
「大丈夫よ、食べたりしないからね。今はみんなお腹一杯だから…お腹が空いてたら本当に食べちゃいそうだわ」
「満、凄い怖いのが生まれたらどうする気?」
「それは…大丈夫よ。魔物だってきっと赤ちゃんの時は可愛いわ」
「いや、そうかな?」
「赤ん坊の時は可愛いくたってよ、そのうちでーっかくて恐ろしい魔物になるんだぜ」
「そんなの育ってみないとわからないわ」
「いや、だから育てる気?」
「あっ」
「今度は何?」
「中から殻を破ろうとしてる」
「えっ?生まれちゃうよ、どうすんの?」
「よっしゃ、丸焼きだな」
〈栗金団は包丁を持って料理の準備をしている〉
「もう、皆んなひどい」
「どんな魔物が生まれるのかしらね?」
「餡先生、面白がってます?」
〈餡先生はニコニコしている〉
「大丈夫よ。まあね、いざとなったら猫まんまちゃんも居るし」
〈コツコツコツ、メリメリメリと卵の殻が音を立てている〉
「もう少しよ。頑張って」
「あ、少し割れた!中が見えるかな?」
「何か…クチバシが有る感じか?」
「じゃあ、鳥獣って事?」
「まさか!さっきこの子のお母さんを食べちゃつたの?私達」
「そうかもな」
「可哀想に、ちゃんと育ててあげるからね」
「って!まだそうと決まったわけじゃないからっ!」
「おっ!頭が出て来た。益々さっきの鳥獣の子供ってか感じがするぞ」
「どんなんだったっけ?」
「いや、忘れたけどよ」
「もう、団ちゃんたら、その包丁しまって。この子は食べませんから」
「ピヨピヨ」
「何か鳴いてないか?」
「ピヨピヨピヨ」
「本当だ」
「鳥には違い無いな」
「焼き鳥にするニャ」
「猫魔ちゃん」
「冗談ニャ」
「ピヨピヨ」
「頑張って」
「頑張れ」
「もう少しよ」
「ピヨピヨ、ピヨピヨ」
「よっしゃ!出た!」
「可愛い」
「本当可愛いわね」
「城に大きな鳥かごを用意します」
「ありがとうフィナンシェちゃん」
「って、本当に育てるつもり?」
「魔物のペットか?」
「だって、一人じゃ生きられないもの」
「でーーーっかくなるんだぞ」
「わかってます」
「満ちゃんの事親だと思ってるみたいよ」
「大丈夫よ。ちゃんと育ててあげますからね」
「んじゃ、そろそろ行くか」
「フランツの町で一休みしようよ」
「って、シイラちゃん。まだ生まれたばっかりだから魚は無理だよ」
「あら、食べた」
「えっ?」
「さすがモンスター」
【フランツの町】
「はぁ、やっと着いた」
「もう歩けないよ」
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